3月26日(金) 国立能楽堂

新作狂言 『維盛』 (和泉流 茂山狂言会)

  シテ(茶屋)茂山あきら アド(平維盛)茂山千之丞

(休憩)

復曲能 『名取ノ老女』 (観世流)

  シテ(名取ノ老女)鵜澤久 シテ(ツレ)(護法善神)観世銕之丞 子方(孫娘)松山こう美

  ワキ(熊野山伏)御厨誠吾

  笛:竹市学 小鼓:鵜澤洋太郎 大鼓:國川純 太鼓:小寺真佐人 地頭:観世喜正

  面:名取ノ老女「老女」 護法善神「大童子」

 

◎復興と文化という企画公演。今月中は、市松席。

 

新作狂言『維盛』といっても、昭和60年(1985年の)新作。戦後作られれば新作か。

維盛は、平清盛の嫡子重盛の嫡子(清盛の嫡孫)。直系なのだけど、戦は嫌いで、身分上仕方なく大大将に就任するけど、内心は、嫌。栄華を極める中で、謡や舞などに興じつつ、家族と楽しく、愉快に生きていたい。例の富士川の合戦では、水鳥の羽音に驚いて逃げ帰ってしまうほど。

木曽義仲に追われて都落ちした後も、八島から脱走してしまう、という人物。ここら辺りまでは史実か。熊野権現にお参りして、都の家族の元に返りたい、一目会いたいがかなわない状況下で、高札によって、熊野参道のシテ茶屋に見つかってしまう。

辛い半生を語るに及んで、シテ茶屋に同情されてしまう。茶をご馳走になり、酒もご馳走になる。将来必ず代価を払うと約束したいが、何かに書きつけておいて貰いたい。維盛と書き付ける訳には行かないから、「飲み人知らず」と書き付けることにする。

その後、シテ茶屋が、あのお人も平家に生まれなくば良かったろうに、と述懐して、最後にくっさめ、で締める。

内容もだけど、謡や仕舞も散りばめられたなかなか味わい深い曲。狂言的なお笑いは少ない。最後にくっさめで終わるところなど、『月見座頭』みたい。

なかなかの新作で、茂山あきら、千之丞親子もしっかりと。

 

復曲能『名取ノ老女』は、現在廃曲になっている『護法』という曲を、平成28年に復曲上演されたモノ。今回は2回目か。

物語は、陸奥(今の宮城県)の名取には、熊野権現三社を模した社があって、熊野信仰の舞台になっている。本熊野の山伏が、霊夢を得て、名取に熊野を勧請した老女に会いに来る、そこで会った名取ノ老女と孫娘。老女が名取ノ熊野を案内し、山伏の求めに応じて神楽舞、そこに護法善神が現れて子々孫々の願成就を約して、去って行く。

前シテ老女、後シテ神という形式では無く、シテ老女はそのまま残り、神が別に登場するという形式で、「護王型」と呼ぶ古い型らしい。

なかなかの素晴らしい舞台で、チトも眠くならず、ウトともしなかった。

シテは女流の鵜澤久。初めて女流シテのお能を観たけど、声が高めだと言うだけで、さほどの違和感は無い。迫力は出ないけど。

ワキ山伏の名ノリなどに続いて、子方とシテ老女が出てくる。ゆっくりと。面が珍しい。「老女」面だと。子方は7歳かな。でも、声はしっかりだそうとしていたし、動きもキチンとしようと努力はしていた。

山伏に、名取ノ熊野を教える時(名所教え)には、3人で並んで、まず切り戸口に向かい背を向ける、次いで、ワキ柱の東方、幕方向の西方、正面を向いてと、ぐるり。見所に背を向けるのは、初めてかな。

老女の神楽舞。そこに、護法善神が登場せんとすると、老女が動揺したような振る舞い。ここはやや狂言的な動き。

護法善神は、ひたすらの迫力で、全身全霊をかけて謡と舞。拍。さすが、観世銕之丞さん。この迫力は、女流には出来ない。いや、並のシテ方には出来ないか。老女と善神の比較。見ていて、聞いていてビリッとしてくる。

ここは、銕之丞さんが、適役。銕仙会。

地頭が観世清正さん。九皐会。

後見にはわざわざ大阪から大槻文藏さん。何故かと思ったらば、一度目の上演では、大槻文藏さんが名取ノ老女役だったらしい。意見も求めていたのでしょう。

女流シテ方鵜澤久は、銕仙会。

地謡に、梅若会の方が幾人か出ておられたのは、パンフレットによると、節付けが梅若六郎玄祥とあったからか。作曲家が実先生だから地謡は梅若会が。が、地頭は実先生では無くて、観世喜正。

ま、観世流の総出演に近い。でも写真を見ると、初回は護法善神は金剛龍謹さん。こうなると、ここまでの新作だと、流派はあまり関係ないか。

 

しっかりしたお能を見せて頂きました。