7月18日(日) 梅若能楽学院会館

仕舞 『胡蝶』  伶以野陽子

    『野宮』  鈴木矜子

素謡 『半蔀』 シテ会田昇 ワキ土田英貴 地頭梅若紀彰

狂言 『二人大名』 (大蔵流 山本東次郎家)

  シテ(大名)山本則俊 アド(大名)山本則秀 アド(通りの者)山本則孝

(休憩)

能 『遊行柳』 (観世流 梅若会)

  シテ(老翁 柳ノ精)小田切康陽 ワキ(遊行上人)福王和幸 アイ(白川ノ里人)山本則重

  笛:杉信太朗 小鼓:曽和正博 大鼓:安福光雄 太鼓:小寺佐七 地頭:梅若実

  面は紹介なし。前シテは朝倉尉か、後シテは皺尉か。

 

梅若会の定式能は、勉強になるので、なるべく参加しようという方針。当日になるまで、紀彰師の出演情報はなかったが、何らかの役割はあるはず、と信じていたら、素謡の地頭で出演。よかった。

 

仕舞二曲は、女流。伶以野さんは紅色のお袴で、女流らしい。鈴木さんも、綺麗な色の袴。仕舞は、ワタクシが習ったような型で、納得というか、満足というか。

 

素謡『半蔀』。この曲は、お能を観たこともなく、当然詞章もまったく解らず、ストーリーも解らないから、紀彰先生のお声を聞いているだけになってしまった。謡本を買えば良かった。ホントに澄んだ、よく通るお声で、最高。

 

狂言『二人大名』、これまでは和泉流で2回(2019年11月と2021年3月)見ていて、初めは野村万作、2度目は野村裕基シテだった。大蔵流は初めて。和泉流は野遊びに2人の大名が出かけるが、大蔵流は都に上ると。

シテ大名だけが左手に太刀を持って、アド大名を誘って出かけ、上下の街道に出たら、誰かに太刀を持たせようと相談。通りかかったアド通りの者を、太刀で威すなどして持たせる。これも最初にお礼を言ってしまって精神的圧力をかけた後、断ると、みっともないと逆上するしろもの。アド通りの者は最初は右手に太刀を持つが、思い立って、左手に持ち替えて、太刀を抜き、二人大名を威す。二人は、それこそみっともなくも、まっぴら命を助けてくれい、と平伏し、腰の小刀、小袖裃を取られたり、鶏や犬の鳴き真似、起き上がり小坊師の真似をさせられる。

これをしたら返すと言いながら、返さず、最後までなぶられる二人大名。持ち逃げされる。

さて、この心理劇は。2人も居るのだから、協力すれば立ち向かうことも出来るはず。でも、怖くて出来ない。闘ったことなどないのでしょう。太刀を構えられると言いなりになってしまう。専ら体面と意地だけで、何の役にも立たない侍を、馬鹿にする狂言。

東次郎さんは出てこなかったけど、良かったと思います。

 

能『遊行柳』、初めて。老人ものは重い習いの曲らしいので、寝てしまうかも、と思いながら、緊張もして拝見。梅若謡本を購入して、見ながらの鑑賞だったので、理解が進んだ。

遊行上人というのは、個人名ではなくして、遊行しながら行く、上人のことでした。ワキ遊行上人が上総国に現れる。道が2つに分かれると、そこに前シテ老翁が現れて、昔、西行が来たときに、この狭い道を通って、朽ち木の柳を見て、歌を詠んだなどと語る。ワキ遊行上人の十念を聞き、大小前の作り物、古塚に柳、の中に入っていって、仲入。幕から出ないのだ。

後場は、作り物の中で着替えた後シテは、古塚からすぐには出ないで、中から謡い出す。しばらくすると、幕が下ろされると、そこに後シテが座っている。さらにしばらくすると、出てきて、正中辺りですっくと立つ。動かない。ずっと立っている。その姿は、美しい。

やがて、クセ舞、序ノ舞と続くが、老人の舞という態で、ともかくゆっくり、ゆっくりと、優雅に品良く。

丁度、雲林院クセの仕舞を習っているので、同じように、ゆっくりゆっくりと。これが難しいし、身体がブレてはならない。

キリの舞も同様で、シテ小田切さんは、予想以上と言っては失礼だけど、上手に、老人の舞を舞っていました。

ずっと、緊張感の中で、ちっとも眠くならずに、老人の舞を見続けた。

最後、囃子方の様子も、うまく行った~、という感じでした。

良きお能でした。

地頭の梅若実先生。出入りの時フラついたり、仲入で途中退座したり、椅子に座っていても、苦しいのだろうか。でも、ともかく地頭は素晴らしく、人間国宝の価値は十分。身体を動かすのは困難なのだから、素謡や地頭での活躍をお願いしたい。

 

超ド級の暑さ。頭痛がしてくるほどだけど、行って良かった。良きお能でした。

それにしても、見所が少ない。3~40人居ただろうか。梅若会関係者だけではなくて、もっと広く宣伝して、一般客も来るようにしたら良いのに、と強く思う。