12月1日(火) 国立能楽堂
お話し 松岡心平 糺河原勧進猿楽について
狂言 『伊文字』 (和泉流 野村万蔵家)
シテ(女・使いの者)小笠原由祠 アド(主)野村万之丞 小アド(太郎冠者)野村万禄
(休憩)25分
能 『実盛』 (観世流 宗家)
シテ(老人・斎藤別当実盛幽霊)観世清和 ワキ(遊行上人)福王茂十郎 アイ(里人)能村晶人
笛:一噌庸二 小鼓:大倉源次郎 大鼓:國川純 太鼓:小寺佐七 地頭:岡久広
面:朝倉尉(河内 作)
今月の国立能楽堂の月間特集は、勧進能。その第1回が今回で、お話しも、1464年に開催された糺河原勧進猿楽についてであって、本日の演目である狂言『伊文字』と能『実盛』は、その勧進猿楽で演じられた記録があるらしい。
お話しは、それぐらいしか理解できず、興味も湧かないので、寝た。
狂言『伊文字』は2度目くらいかな。そろそろ、狂言の観劇記録を纏めた方がよろしいのですね。まあ、本ブログを始めて、記録が残っている以後ですが。
「恋しくは 問うても来ませ 伊勢の国 伊勢寺本に 住むぞわらわは」という和歌を思い出そうとするお話し。
例によって、妻を得ようと清水寺に籠もり寝ていると、西門の階に立ったものを妻とせよとの霊夢。どうして、いつも、西門なんだろうか。
太郎冠者が行ってみると、そこに現れた被衣の女が、上記の和歌を詠んで、消えてしまう(幕に戻ってしまう)。これが、前シテというのかしら。
ところが、太郎冠者は「恋しくは 問うても来ませ い」までしか覚えきれず、後は忘れるので、困った主と太郎冠者は、「歌関」というのを拵えて、通りかかりの者を捕らえて、和歌を聞き出そうとする。これでなんじゃこら、だけど、まあ、良いのじゃ。
そこに通りかかった後シテ使いの者も、さてもさても迷惑なことながら、まずは国の名前だろうとして、次々に「いの字」の付く国名を上げていく。その様子がおかしい。お能に似た、謡を謡うように、語りを話すように、舞を舞うようにして探していく。常の、狂言語りとは違って、リズミカルで愉快。聴いていても気持ちよさそうな。歌いたくなるようなリズム。習っているからかな。
伊勢の国を発見して、そこまで吟じさせてみる。この吟詠もよろしい。
で、最後に、国では無くて、里の名前も同様に思い出させて、めでたし、めでたし。
謡や、仕舞は難しいモノではないが、リズム良く、楽しい。が、勿論芸の素養が無いと乱れる。そこは、万蔵家。きちんと。大したもんです。狂言方も大変。楽しめた狂言。
能『実盛』。2度目。2019年6月に、金春流で。
ワキ遊行上人の元に現れた前シテ老人は、実は、長いの斎藤別当実盛の幽霊で、大昔、篠原の合戦で、平家方であった実盛が、老体であることを隠して、髪を染めて、許しを得て大将の纏う錦の直垂を着けて戦うが、やはり力及ばず首を落とされてしまう。その首実検で、首を洗うと、黒髪が白くなって、斎藤別当実盛だとわかってしまう。前場は、その執念でワキ遊行上人の前に現れ、後場で、幽霊が篠原の合戦を振り返って、無念無念と、弔いを頼む、というモノ。
アイ里人がまず口開け。ワキとワキツレが語り合っていると、橋掛かりから、ゆっくり、ゆっくりと、ホントにゆっくりと前シテ老人が登場。この歩みは見どころ。ワキと前シテと語らう。前シテが、「魂は冥土にありながら、魄はこの世にとどまりて」と、絞り出すように。声もやや嗄れて。ここは、ビビッと。
地謡に謡われて、笛がゆっくり奏でられるなか、前シテは、ふたたび橋掛かりから、ゆっくりと、ゆっくりと退場。お幕も、ゆっくりと上がる。老人の執心がよく現れていて、秀逸。観世宗家、清和さん、よろしいんじゃないですか。
さらに、アイ狂言の、能村さんの語りも秀逸でした。これまでの源平合戦での実盛の役割も語りつつ、篠原の合戦も。これは普通の狂言語りだけど、声も良く、意味も解って、万蔵家の能村晶人さん。さすが。
後場は、同じ面で、白髪になって、錦なのか、金色の綺麗な装束で、太刀を持って、登場し、葛桶に座って語り、立ち上がって、戦う舞と語り。そんなに、激しい戦いぶりではない。何しろ、気概だけはある老体なのです。討たれる様子も、老武者の悲しさが溢れていました。前場と違って、声もやや変わって。弔って欲しい、と。留め拍を踏んで、お終い。
後場では、拍を踏むことが多かったが、大きな音で、揺るぎなく、しっかりと。
さすが、観世宗家。見直した。ただ、観客が、宗家筋の方が多いらしくて、なんだか、純粋に楽しめない感じ。集中しろ、という見所からの圧力が隣席からも。観世の人々。恐!
観世宗家も大変だよね。世間の見る目が違うし、こどもの頃からの圧力、重圧の中で、ここまで成長しなければならなくて。お家からも、お素人弟子からも、プレッシャー。
でも宗家観世清和さん。よろしかったというのが、感想。
『実盛』という曲も、良いんだね。世阿弥作らしい。
面も、さすがの宗家。良い面で。
高等遊民。師走初めの能楽楽しめました。睡眠不足だったけど。土曜日の映画とコンサート、日曜日の国立能楽堂、月曜日のお稽古と、疲労が重なったが、良かったです。