5月21日(金) ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮者:田中裕子

ワーグナー:ジークフリート牧歌

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲

  ソリスト 神尾真由子

(休憩)

ベートーヴェン:交響曲5番<運命>

アンコール 弦楽四重奏曲

 

ミューザ川崎というホールは初めて。何だか、直線が無くて、全部がグニャグニャしている感じ。客席も若干斜めになっている感じ。気持ちが、揺らぐ。

円形劇場みたいなホールで、音響効果は良いような。

 

指揮者の田中裕子も始めて。女性指揮者は、西本智美しか、名前も知らないし、勿論聴いたことがない。

 

5月8日(土)に予定されていた、367回横浜定期はコロナ非常事態で中止。指揮者はコバケンこと小林研一郎、グリーグのピアノ協奏曲、スメタナの<わが祖国>だったのに。

今回、場所も初めてだし、初めての指揮者だし、期待半分、大丈夫かしら感半分。でも、この非常事態宣言下で、良く開催していただけました。

ずっと、インキネンの指揮予定できていて、ぎりぎりのピンチヒッター。

 

第1曲は、そんな不安が的中したみたい。田中さんは、やけに緊張した面持ちで登場。大体、楽団員が入場してから指揮者の入定まで時間がかかる。緊張しきって、出切れなかったんじゃないかしらと。

知らない曲でもあった。乗りきれないまま約20分が長く感じられる。ワーグナーは好きなはずなのに。

きっと田中指揮者も、これはインキネンのプログラムだし、十分な研究と自信も無いままに、練習も時間が取れなかったはずで、演奏会に突入してしまったのではなかろうか。

表情も仕草も硬いままに、終了。

 

第2曲は、期待していました。第3楽章が好きなんですよね。

ソリストは神尾真由子さん。登場すると、思わず、オオッと。白銀ラメ入りの、肩腕出したロングドレスに、右腰の辺りから何やら長い舌状のモノがついている衣装。後を付いて出てくる田中指揮者も、長裾を踏まないように気をつけて。舞台を綺麗に掃除しながら歩く。

長袴、一二単衣などの長い引きずる裾、平安時代の貴族の殿上人の裾(きょ)、等を連想。和のイメージだけど、ドレス地は、白銀ラメ入りの胸だし。何だかなあ。確かに、ソリストは、ドレスに趣向を凝らすけど、やりすぎじゃないのかしら。ヴァイオリンを弾くのに邪魔じゃないかな。裾だから邪魔じゃないけど、有益ではないよね。観客的には、ドレスに眼が行きすぎて、却って演奏に集中できない。

同じプログラムで5月23日に演奏会があるのだけど、その時も同じドレスかしら、違うよね、両方観る客もいるし、同じだと思われたくないよね、とか。高かっただろうな、とか。どうやって洗濯するのだろうか、とか。そもそも、どうしてこういうデザインの衣装を選んだろう、とか。

1983年生まれの35歳。若いけど、若輩者ではない貫禄はある。そういう自信かなあ。

楽器はストラディヴァリウスの貸与品。演奏は、迫力ある、強い音が響き渡るモノでした。あのホールで、間違いなく隅々まで音が響き渡る。その点では、衣装に負けてはいない。

ソリストアンコールがなかったが、あの曲は40分くらいの長い曲だし、全力演奏だったから、疲れたでしょう、なしで納得。

 

最後はご存じ。この曲に至って、田中さんは、段々とノリノリになってきて。指揮棒を使わない、両手指揮で、手を広げながら、アクションも大ノリになってきて。チラと見える横顔もにこやかに、うれしそうに、楽しそうに。

それに答えるか、オケも乗ってきて。

第3楽章から第4楽章は、明らかに、休止符なしで連続。例のベートーヴェンの、終わらない終曲部も、ノリノリでしっかりと。

ちょっと、第1楽章でホルンの出だしの音が乱れたのが残念でしたが、良かったです。楽しかったです。感動はしなかったけど、音、楽、でした。

 

指揮者の田中裕子さん。1978年生まれ43歳。まだ若いけど、だから、研究不足もあったかもしれないけど、よく染みこんでいる<運命>は、しっかり指揮できました。緊張しましたか。でも、ベートーヴェンは大丈夫でしたよ。

アンコールは、何だか知らない弦楽四重奏で、終わりもはっきりしないで、でも、遊んだ感じで、楽しかったですよ。名前を記憶にとどめます。だから、何だって言うのかわからないけど。

 

丁度先日、NHKEテレで、往年の名指揮者の番組をやっていた。番組といっても、商業用に録画したと思われる映像を流した。カラヤンがチャイコフスキーの6番<悲愴>かな、バーンスタインが、マーラーの<巨人>だったかな。

そのカラヤンの指揮がすごい。まるで、求道者みたい。ずっと目をつぶって、楽団員の方に顔を見せたり笑顔を見せたり、振りを大きくしたりしない。ひたすら、ひたすらに、指揮棒に集中して、唯、振る。

あの頃、ベルリンフィルは、女性楽団員を入れて良いかどうかで論争があった時代。また、カラヤンは、みんな世界最高の指揮者と思っていた。ワタクシのレコードやCDも、カラヤン指揮を選んでおけば間違いないと思われていた。

あのスタイルが、珍重された時代。

対するバーンスタインは、まあ、簡単に言えば、オールドクラシックファンにとっては、軽い感じ。ミュージカルや、映画音楽の作曲もしていたし。

ガーシュインの<ラプソディインブルー>は、バーンスタインが合うよね、という感じ。カラヤンは絶対に振らないでしょう。

そのバースタインの指揮ぶりは、身体を動かして、アイコンタクトや、顔の動きも豊かで、楽しげ。

考えれば、現代の指揮者は、バーンスタイン流ですね。それが普通。ヘルベルト・フォン・カラヤン流は少なくなった。

 

田中裕子さんの本日のイメージは、第1曲はカラヤン流か。でも、第3曲のベートーヴェンはバーンスタイン流な感じで、ノリノリでした。

高等遊民。やはり、クラシックも良いねえ。活字中毒、能楽中毒、クラシック中毒。