6月5日(土) 横浜能楽堂

狂言 『見物左衛門』・深草祭 (和泉流 野村万蔵家)

  シテ(見物左衛門)野村萬

(休憩)

能 『巴』 (喜多流)

  シテ(里女 巴)中村邦夫 ワキ(旅僧)舘田善博 アイ(里人)野村万之丞

  笛:一噌幸弘 小鼓:観世新九郎 大鼓:柿原弘和 地頭:粟谷明生

  面:シテ「小面」(作者:近江)

 

横浜能は、年に一度、横浜能楽連盟(と横浜能楽堂)が主催する公演。戦後からずっと続いているらしい。

去年、2020年は中止。2019年6月の第67回と、2018年の第66回も観ている。お世話になっているというか、ホームグラウンドの横浜能楽堂主催公演だから、という理由だけで、観てきた。

今回初めて知ったのだけど、主要な主催者の横浜能楽連盟は、流儀にとらわれず能楽を楽しむ愛好者の団体で、戦後の混乱期から横浜の能楽を普及しようと、連帯しようとできた会らしく、第1回横浜能は1953年。1973年の横浜能楽堂建設には、旧染井能楽堂の移築から、この連盟が寄付金集めなどに奔走したらしい。

今後も、連盟に加入の予定は皆無だけど、横浜能には来年も行きましょう。

 

そんな関係者の心のこもった能会なので、前後の席は、関係者が多く、今度は何をお稽古するだの、あの先生はどうだの、というお仲間の話題と、御挨拶の嵐。

 

狂言『見物左衛門』、初めて。役の上でも高齢の見物左衛門が、都の伏見の藤森神社の深草祭を見物に行くときのあれこれ。祭の神事開始前に、厩、馬、御所の見学に行くその様子。神事が始まると、駆馬、武者揃え、幟を見物する様。相撲が始まると、歳を取っているから前の方に行かせろと、人混みを擦り抜け、土俵際に座り込むと、あれこれと注釈。相撲を取れと言われて1番目は勝つが、2番目は投げ飛ばされてしまう。また、明年も参ろう、でお終い。

これをすべて、人間国宝92歳の野村萬が一人で演じる。独り狂言。

見応えがあった。感動的。素晴らしい。きっと、それだけ経験がある野村萬でないと演じられまい。92歳だよ。相撲で投げられてざっと転ぶシーンもあって。台詞も間違えない、足取りも乱れない。声も良く出ている。至芸とはこのことなり。

『見物左衛門』には、今回の深草祭を観に行くバージョンと、清水寺の地主の桜を観るバージョンとがあるらしい。両方とも観ていないが、これは一見の価値あり。

 

能『巴』は、2度目。2019年5月に鎌倉能舞台で観ている。が、このときのことは、よく覚えていない。

ストーリーは、木曽義仲の、粟津での最後のシーンとそれに関わる巴御前の働き。平家物語に出典があるけど、義仲が自害する点とか、巴御前が帰れと言われる理由などが、異なる。お能は、義仲と巴を美化するが、まあそんなことはどうでもよろしい。

前場は、語りが多くて、チト眠くなるが、能ドットコムの訳を持っていったので、助かった。

アイ狂言の野村万之丞さん。口をはっきり開けて、分かりやすい語りで、良かったです。野村万蔵家は、老壮青で、老の萬先生と、青の万之丞さん。良き連携ですね。

後場は、長刀を持った戦闘服の後シテ巴が、長刀を振るって敵を追い払い、義仲の自害を防御する。形見に小袖と小太刀を抱えて、故郷木曽に去って行く。

この後場は、前場もだけど、舞が無くて、長刀扱いなどが難しいかな。だが、それを支える地謡が良い感じで、実に気持ちよさそうに、ツヨ吟、ヨワ吟謡いきっていた。地頭が良かったんだね。

この辺が理解できたのは、お稽古をしてきたからでしょうね。