2月23日(火・祝) 観世流九皐会
舞囃子 『百萬』
シテ 浅見真州
笛:藤田貴寬 小鼓:大倉源次郎 大鼓:原岡一之 太鼓:小寺佐七
仕舞 『通盛』 観世恭秀
『東北』キリ 武田宗和
『當麻』 坂井音重
『融』 岡久廣
能 『安宅』・勧進帳
シテ(弁慶)浅見慈一 子方(義経)清水義久 ツレ(郎等9名)小早川修他
ワキ(富樫某)大日方寛 アイ(強力)高野和憲 アイ(従者)内藤連 主後見:野村四郎
笛:藤田貴寬 小鼓:大倉源次郎 大鼓:原岡一之 地頭:浅見真州
狂言 『隠狸』 (和泉流 野村万作の会)
シテ(太郎冠者)石田幸雄 アド(主)深田博治
(休憩)
仕舞 『弱法師』 観世清和
『誓願寺』キリ 野村四郎
能 『道成寺』
シテ(白拍子 蛇體)小早川泰輝 ワキ(従僧)野口能弘 アイ(能力)野村太一郎・野村裕基
笛:杉信太朗 小鼓:幸正佳 大鼓:大倉慶之助 太鼓:澤田晃良 主後見:観世清和
代々木能舞台創建70周年記念、故浅見眞高第3回追善と名乗った、特別の別会。
代々木能舞台というのは、都内ではまずらしい屋外型の能舞台で、見所は、普段は生活の場である座敷の建具等を片付けて使っているらしい。何回か行ったことがあるが、あそこが座敷だとは思わなかった。
最近のテレビドラマ「俺の家の話」は、この代々木能舞台がロケ場所として使われたらしく、あのドラマで出てくる座敷は、あの見所であったか、と納得。能舞台も雨戸があるはずで、公演時には雨戸も障子も外しているが、撮影時には、障子だけにしていると考えると、場面的に適合する。
今回は、本来は去年2020年(令和2年)3月に開催されるはずだったのが、新型コロナの影響で、中止ではなく、延期になったモノ。現在でも、第2次非常事態宣言時ではあるが、敢然と、開催。特別の別会だから、再延期や、中止は選択できないだろう。勿論感染対策は。見所はほぼ満席でした。市松席ではなくとも、満席。
最初の舞囃子『百萬』は、代々木果迢会の最高トップ浅見真州の舞。1941年生まれ。追善の眞高の下の弟。昭和25年に創建された代々木能舞台は、浅見眞健の時代。長子が眞高で、死後、末弟真州が継ぐ。現代は、更に浅見慈一へと繋がる。最近、こういう能のお家の歴史に興味があって、何かと気になる。
79歳か。確かに、足腰は弱っていて、声も弱いけど、年齢を重ねた功績の方が上回って、観ていて、納得の舞囃子。
仕舞4番。まあ、こんなモノですね。
能『安宅』2回目。2019年9月に国立能楽堂、観世流。
まあ、歌舞伎の方が有名になった演目だけど、お能がスタート。でも、鑑賞する楽しさとしては、歌舞伎の方が勝るか。勧進帳の読み、延年の舞、飛び六方。
能としても最大人数かも知れないけど、舞の見せ所や謡での聴かせどころは少ないか。
出演者は皆さん直面で、辛いのではないかと思うけど、演劇としてみればそれでもよろしいか。でも、演劇ならばやっぱり歌舞伎。前場の語りが多いところで、寝てしまった。
飽きないけど、感動もしない。こえはシテでは無くて、曲の持分。
狂言『隠狸』、何度か観たと思うけど。折角捕まえてきた狸を、市で売りさばきたいシテ太郎冠者。なんとか、せしめたいアド主。市で、酒を飲ませて誘惑し、舞を舞わせて取り上げてしまう。
まあ、どの太郎冠者も、小ずるいし、酒が好きなのです。野村万作の会で、キチンとしていました。目が覚める。
20分休憩後、仕舞2曲。今度は、観世宗家と人間国宝野村四郎。大変に、重いハズの仕舞。
宗家の仕舞『弱法師』。記録を取っていないけど、ブログを見返せば解るけど、最近宗家の仕舞は『弱法師』が多いような。いや、そればかりのような。きちんと舞っているんですけど、他も観たいよねえ。
