8月20日(金) セルリアンタワー能楽堂
能 『自然居士』 (観世流 銕仙会 梅若会 九皐会)
シテ(自然居士)観世銕之丞 子方(少女)安藤継之助 ワキ(人商人)殿田謙吉
アイ(門前ノ者)茂山茂
笛:杉信太朗 小鼓:大倉源次郎 大鼓:河村大 地頭:梅若紀彰
面:紹介ないが、「喝食」か。
(休憩)
ご挨拶 杉信太朗 茂山七五三
一調一管 『安宅』
謡:観世喜正 笛:杉市和 大鼓:亀井広忠
狂言 『狸腹鼓』 (大蔵流 茂山千五郎家)
シテ(狸・伯母)茂山逸平 アド(喜惣太・漁師)茂山千之丞
笛:杉信太朗 小鼓:田邊恭資 大鼓:大倉慶乃助 太鼓:大川典良
第3回が一昨年の8月。去年が中止になって、今年開催。場所は同じセルリアンタワー能楽堂。
渋谷は凄いことになっていて、何だか良くわからない開発。道順などが、大学生時代とはまったく違って、困惑は、前回と同様。
杉信太朗笛方は、一昨年の会以降気になっている。今回は、師匠紀彰先生がシテを勤めないけど、地頭だし、参加した。
かなりの能楽愛好者しか集まらないような会で、出演者も緊張するのではなかろうか。見所もプロ的な感覚で、こちらのド素人も安心する。
能『自然居士』、初めて。
ストーリーはわかりやすい。京の雲居寺造営の寄進のために、自然居士が説法を行っていると、そこに可愛い女子(子方)が出てきて、小袖を寄進し、父母の追善を願う。するとそこに人商人(ワキ)が2人出てきて、その子は買った女の子だからと連れ去る。何とかしようとシテ自然居士。後を追って、琵琶湖のほとりで追いつき、何やかや言ってとどめる。困った人商人は、そのまま返す訳にも行かないから、シテ自然居士をなぶってやろうと、さまざまな芸を要求。舞。簓。羯鼓。最終的に、取り戻しに成功する。
シテの銕之丞先生。やや声が擦れていたけど、さすがの美しく、しっかりした、ブレない舞。
子方の安藤継之介、2016年生まれだから5歳か。可愛い。登場してきたときは、緊張からか泣き顔にも見えて、目付柱付近で下に居の時は、固まったみたい。喋る場面がなくて良かったね。
地頭に紀彰先生が入って、思いっきりの声で謡うと、地謡全体がキチンと纏まって、凄い迫力。副地頭の観世喜正師も負けていない。地頭が出来ると、シテ方も、囃子方も安心するだろうな、と思う。見所は勿論。
小鼓の大倉源次郎先生。いつも入場時から格好いいのです。勿論演奏中も格好いい。格好良さで痺れるのも、お能の楽しみの一つ、出来の良さの表れではなかろうか。
勿論、杉信太朗。若いのに、よくやっている。おしゃべりは苦手なようだけど、笛は出来るって感じ。人間国宝に負けず、物怖じしないのは、この前の会の時も同じ。
ご挨拶の杉信は、噛み噛みで、可愛いのです。笛を吹くときの自信を持った顔つきとは違う。狂言『狸腹鼓』の解説で、茂山七五三も出てきて、解説してくれた。
作者は井伊直弼。井伊家のお能の会の時、年代や月日まで言っていたけど、よく覚えている。シテの茂山なんとかが突然倒れて、地頭をしていた茂山千五が立派に何事もなかったかのように代役を勤めた。それを見ていた、当時は城主ではないが側近だった直弼が、ごろう、抱える、と宣言して以来のお付き合いだそうで。本名は千五なのだけど、五の字が吾で、下の口をロと思ったか、センゴロー、っと呼んだので、以来、千五郎になったとか。
そして、茂山千五郎家では、極めて重い習いの曲になった。『花子』と『釣狐』と、この『狸腹鼓』の3曲だけ。一子相伝だったが、いまややや拡張してきているものの、茂山千五郎家のだけの曲。
一調一管『安宅』は、観世喜正師。ファンなのです。実に良い声で、素晴らしく謡う。最後の部分。弁慶の男舞の箇所は、笛と小鼓だけで。これも解りやすい曲。
狂言『狸腹鼓』、初めて。解説した七五三は後見に控える。
狸狩りに精を出し、面白くて仕方がないアド喜惣太。弓矢を構えて登場。困ったシテ狸は、伯母のフリをして尼の格好で現れて、諫めようとする。一旦は成功するが、見破られてしまって、シテ狸(尼姿)が弓矢で追い詰められて、殺されそうになる。
ここで、狸姿に早替わり。気が付かなかったけど、尼衣と頭巾の下に、狸のぬいぐるみを着ていたのだね。橋掛かりで、頭巾を被って何やらやっているなあ、と思ったら、面を替えていたのです。さっと、尼衣を脱ぎ去ると、狸そのままが登場。ずっと着ていて、暑かっただろう。
なぶるか、殺すかで、狸の腹鼓を披露。アドも楽しくなって一緒に転げたり。油断の隙を突いて、シテ狸が弓矢を取り上げて、逆転。しかし、殺そうということはなくして、威しただけで、弓矢を置いて逃げ去る。殺生を禁じているのです。平和派=殺生禁断の狸と尼。戦闘派=殺生大好きの喜惣太と漁師。近隣の田畑の持ち主には喜ばれるが、狸、尼は殺生禁断を訴える。
囃子方も入って、お能に近い狂言で、良かった。
最後の挨拶に、茂山逸平がぬいぐるみで、面を取って、汗を拭きつつ登場。自身2回目だというが、そう何回も出来る曲ではない、と。そうだろうな。いつものあの逸平の顔と声で。テレビ出演しつつ、こうした古典芸能の大曲を勤めるのは、さすが。
立派な出演者が揃い、力を込めて演ずると、素晴らしい会になる。
感覚的には、眠くなるかどうか。イライラしてくるかどうか。集中できるかどうか。
次回の杉信の会第5回は、再来年、京都だそうで。杉信さん、京都に中心を移すのかな。京の能楽関係者から引っ張りだこか。もともと京都出身だし、茂山家とも関係が深そうで、逸平からは可愛い弟、などといわれていたし。
残念だけど仕方がないか。京都まで杉信の会は多分見に行けない。紀彰師も出演しないだろうし。