3月21日(日) 国立能楽堂
『翁』
翁:香川靖嗣(喜多流)
千歳:山本凜太郎
三番三:山本則孝
笛:竹市学 小鼓:鵜澤洋太郎(頭取)・飯冨孔明・田邊恭資 大鼓:佃良勝 太鼓:梶谷英樹
地頭:友枝昭世(喜多流)
『三社風流』
天照大神:山本東次郎 春日明神:山本則俊 八幡大菩薩:山本泰太郎
囃子方:同 地頭:山本則重
(休憩)
狂言 『しびり』
シテ(太郎冠者)山本則光 アド(主)山本則重
狂言 『鷺』
シテ(主)山本東次郎 アド(太郎冠者)山本凜太郎 笛:竹市学
(休憩)
狂言 『業平餅』
シテ(在原業平)山本則孝 アド(餅屋)山本則重 アド(長柄持)若松隆 アド(餅屋の娘)山本泰太郎
笛:竹市学 小鼓:鵜澤洋太郎 大鼓:佃良勝
狂言一調 『うれしき春を』
謡:山本東次郎 太鼓:三島元太郎
2日連続で、当日予約した会。大蔵流狂言方の山本会主催公演。午前に電話したところ、空席有りとのことで。
狂言の会ではあって、狂言だけはやや、と思っていたが、だから、山本会も行ったことはなかったが、今回の別会は、『翁』・三社風流をやるとのことで、色々あったが、急遽時間が取れたこともあって、電話予約。
『翁』『三社風流』は、昭和63年9月に復曲1回目、平成31年4月に横浜能楽堂企画公演「東次郎家伝12番」の初番として、そして、今回が3回目だと。ワタクシは、2019年4月の公演も見ているので、3回中2回観たことになる。前回のブログを読み返してみると、感動した、と書いてあった。役者の比較をしてみると
千歳は、2回とも凜太郎君。
三番三は、前回山本東次郎→今回山本則孝
天照大神は、山本則俊→山本東次郎
春日明神は、山本泰太郎→山本則俊
八幡大菩薩は、山本則孝→山本泰太郎
『翁』の始まり、翁渡りは、もう8回目だから良く解る。シテ翁が喜多流で、下掛かりなので、千歳が面箱持ちを兼ねて、狂言方が務めて、ゆっくりと先頭で登場。凜太郎君の歩みは、しっかりと、きっちりと。というか、千歳を狂言方が舞いたいから、下掛かりのシテ方に依頼するのだろう。
シテ翁は、喜多流の重鎮香川さん。しっかりと。でも、どうしても梅若紀彰師の翁が目に付いてしまっている。最初に正中で見所に向かって深々とお辞儀をするが、紀彰先生は、腰からしっかりと折りたたんで、背中と頭が直線になって、見所に向かって拝礼の形。が、香川さんのは、背中より頭が下がっていて、普通の深いお辞儀。この辺で、緊張感が異なってしまう。
千歳の舞は、凜太郎君、きちんと。
三番三の揉ノ段は、普通。だが、則孝さんの揉ノ段は、怪鳥のごとき、叫び声と飛躍、拍の力、がやや不足かな。則孝さんは優しすぎるのです。怪鳥に徹しなければならないと思います。
さあ、鈴ノ段で、鎧兜の具足、黒式尉面。この具足が、三社風流の始まり。一旦常座に出て、千歳との問答は常の通りで、さて、千歳が退場して鈴ノ段の舞に入ろうかという時に、狂言方の地謡が「あれを見よや」と謡い出すと、三番三は、黒式尉面を外して、三社神が橋掛かりから登場。三番三が常座に迎えに行って、三社神は、具足を附けた鈴ノ段を、祝福のために見物したいと。
で、もう一度黒式尉面を付けて脇座付近にご案内。また、外して直面で鈴ノ段へ。神力を得て。
この鈴ノ段が、重い具足を来たままなので、大変なのでしょう。前回は、お年を召した東次郎さんが演じたが、今回は、やはり無理か、甥の則孝さんへ交替。世代交代かも。泰太郎さんの方が年長だから、泰太郎さんが『三社風流』の三番三やっても良いかもと思いつつ。
もし、泰太郎さんが、揉ノ段も舞っていたら、きっと、怪鳥になったことでしょう。
この『翁』『三社風流』は、大蔵流でも、山本東次郎家しか出来ないのかも。大事にしていきたいし、記録を。
『しびり』は、前に観たことがあったかも程度の印象だったが、今回は、5歳の則光ちゃんがシテ太郎冠者。とても上手にはほど遠いが、勿論、5歳と思えば素晴らしい出来なのですが、なんで、わざわざ5歳の則光ちゃんに。
則光ちゃんは、今年、『靭猿』の小猿をやっていて、ワタクシも、2度ほど観たことがあって、猿面を被っていたので尊顔を拝したのは初めてで、顔見世興行かしら。
『鷺』は、2度目か3度目。許し無く太郎冠者が京に行って、シテ主は怒るが、京のことを知りたくて許す。そして、アド太郎冠者は京の神泉苑でのことを話して、京土産の舞として、鷺の舞を舞う。白い鷺風の装束に、鷺の冠り物。動作は、鷺の動きを写実的に現す。凜太郎君が、上手に鷺の真似をした舞。それをシテ主に見せる。シテ主の東次郎さんは、ただ見ているだけではなく、餌をついばむ様子など、少し同時に身体を動かす。演出だとは思うが、凜太郎君の鷺舞を慈しむような感じ。
綺麗でした。
『業平餅』、何度も。どちらかというと、業平の代価の無知、餅の盗み食い、乙娘に対する態度などは、爆笑狂言系に近いのだけど、東次郎家がやると、能風、能様になるのだねえ。お家の風の違いか。
最初、名ノリから、道行きも、まさにお能のワキ方の始まり感。
面白かったのは、餅の食い方。ふわふわの餅状の作り物は、手で食べながら掌の中に押し込んでいって、ホントに食べているかのよう。この作り物は、他家では無かったな。
被きモノを取った、アド娘の顔を見ての驚き様は、さほど大げささを求めずに、尻餅をつく程度。これで良いのかも。これも東次郎家風か。
最後を締めたのが、狂言一調。東次郎さんの謡と、三島元太郎さんの太鼓。人間国宝二人。重厚感溢れていて、緊張して聴きました。素晴らしい終わり方。
緊急事態宣言が期限を迎えた最終日の公演。大雨の中。気持ちは盛り上がりました。
取り分け、なんと言っても『翁・三社風流』。絶対に見逃せない、価値あるモノでした。良きものを見せていただいた。