12月19日(土) 横浜みなとみらいホール

指揮:飯森範親

① ハイドン:交響曲第9番

(休憩)

② ベートーヴェン:交響曲第9番

  ソプラノ:中村恵理 アルト:富岡明子 テナー:堀宏憲 バス:大西宇宙

  合唱:東京音楽大学

 

横浜能楽堂のお能『蝉丸』が終わって、出たのが既に16時41分。あれまあ、忙しい。タクシーが通る場所ではないので、走って、走って、丁度開会直前の17時56分頃到着。『蝉丸』の感動で、急いで支度しなかったも悪いけど、時間の感覚が失われているこの頃。

普段の日フィル横浜定期公演は、開演前に余裕を持って来場して、毎度のオーケストラガイドもしっかり聞いて、心を整えてから演奏にのめり込むスタイルだったのに。定期公演会の開始が、以前は18時からだったのが、17時開始になったことも、記憶的、習慣的に影響している。前に、能楽があっても、余裕で18時開演のクラシックに間に合っていた記憶。

 

そんな訳で、汗をかきつつ、駆けつけて、ほぼそのままの慌て心で第1曲のハイドンへ。

久しぶりのバロックで、良い音楽なのだけど、落ち着かない。飯森さんの指揮は馴染みがないが、どんなんかな、と考える余裕もなく。演奏途中で思い出してオペラグラスを取り出して、観る。

印象として、ファゴットの副主席演奏者田吉佑久子さんが、良かったと。指揮者も真っ先に紹介していた。今までの印象はなかったんだけど。ボクは、ファゴットとクラリネットの区別がよくついていない。

いつもの、フルート真鍋恵子さんは、今日は、落ち着き気味の黒ドレス。良かったですよ。

 

今年の恒例第9は、どうなるんだろうか、と。そもそもやるの、という不安。無理しなくても良いんじゃないのか。変な演奏だとつまらないし、などとあまり気乗りのしないまま、演奏開始。

合唱団もソリストも登場していない。合唱団用に、会場床の向こう側、後ろの客席が全部空席。ここに、合唱団が入るんだ。ソリスト用の椅子は、指揮台より前の客席側。客席も前列数列が空席で、コロナの飛沫対策。ますます、ちゃんとやるのかな、という心持ちで、熟知した曲だけど、もう一つ乗り込めない。

 

日フィルの今年の第9特別演奏会は、この日と翌日は、飯森さん指揮でこのグループ。22日から27日は、小林研一郎指揮でソリストも別のグループが4公演。でしょう、と。短期間で2人の指揮者の演奏では、日フィル楽団としては、飯森色には染まれないだろうし、桂冠名誉指揮者のコバケンと比較しては、飯森さんも独自色は出せないだろうよと。

第1楽章、第2楽章と聞いていくと、指揮者がコバケンのような雰囲気になっていくのは仕方がないし、そんなもんだろうと。あまり、期待もせず。

 

どこで、合唱団が入場するかと思っていたら、そのまま第3楽章へ。ああ、そこでぶった切るのね。

第4楽章前に、合唱団が、後ろの客席へ、間隔を保ちながら、白マスクを付けて、登場。大丈夫かなあ。まだソリストは入場しないまま、第4楽章が始まる。あれあれ、ソリストの入場でまたぶち切れるのかしら、と不安が増す。

が、演奏中に、事前に準備していたのでしょう、両側からソリストが入場。ぶち切れなくて良かった。

 

ところが、ところが、バリトンが「オー~ー~ーオ、フロインデ」と良い声で歌い出すと、もうダメ、涙が溢れる。良い声だ。

 

そして、合唱団が始まると、これまた涙が溢れる。まあいいや、こっちはマスクだからそんなにバレないさ。マスクの中は、涙で濡れる。人数も少ないし、超素晴らしい合唱演奏というモノでもないのだけど、何故に、涙が溢れるか。

あの子達は、まだ二十歳前後の、こどもだよ。日フィルメンバーやソリストはプロ。合唱団はアマ。今年は、そもそも出来るかどうか解らなかったけど、毎年のことだからやりたかったんでしょう。でも、練習できないよね。どうやって、リモートで練習を。

しかも、マスクです。ワタクシのつたない謡のお稽古でも、10分も謡うと苦しくなる。マスクを浮かせたくなる。それをあの子達は、しっかりと両手を下げて、まっすぐに立って、マスクのまま、必死に声を出して、歌う。人数が少ない分を補わなくてはならない。できるだけ声を張って。でも小さい声の部分もあって、でも、小さいながらも十分に客席に聞こえるように歌わねばならない。

毎年ならば、半分以上楽しみながら合唱しているし、よく顔を見ると目が輝いていた。今年は、遠くて、マスクでよく見えないけど、眼は必死だったよう。

名演奏だけが感動を与えるのではない。例えば高校野球の甲子園。プロ野球と比べれば下手なのだけど、その必至さが感動を与える。それに似通った、今回の第9合唱。東京音楽大学。お爺さんは、そんなことを考えながら聴いていて、それで感動して、泣いてしまうのです。

最後に、合唱指導者も舞台に出て、合唱団に向かって、拍手だけではなくて、ガッツポーズ。やったぜ、のポーズ。飯森さんもガッツポーズ。舞台の上も、客席も、合唱団に向かっておしみのない拍手。合唱団の退場にも、最後まで拍手。

高等遊民は、この記事を書いていて、思い出すだけで、涙が。歳なんだけど。高齢者は涙もろい。若い子達が頑張って。

 

若者よ。この経験は得がたいモノです。とてもとても重い青春の出来事です。よくやりました。よく頑張りました。そして、成功しました。やり遂げました。「歓喜の歌」ではなくて、「感動の歌」に仕上がりました。

今回の第9は、完全に、東京音楽大学合唱団の勝利。君たちが作り上げた感動の演奏会でした。