四郎さんは、下に居から立ち上がらずに、立ったまま仕舞をスタート。本日、能『安宅』の主後見に座っていて、最後立ち上がる時によろけて、鏡板に手を突いていた。弱っているんでしょう。そういえば、以前最初に気付いたのは手の震え、それから絶句もあったかな、今回の舞も、昔日の切れは無い。だが、キチンと、美しく舞っているし、何より、貫禄がある、舞に重みがある。年の功というやつか、それに、今までの鍛錬と、能力。矜恃。
最近、こういうご高齢の名人達のありようが、気になる。自分も踏まえて。
関係なさそうだけど、森元総理の、オリンピック招致委員会での、女性蔑視発言。多分、ご本人は何を非難されているか解らないのです。ご老人の、老害、老醜。仕方ないのです。あんなご高齢の、口先でご機嫌取りをしてきた人物に、あのような主要な地位を与えてはならないのでした。
我が67歳の発言も、気をつけなければと。このブログも。
能楽関係者はどうあるべきか。世阿弥はなんと言っておったのだろうか。
能『道成寺』も生は2回目。DVDその他では何度か。前回生鑑賞は、2019年2月に横浜能楽堂、宝生流。
ストーリーの紹介は止めて、何点かポイントで。
シテの小早川泰輝さんは、30歳くらいかな。若いし、背が高い。でも、この姿勢は良かった。猫背にはならないし、しゅっと立つ立ち姿は美しい、若さ溢れる。それは、前シテ白拍子の入場から解る。橋掛かりにたたずんで、ゆっくりと舞台上の鐘の方へ。
能力と話して、烏帽子を被って、舞うために、一旦橋掛かりに戻って、振り返って、鐘楼を見上げる。これが、今回は、キッとではなく、何だか、懐かしいような、見上げる感じ。これも有りだな。
この鐘楼の鐘を見上げる様は、何回かあって、前の時には、蛇体と化してから最後にキッと睨み付けるのと2回だったが、今回は、乱拍子中にも2~3回見上げる。この見上げ方も、キッでは無くて、懐かしむというか、慈しむというかの眼差し。でもその目つきは段々と険しくなってきて、やはり最後のはキッと睨む。
この変化が印象的でした。これも有りだな。
乱拍子。聞かせどころ、見せ所。今回は、まず、小鼓の掛け声が、叫び声にも聞こえて。しかも、その拍子の時に前シテは足を動かすが、次の動作と叫び打ちまでの、間隔、溜めが凄く長くて、息が詰まるほど。30秒以上は無音、無動作の状態。この緊張感は凄い。若いシテ方でないと無理じゃん。出来ないでしょ、あんなに緊張した瞬間。
しかも、長い。全体としての乱拍子も長くて、40分くらいやっていたか。
小早川泰輝さんも、小鼓方も、どちらが主となって、ここで乱拍子打切ね、というサインを出すのだろうか。どちらもお見合いなのかしら。だとすれば、ご両人ともノリノリで、止められなくなったか。ホントに、珍しい乱拍子ではなかったか。ギネス級だな、なんて考えながら、集中してみていたけど、呼吸困難になるほどの緊張感に、あれほど耐えられないよ。
この長時間の乱拍子のためだと思うけど、終了時間予定が、18時10分だったのが、実際には18時50分になっていて、40分も延びたのだ。とすれば、合計1時間近く乱拍子踏んでいたか。小鼓方も、シテ方も、見所も、ヘトヘト。だけど、見応え聞き応え満載でした。多分、歴史に残る乱拍子。
問題の鐘入りは上手くタイミングが合った。席がGB席で、鐘後見のご苦労が良く解った。浅見慈一さん達が、渾身の力で鐘を吊り上げ、吊り下ろし、高さを変え、揺らす。
『道成寺』は脇正面で観るのが、よろしいか。乱拍子も、鐘後見も。でもやはり正面かな。
鐘の中で着替えて、面も替える。「般若」であったか、「蛇体」であったか。「蛇体」のように思った。面の紹介がなかったのが残念。
今回の『道成寺』は、完全フルコース。良かった。色々な『道成寺』観てみたいなあ、と思いました。
高等遊民。この五日間で、四日の能楽鑑賞。お能は、『翁』も数えると10番。式能後半の2番は力尽きたけど、後は、よろしかったです。お能は、よろしいです。
狂言もよろしいです。狂言を鑑賞した歴史、どうまとめようか。
今月は、これで観能お終い。今月だけで11番。通算、155番の鑑賞でした。曲数としては101曲。