7月28日(水) 国立能楽堂

仕舞 『井筒』 野村幻雪

    『藤戸』 観世銕之丞

狂言 『武悪』 (大蔵流 山本東次郎家)

  シテ(武悪)山本東次郎 アド(主)山本則重 アド(太郎冠者)山本凜太郎

(休憩)

能 『屋島』・大事・那須與市語 (観世流 宗家・銕仙会・九皐会)

  シテ(老漁夫 義経の幽霊)観世清和 ツレ(漁夫)坂口貴信 ワキ(旅僧)宝生欣哉

  アイ(屋島の浦人)野村万蔵

  笛:杉信太朗 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井忠雄 地頭:観世銕之丞

  主後見:野村幻雪

附祝言 『千秋楽』

 

前日のお稽古が18時から22時までの4時間に及び、疲労と睡眠不足で、眠い。でも、今回は素晴らしい出演者と番組なので、頑張ってくる。

チケット取ったときは、いつもの安い席が取れずに、脇正面になってしまったのに、現実の見所は空いている。キャンセルが多かったのだろうか。当日券ありの表示もあった。見所も自分の目当てだけに来ている方も多くて、左隣は、前半で帰ってしまった。右隣は前半空席だったのに、後半のお能になったら来ていた。

 

仕舞『井筒』、人間国宝野村幻雪。久しぶりに拝見させて貰った。ここは緊張して眠らない。やはり足腰がお悪いのか、下に居で始まらず、登場して立ったままで開始。声も弱いし、手も震えるけど、これで良いのです。工夫があれば、見応えがあるのです。不満はない。満足です。

『藤戸』は、銕之丞さんの仕舞で、さすがまだ若いなあ、と思っていたら、寝てしまった。勿体ない。

 

狂言『武悪』。55分もの大作で、ほとんど能。2019年1月の狂言堂で観たのが初めて。その時はシテ(武悪)が山本則孝だったが、他の、アド(主)、アド(太郎冠者)は同一役者。2021年1月には、狂言堂特別企画「家×家」で、シテが主で、和泉流の野村万作、武悪がアドになって和泉流三宅家の高澤さん、小アドの太郎冠者は万作の会の中村修一だった。

従って、シテ武悪が東次郎さんは初めてになる。舞などは無い曲だけど、動きはあるのに、東次郎さんは縦横に動いてた。大丈夫なのかしら。

主と、家来の太郎冠者、その朋友であり武力に優れる武悪。三人三様の立場での心理劇。怒りに我を忘れて武悪を討てと太郎冠者に命ずる主。朋友だし、相手が強いから、嫌だけどだまし討ちしようとする太郎冠者。けども結局逃がす。やや反省した主は太郎冠者を連れて清水観音に参る。たまたま遭遇した武悪。必死に隠そうとする太郎冠者。幽霊になれと。幽霊になった武悪が、今度はあの世で主の父親に会ったと、その父親に頭の上がらぬ主。調子に乗って騙し続けて、太刀や小太刀、扇子まで取り上げる。仲を取り持っていた太郎冠者も段々やり過ぎだろ、という感じになってきて、最後に、「やりすぎだ」とかなんとか台詞を吐くが、残念、よく聞き取れなかった。

シテ武悪の東次郎さん。ホントにまったく膝負傷が感じさせられなかった。さすが人間国宝。みっともない舞台はやらない。

太郎冠者の凜太郎君。汗びっしょりになって、立派に演じていて、成長したなあと。2年半の間に格段の進歩を遂げたと思う。独り立ちしても良い感じ。

 

能『屋島』。屋島(八島)は3回目。小書きの、大事と那須与一語は2回目。2019年11月以来。

前場は、塩屋の主に化けて登場した老漁夫が、伝え聞きしたこととして、源平合戦の屋島の戦い、取り分けて、大将義経の馬上勇士から始まって、悪七兵衛景清と三保谷四郎との錣引き、佐藤継信と能登ノ守平教経の慈童菊王との戦いを、床几に腰掛けたり、立ち上がったり、仕方話。観世御宗家の清和さん、素晴らしい。

中入時の那須與市語。ここが見どころ。野村万蔵。後見に、野村万之丞がでてきて、じっと見込む。後見と言うより、肌で感じたいような。狂言方にとって、多分、『三番叟』と並ぶ重要役。重い役。前回の『屋島』の時は、野村萬斎が熱演していた。能の小書きではなくて、独立した狂言としては2018年10月に見ている。横浜能楽堂修羅能の世界。山本則重さんだったようだ。まだ能楽鑑賞間もない時期で、良く解っていなかった。これで、山本則重、野村萬斎、野村万蔵の3人の那須与一語を拝見したことになるが、いずれも素晴らしい。大事の役なのでしょう。

後場は、太刀を腰に差して、左折れ烏帽子、武装の装束で後シテ義経幽霊が、前場に引き続いて、源平合戦。まずは屋島での義経が弓を取り落として、首尾良く取り戻すシーン、次いで、壇ノ浦での能登ノ守教経との海戦の様子。修羅の世界。観世清和が、格好良く太刀をさばいて、勇壮に舞う。

観世御宗家が、期待以上に素晴らしかった。

地謡が、地頭観世銕之丞、副地頭観世喜正という、同じ観世流でも、お家が異なる各当主が、力を込めて謡いあげる。

囃子方も、さすがの人間国宝小鼓大倉源次郎が素晴らしい声音と鼓。同じく人間国宝大鼓亀井忠雄が貫禄の声と大鼓に、見所は痺れる。笛の杉信太朗、お二人の人間国宝に負けず劣らず、決して臆することなく、笛をピーッと吹き鳴らす。良いねえ。

主後見に人間国宝野村幻雪が、しっかと控える。切り戸口からの出は、立って歩んできたが、座って、退場するときは、何というのだろう、膝行るというのか、両手を前について、立ち上がらずに進む。前に後見に付いた野村四郎(当時)は、立ち上がるときにフラついて鏡板に手をついていた。それが今度は工夫して、キチンと。ホントにさすが。後見していても離見の見。ここなのですよ。身体の衰えは仕方ないが、それを補う工夫なのです。演出ではない身体を支える杖を突いてはいけない。

 

7月16日の納涼能の時も感じたけど、やはり、国宝、名人、上手が揃うと、まったく違った舞台になる。舞台上全体と見所にも心地よい緊張感。

空席が勿体ない。こういう会を、沢山の方々に見て貰いたい。と、今さらながら高等遊民も感じるのです。

附祝言の『千秋楽』にも感激してしまいました。