平凡社ライブラリーOFFシリーズ 2005年(平成17年)2月初版第1冊

 

先日、さるお方から頂いた書籍の内の一冊。

数日前のブログで、山本会別会の「しびり」シテについて訂正させて頂きましたが、そこで引用した書籍です。

 

結論から言うと、素晴らしい内容で、少なくともワタクシにとっては高度な内容であって、中・高校生のための入門書ではないという印象。

言葉遣いはなるだけ平易な、インタビュー録音を書き起こした感じ。新書版で、お値段もお手頃という意味では、入門編と言っても間違いではない。出版シリーズのコンセプトもあるのでしょう。

 

第一章 狂言とは何か

ここの箇所は、確かに入門編。歴史や舞台、流派、狂言方などについての分かりやすい説明。

狂言という言葉、になると、ちょっと難しいかな。

狂言の二つの特徴、難解ではなくて易しいこと、事件に踏み込まないこと。『鎌腹』『武悪』『二人大名』『靭猿』を例に挙げる。解りやすい解説ですが、これらの例に挙げた狂言曲を知っているといないとでは、違う。まったく知らないだろう中・高校生には理解困難かな。でも、入門編で書くとしても、例示した方が解りやすいだろうし、例示しないとそれこそ解らなくて論文のようになってしまうから、これで良いのでしょう。

入門編です。

 

第二章 狂言を演じる

ここで、前回ブログで書いた『しびり』と『伊呂波』のシテについて。大蔵流の考え方。

『釣狐』が、相当な経験が必要な曲であって、それまで習った狂言曲とは異なる動きなどが要求される曲であること。始まりはともかく、“狐で終わる”ということは、両派共通なのですね。

立つ、座る、それだけのことにもこだわっている、筋肉トレーニングはむしろ静止している、静かに力が入っている状態だと。

むむむ、そうなのです。これが一番疲れるのです。これは、ちょっとでもお能のお稽古した人間ならば解る。解るけど、一番難しい。当たり前だけど、狂言方も同じと言うこと。

 

第三章 狂言を見る

個人的には、このブログでは「観る」という字を用いているけど、本書では「見る」なので、そのまま。

ここでは、『末広』『棒縛』『靭猿』『貰聟』『法師ヶ母』『船渡聟』『米市』『武悪』『木六駄』を取り上げて、それぞれの曲の、深い意味、大蔵流山本東次郎家の考え方、立ち位置や座り位置の説明など。

幸いこれらの曲は、すべて何度か観ているので、一読して、ああなるほどと。そういう意味があったのか、と。納得。

この記述の中で、ドキッとさせられるのは、「見巧者(みごうしゃ)」という言葉。そこまで読み取って頂ける観客がいてくれたらと思う、と。

表面的な、わはは、だけではないことは、様々な狂言曲を観る中から感じてきたことだけど、東次郎先生の要求レベルは高い。でも、少しでも近づけるようになりたいし、そこまで至ることができれば、もっともっと、狂言が楽しく、かつ、うんと頷けるものになるのでしょう。

どうしてその終わり方か、というだけのレベルもまだまだ多いしね。

 

第四章 面・装束・小道具

様々な装束や小道具についての解説。一々納得だけど、それを全部ここで紹介する訳にも行かない。

 

第五章 三番三を舞う

能役者シテ方は当たり前だけど、狂言役者にとっても、『翁』の中の、『三番三』(和泉流は三番叟)は特別なのですよね。

全部一括して神事なのですが、狂言方の役割は極めて重要。

シテ方の翁は、祭事役。狂言方の三番三は、農耕民族の源というか、稲信仰というか、稲の精霊というか。

『翁』全体については、もっと深く研究していきたい。シテ方上掛かりと下掛かりの、千歳の役分担が違うのは何故か。この書にもその答えはなかった。

 

第六章 能と狂言

ここでは、アイ狂言について。独立した番組の狂言曲とは別に、お能の中で、多くは中入の時に登場する狂言方の役割。それだけではなくして、中入ではなくて、能の中の一部に取り入れられている狂言方の役。

「語りアイ」「末社の神」「会釈(あしらい)アイ」「口開けアイ」と区別があるそうです。なるほど、確かにそう分類できる。

後二者の区分は、どうしてのその役割を狂言方がやるのだろうか、という疑問は以前からあった。

それを、『姥捨』『夜討曽我』『正尊』『黒塚』『道成寺』『一角仙人』を例に挙げて、解説。解ったような解らないような。誰かが決めたはずで、伝統になっているんだろうけどね。

お能の謡本には、知っている梅若会のモノだけしかわからないけど、ワキ方の詞章も書かれている。ワキ方はワキ方で独自の、といっても「大きくは外れない詞章があるはずだが。

ところが、中入での狂言方は、ここで狂言方云々、としか書かれていないモノが多い。といっても「会釈アイ」の謡本は見たことがないけど、どうなっているだろうか。

 

この書籍は、本書の5年前2002年(平成14年)発行の「狂言のことだま」という本の、青年向け易し版かも知れない。この本も頂いているので、引き続いて読んで、感想などを書いていきます。