1月16日(土) 国立能楽堂

能 『翁』  (観世流 梅若研能会)

  翁:梅若万佐晴(←万三郎から) 千歳:梅若万佐志 三番叟:飯田豪 面箱:石田淡朗

  笛:栗林祐輔 小鼓:久田舜一郎、古賀裕己、清水和音 大鼓:大倉慶之助

(休憩)

狂言 『二人袴』 (和泉流 野村万作家)

  シテ(男)野村萬斎 アド(舅)石田幸雄 アド(太郎冠者)高野和憲 アド(聟)野村裕基

仕舞 『嵐山』 梅若志長

    『屋島』 梅若紀長(←万佐晴から)

(休憩)

能 『二人静』

  シテ(菜摘女)加藤眞悟 ツレ(里女 静御前)梅若紀彰 ワキ(勝手宮神主) アイ(神主ノ下人)中村修一

  笛:小野寺竜一 小鼓:鵜澤洋一郎 大鼓:大倉正之助

 

初世梅若万三郎は、初世梅若実の長男で、明治元年生まれらしい。時期は解らないけど、能楽界初めての文化功労者となって、観世流梅若六郎家の分家として、独立して一家をなしたらしい。戦前のこと。直系で、2世、3世と続き、現3世は1941年生まれ。

同じ梅若姓だけど、一時梅若流を作った梅若六郎家(梅若会)とは違って、遠縁にはなるが、ずっと観世流。

そういうこともあってか、ワタクシは、梅若万三郎家(梅若研能会)とはあまり親近感が無くて、存在は知っていても、観能することは無かったが、今回梅若紀彰師が『二人静』のシテツレを務めて、あの二人の舞を舞う、と知って、迷わずに、行くことにしていた。

紀彰師がシテを務める舞台は、正面席を取るのだ。2列目。

 

『翁』6回目。今年は、素謡では無いのは初めて。

万三郎がシテ翁の発表だったから、ちょっと楽しみだったが、登場時から、あれチト違うぞ、という感じ。この段階では、万三郎怪我のため万佐晴代演とは知らず。ワタクシの印象は、去年2020年1月の梅若会でのシテ翁梅若紀彰のイメージが強くて、あの、舞台の支配力、ピンとした緊張感とどうしても比べてしまって、あのレベルを求めてしまうのです。

後で万三郎ではなかったと言うことを知って、ちょっと安心というか、成る程というか。

最初に登場するのが、面箱の石田淡朗。この動きが緊張感溢れる素敵なモノだっただけに、翁の登場と比較もしてしまったのです。

千歳の万佐志くんは、13歳で披きらしい。キチンと出来ては居たけど、やはり声や拍の踏みなど弱いので、重々しさが出てこない。

引き換えて、三番叟の飯田豪は、若いけど、迫力ある踏みの段で、掛け声も、拍もよろしい。石田淡朗と、若々しい組み合わせで、野村万作家の若者世代。狂言方の後見席に、野村萬斎と野村裕基が座る。裕基君は、先日、三番叟を披いたらしい。BSで、その練習風景の番組をやっていた。その裕基君は、勉強していますという風情で後見座。

野村萬斎は、自身の三番叟が素晴らしいだけに、後見座で、飯田豪の舞を見つめる目つきが、怖い。明らかに指導者の目つきで。ちゃんと出来ているか、との眼差し。萬斎は、狂言を演じている時の柔和な目つきと、こういうときの指導者の目つきと、まったく違うのです。これはワタクシだけの感想では無かった。プログラムでは、狂言方後見が誰かというアナウンスは無かったから、萬斎が座った時に、それだけで、緊張感が出たのは間違いない。

今回の『翁』は、新年の緊張感は、狂言方、野村万作の会が作り上げたものであって、シテ方は劣ってしまった。

 

狂言『二人袴』は、かなり久しぶりだった。シテ親の萬斎は、さっきとはまったく目つきが違って、狂言役者。アド聟の裕基君は、長袴を履いて動く姿が、ややサイボーグっぽ過ぎだったが、楽しんで演ずる風。

袴を何回も履き替えるのだが、前に観た時は、私自身がお袴を履いたことが無かった時代だったのでしょう、今回は、袴の履き方に注目して、なるほどああいう風に履くのね、と新しい発見。なんでも、自分で経験してみたことは、発見があって、楽しめる。

アド舅から、シテ親とアド聟が後ろが無い袴姿なのに、「左右と廻って舞いなさい」と言われるのだが、この部分も解らなかったが、仕舞の型でサユウをして、回り込むというという型で、これだと後ろが丸見えになってしまうのです。こういうのも、発見。

なんでも、知っていると、解って、面白い。

 

仕舞2曲。『嵐山』と『屋島』。これも、先日の稽古発表会でかなり練習した成果か、注目ポイントが解って、面白かった。『屋島』は『清経』と似た動きがあって、もしかして、紀彩の会の方が上手なんじゃ無いの、とか思ったりして。玄人も大変ですよね。素人に負ける訳には行かぬ。

地謡は、5名いて、迫力満点の仕舞でした。

 

お目当ての『二人静』。同じ梅若姓といっても、観世流と梅若会だから、基本的に型が違うはずで、あのシテとシテツレ二人の舞をどうやって合わすのだろうかと、興味津々。

まず、シテ菜摘女が登場してくるが、あれは紀彰師の動きでは無いよね、と納得。

前シテツレ里女の紀彰師が、幕の内側から、のうのう、と声を掛ける、ゆっくりと橋掛かりに出てくると、実際に暗闇から明るい橋掛かりに出ることが、あの世からこの世に出てくるようで、もはや、この段階で、ピシッと締まる。これで舞台を制覇した。声が良い。足使いの摺り足が美しい、一の松での立ち姿も美しい。背筋が違う。

シテ菜摘女の舞も綺麗でした。

でも、後場で後シテツレ静御前の霊が出てきて、舞うと、あれまあやっぱり違うじゃん、という感じ。

解説本によると、前シテが里の女、後シテが静御前の霊で、ツレが菜摘女との配役が一般的か。

しかし、今回は梅若研能会であって、その所属する能楽師がシテを務めるのが筋で、しかし、年齢や実力上は、紀彰師が上回ってしまうから、菜摘女をシテとして、里の女と静御前をシテツレとしたか。この曲は、いずれがシテかシテツレか、難しい曲だから。二人の上手が揃わなくてはうまく行かぬ。

橋掛かりや、背後から、後シテツレ静御前の霊が、シテ菜摘女を、操っているようだから、静御前の霊の方が上回って良いのだけど、それが今回はシテツレでした、という配役に過ぎない。事実上両シテとしてもよろしい。

いずれにしても、ワタクシ達弟子としては、紀彰師がシテの舞台を見られた感じで、感動に浸ったのでした。

贔屓目かも知れないけど・・。素人弟子だし。師匠が最高と思うのは致し方ないでしょう。

 

今月は、連続した週に、紀彰師のシテ舞台を鑑賞できて、仕合わせ。来月の能楽協会式能もあるのです。

ますますお稽古に力が入るのは請け合い。先日の、発表会も楽しかったし。またやりたいなあ。