1月30日(土) 横浜能楽堂
狂言組
『八尾』
シテ(閻魔)茂山千五郎:大蔵流 茂山千五郎家
アド(罪人)善竹隆平:大蔵流 善竹家
(休憩)
『武悪』
シテ(主)野村万作:和泉流 野村万作家
アド(武悪)高澤祐介:和泉流 三宅家
小アド(太郎冠者)中村修一:和泉流 野村万作家
2008年(平成20年)1月から始まった「横浜狂言堂」。毎月第2日曜日。2020年6月の公演(コロナで無観客配信)で150回を迎えたらしい。天災やらコロナでの中止も回数に入ってはいる。それを記念して、2020年6月27日と7月5日に、もともと、企画されていた公演だけど、コロナで延期になって、この日は、7月5日に予定されていた狂言組。6月27日予定分は、来週2月6日に公演予定になっている。4家4曲の、流派やお家を越えた(交えた)交流狂言会で、4曲4家でワンセット。
この日は、茂山千五郎と野村万作がシテを務める狂言という訳。
「横浜狂言堂」自体、このブログでは、回数の表示はしていなかったが、2018年9月の「横浜狂言堂」に行った記録があるので、129回目ということになるらしい。今回配布されたパンフレットに、150回の上演記録が掲載されていた。
その2018年9月のブログにも書いてあるが、もっとその前から「横浜狂言堂」には通っていたので、一体、いつから狂言堂に通っていたのだろうか。手元に残っている現役弁護士時代の訟廷日誌によると、2016年(平成28年)10月に「横浜狂言堂」という記載が残っていて、106回目らしい。この頃から、原則として、毎月の「横浜狂言堂」に通っていたのではないだろうか。
以後、毎月だから、結構通っていたね。
今回の企画公演会場には、2008年以来の公演の写真が何枚か掲示されていて、昔の狂言方は、若い!
さて、今回の狂言。まず『八尾』初めてだと思う。仏教の興隆で、罪人が地獄に来なくなって困った閻魔大王が、六道の辻に出てくると、罪人がいるが、八尾の地蔵菩薩からの文をかざして、閻魔を退却させてしまう。閻魔大王は八尾の地蔵菩薩と男色関係にあったのだった。
シテの茂山千五郎が、曲を選考し、お相手のアド罪人として、善竹家の隆平さんにお願いしたらしい。
同じ大蔵流で、同じ関西出身者ということもあってか、お家が異なることに違和感はなかった。
シテ閻魔は武悪の面、アド罪人はうそ吹きの面を付けていて、声だけでは、役者の区別がつかなかったのも、垣根を越える要素になったか。
『武悪』何度か。シテ主野村万作が、左手に太刀を構えて橋掛かりから登場。前に観た時は、勇ましく登場したが、今回は、歩み自体はゆっくりしていたが、太刀の持ち方や、表情には怒りが表現されている。
アド武悪を討ってこい、と小アド太郎冠者に命ずる。長いお付き合いをしているから困るというが、太刀を抜きかけて威して、討ってこい。で、この太刀で討ってこいと命ずるのだが、受け取る小アド太郎冠者は、両手で受け取って、右手で構えて行く。
太刀の持ち方で、武力行使の意思が示されると聞いた。ここまでは、野村万作とその弟子だから、家の問題は生じていない。
アド武悪の家に向かう小アド太郎冠者は、左手に太刀を持つが、腰の後ろに隠す。武悪の悪とは、悪いやつという意味ではなくて、例えば悪七兵衛景清の様に、強いやつという意味。武に悪だから、武力に強い、ということで、返り討ちを恐れて騙して外に連れ出す。が、討ったことにして、逃がす。
ところが、清水寺の近くの鳥野辺で、主・太郎冠者と、武悪が遭ってしまって、今度は武悪が幽霊の真似をして、主の太刀などを取り上げてしまう、というモノ。
常は、武悪が、曲名にもなっているようにシテのはずだが、今回は、まず野村万作がシテを務めるのが決まっていて、武悪役は避けたのか、同流異家の高澤祐介と共演することになったので、シテが主で野村万作、武悪はアドということで高澤祐介と配役されたらしい。
野村万作と三宅右近は従兄弟関係。
異家の違和感はなかった。やはり、野村万作の、当初の怒りに表情、武悪を討ったと聞いた時の喜びの表情、弔いに行こうという時のちょっと後悔の表情、幽霊に遭ってしまった時の恐れの表情が、実に上手に区別されて、そのまま感じ取ることが出来て、さすが。
こういう家×家の交流狂言は、滅多に観ることが出来ない。来週も楽しみだ。来週のシテは野村万蔵と山本東次郎。