1月6日(水) 国立能楽堂

素謡 『神歌』 (観世流 観世会)

  翁:角寛次郎 千歳:角幸二郎 地頭:武田志房

能 『弓八幡』 (観世流 観世会)

  シテ(老人 高良明神)上田公威 ツレ(男)清水義也 ワキ(勅使)御厨誠吾

  アイ(山辺の者)山本凜太郎

  笛:藤田次郎 小鼓:鳥山直也 大鼓:大倉正之助 太鼓:麦谷暁夫 地頭:浅見重好

  面:前シテ・小牛尉 後シテ・邯鄲男

(休憩)

狂言 『靭猿』 (大藏流 山本東次郎家)

  シテ(大名)山本則俊 アド(太郎冠者)山本則重 アド(猿引)山本東次郎 子方(猿)山本則光

 

2021年(令和3年)初の能楽鑑賞。

 

年初は、恒例で能『翁』なのだけど、素謡で『神歌』。こういう形式もあるのですね。『翁』の前半部分、三番叟の前迄を、素謡で謡う。千歳の舞や翁の舞も無いし、囃子方も出てこないし、面箱もない。

こういう素謡形式の『翁』というか『神歌』が、今年は多いようだ。どしてかな。

でも、例の「とうとうたらりら、たらりあがりららりとう」と翁が歌い始めると、さすがに、引き締まるね、新年って感じ。

勿論舞台の梁には幣が下がって、全員裃。

謡いたいなあ、謡えないかな、難しいかな。梅若の謡本では、級数が書いてなくて、「別伝」とある。そうか、素人には教えてくれないんだ。

 

能『弓八幡』初めて。京の、石清水八幡宮に、如月の初卯の日の神事に参加しようと、ワキ勅使が参詣していると、袋(弓が入っているくらいの大きさ)を担ぐ前シテ老人が現れ、それを見せろというワキ勅使に、弓を袋に入れ、剣を箱に収めることこそ、天下泰平の印だと諫める。武力は用いない平和が一番、という訳。実は、高良の神だといって消える。

後場は、神舞中心。

始まりは、真ノ次第、真ノ一声と、気持ちよい緊張感で、素晴らしい。

まあ、御代を讃えるお能だから、私の嫌いな「君が代は千代に八千代に・・・・」の詞章も出てくるが、仕方ないか。

アイの山本凜太郎君。しっかりと語っていました。やや声が高めなので、声が低くて大きな声のワキ勅使の御厨さんと比べてはいけない。何度も演じる狂言曲などとは違って、お能のアイ狂言語りは、あまり経験が出来ないはずで、そもそもそのお能の曲が上演されて、狂言方のそのお家に出演依頼があって、そのなかで凜太郎君が語るのだから、大変でしょうね。重大な役割。

後場は、何だか、ウトウトしてしまった。神様の舞。

 

お目当ては、狂言『靭猿』。大藏流山本東次郎家の『靭猿』の連続。前回は、去年10月横浜能楽堂で、シテ大名山本東次郎、アド太郎冠者山本則俊、アド猿引山本則重だった。子方の山本則光は変わらず、則重さんの長男。

今回の配役は、上記の通り。猿引を東次郎さんが演ずるので、楽しみ、楽しみ。

子方の可愛いさは、言うまでもない。前回より、今回の方が動きが多かったか。40分間、止まることなく動き回り、飛んだり、跳ねたり、寝転んだり、まあホントに大変。5歳。我が孫は7歳。

でも今回は、賞美はやはり東次郎猿引。まず、橋掛かりから登場する様が、可愛い可愛い小猿よ、と言っている。

そして、シテ大名から猿を貸せ、殺せと無体にも命じられると、それに抗弁する怒りの形相。

許された時の安堵。

その後、お礼に、猿が舞ってみせる。それを観ているアド猿引東次郎爺さんと、シテ大名則俊爺さんが、2人とも、可愛い可愛い孫の舞と、一緒に遊んでいる。爺さん2人と、孫。まあなんと微笑ましい。

前回より今回の配役の方が、孫を持つ高等遊民爺さんとしては、心に迫る。泣かなかったけど。

最後、小猿をおぶって退場しようとする時、東次郎さん、脚が痛いのでしょう、おぶらせにくくて、後見にいた則秀叔父さんが助けに来た。

いやはやまったく、3世代で、素晴らしい連携で、感動的。東次郎さんも、則俊さんも、何十年か前、小猿をやったんでしょうね。その時は、猿引や大名は誰がやったんだろうか。先々代の東次郎さんだろうな。

こういう巡り合わせの『靭猿』は、見逃せないですねえ。

 

間もなくコロナで非常事態宣言が出るが、能楽は決して不要不急ではないので、今年は絶えることなく、続けていっていただきたい。あの苦痛の数ヶ月は、避けましょうよ。