2月6日(土) 横浜能楽堂

狂言組

『朝比奈』

  シテ(朝比奈)野村万蔵 ←和泉流 野村万蔵家

  アド(閻魔)大藏基誠 ←大蔵流 大藏家

  お囃子

  地頭:野村万之丞

(休憩)

『月見座頭』

  シテ(座頭)山本東次郎 アド(上京の者)茂山七五三

 

先週に引き続く、家×家交流狂言会。

 

『朝比奈』確か、2度目かな。野村萬斎がシテ朝比奈だったような記憶。いや、間違った。3度目。初回が野村萬斎シテ朝比奈、野村太一郎アド閻魔、2回目が山本則秀シテ朝比奈、山本凜太郎アド閻魔。2019年8月のこと。

やはり、過去のブログを見ないと思い出さない。が、記録には十分になっていて、過去記事を見ると、思い出す。比較が出来る。

今回は、シテとアドが、異流かつ異家。しかし、両人とも、その家の中心人物。この組み合わせの『朝比奈』は、見応えだなあ。異流異家だから、十分に申し合わせをしたと思う。その成果かもね。

どっしりと強いシテ朝比奈の野村万蔵。閻魔に懲らしめられても、ビクともしない。ここは、過去2回も同じ。

対するアド閻魔は大藏基誠。威張って登場するも、散々にシテ朝比奈にいたぶられて、投げ飛ばされるは、転がされるは、最後には七つ道具も持たされて冥土に案内させられるは。だが、今までは、やや弱い役者の閻魔だったが、今回は、迫力あるアド閻魔でした。迫力と迫力のぶつかり合いで、アド閻魔は負けてしまうのだが、一方的にシテ朝比奈が強いという訳ではなかった。強者と弱者ではなくて、新しい『朝比奈』が、異流異家だからこそ、実現できたのではないか。

 

『月見座頭』。これは4回目。1回目の記録はないが、2回目は2019年6月でシテ座頭が野村萬斎。3回目が2019年9月でシテ座頭は同じく山本東次郎。連続して、東次郎さんの『月見座頭』で、期待十分。

そのためもあるか、めしい(盲)のシテ座頭東次郎が、下向き顔で、杖を左右に突きながら、橋掛かりから登場すると、ピリッとした空気が漂ってきて、なんだか、これだけで感動してしまい、涙がこぼれそうになる。下京の座頭と名乗って、野原で、虫の音を楽しむ。声の方をちょっと見るように(見えないのだけど)顔を上げて、楽しそうな表情をすると、見えないのに、虫の音が聞こえてくるよう。

そこに登場するアド上京の者の茂山七五三。厳格な芸風の東次郎家と、お豆腐狂言の茂山家。どうなるかと思いきや、さすがにベテラン茂山七五三。満月の煌々とした野原に出てきて、月見を楽しもうとする風が、見事。

古歌を謡い合い、謡いも謡い合って、舞まで2人が舞う。シテ座頭の舞は、あんなに杖を突いていたかなと言う記憶だったけど、まあ、両者とも、楽しそうに遊び、飲む。それを演ずる2人の名人の芸が素晴らしく、感動的な上手さだ。めしい(盲)と2人であることは感じさせない遊びの世界に浸る。

ところが、別れた後に、橋掛かりで、虐めてやろうと思い立つアド上京の者。それを思い立った時の、茂山七五三の表情が、途端に怖くなる、睨み付けるよう。そして、余韻に浸って野原に残っているシテ座頭に襲いかかる。投げ飛ばす。何故、今まで楽しんでいた座頭をいたぶるか、それを思い立って、実行してしまうか。勿論、血を流すようなまでの狼藉ではないが、目の見えぬ、今まで楽く遊んだ座頭にわざとぶつかって、倒す。そして去って行く。その心理は、今回も、不明。

残された座頭は唖然としつつ、やっと方向を見つけて、くっさめ、くっさめと、二言で帰って行く。

なんとも、狂言なのかしらと言う曲だけど、深い心理状態が含まれていて、素晴らしい。曲が素晴らしい上に、お二人の名人の演技で、更に感動が相乗されたと思う。実は、アドの役割もとっても重い曲なのでした。

名曲に、名役者の二人で、今回は、素晴らしい舞台を見せていただいたと思う。記憶、記録に残すべき、名舞台でありました。

また、後見に、山本則孝と茂山逸平が並んで座っているのも、あり得ない風景で。後見二人とも、真剣に舞台上の役者を見つめていました。

狂言で泣いてしまったのは、『靭猿』だけだった。これは、小猿のかわいらしさから来るモノ。『月見座頭』は、泣かせる曲でした。

 

高等遊民にも、狂言の奥深さを教えられた舞台でした。観能の記録は、別に一覧にしているのですが、狂言も一覧表にした方が良いよなあ。決して、お能の息抜きではないよと強く思う。狂言方の演じ能力も、高いし。