11月11日(水) 国立能楽堂
舞囃子 『海士』・赤頭三段ノ舞 シテ:梅若紀彰
笛:藤田貴寬 小鼓:飯田清一 大鼓:河村大 太鼓:金春惣右衛門 地頭:観世銕之丞
独吟 『近江八景』 シテ:梅若実
舞囃子 『卒塔婆小町』 シテ大槻文藏
笛:藤田貴寬 小鼓:飯田清一 大鼓:安福光雄 地頭:梅若実
狂言謡 『祐善』 狂言方:茂山千五郎
(休憩)
一調 『遊行柳』 シテ:粟谷明生 太鼓:三島元太郎
一調 『勧進帳』 シテ:武田孝史 大鼓:河村大
能 『天鼓』・弄鼓之舞
シテ(王伯 天鼓の霊)観世銕之丞 ワキ(勅使)福王茂十郎 アイ(官人)野村太一郎
笛:松田弘之 小鼓:大倉源次郎 大鼓:安福光雄 太鼓:小寺真佐人 地頭:梅若紀彰
能楽座自主公演は、去年の9月にも観ている。去年も人間国宝が多数出演したが、今年も、梅若実(シテ方観世梅若)、大槻文藏(シテ方観世九皐会)、三島元太郎(太鼓方金春流)、大倉源次郎(小鼓方大倉流宗家)の5人。
でも、実は、去年も同じだけど、お目当ては、舞囃子シテ、地頭に登場した梅若紀彰。今年は、紀彰先生にお頼みして、正面席の良いところをゲット。
能楽座は、同人で、メンバーは、梅若実、大槻文藏、三島元太郎、観世銕之丞、福王茂十郎(ワキ方福王流宗家)、松田弘之(笛方森田流)、大倉源次郎、ここまでは今回出演者、他に、野村萬、野村万作(いずれも人間国宝狂言方)らしい。9名だけか。
その能楽座の自主公演という訳か。今年は第26回。副題に、「観世元信 茂山千作 偲ぶ会」とあるから、このご両人も同人だったか。観世元信さんは不知だったが、太鼓方観世流宗家だったらしい。88歳で他界。茂山千作さんは狂言方大藏流茂山千五郎家。74歳で他界。
去年が、藤田六郎兵衛を偲ぶ会だった。同人がどんどん少なくなっていくのか。補充があるかどうかは不明。流派などを超えて、当代一流の能楽師、演奏家を集めて結成された会(座)らしいが、毎年自主公演をしているらしい。
それに、我らが師匠の梅若紀彰が、去年も出演。一流の証明だよね。他にも一流はいるけど、少なくとも出演者は一流と、その世界で評価されている。
まず、例の如く、何の合図も無くして、舞囃子『海士』の開始で、梅若紀彰師が切り戸口から登場。薄い古代紫の色紋付きに明るい色の袴。格好いい、とここだけで気が集中。全員定位置について、紀彰師が謡い出す。その声の素晴らしさ、節付けのうまさ、ここでも、あれまあ、と。更に、立ち上がって、ゆっくりと進む。綺麗な摺り足と上半身の姿勢。舞の風も、キチンと型が決まって、しかも余計な微動はまったくない。素晴らしい。無駄な動きは無い。しかも大仰では無く。圧倒的な支配力。目と心が点になる。集中する緊張感。
地頭の観世銕之丞も、安心して観ている感。上手同士の掛け合い。囃子方との息もぴったり。
あれまあ、こんな先生に習っていて良いのか、と改めて。
独吟『近江八景』は、梅若実。ヨチヨチと歩いて登場だけど、葛桶に座るけど、良い声だ。
引き続く舞囃子『卒塔婆小町』は、大槻文藏。が、御年78歳にしては、声が弱く、舞も力というか迫力は感じられない。『卒塔婆小町』だから良いのか。でも、声はあそこまでビブラート掛けなくても、と思う。この地頭は梅若実。独吟終了して一旦引っ込んで、直ぐに再登場。
狂言謡『祐善』というのは初めて。こんなのあるんだ。語りでは無くて、謡。狂言方らしく、聞き取りやすい。茂山千五郎も良い声だし。ちょっと喉に痰がからんだか。今回は、野村萬さんも野村万作さんも出演がないから、狂言方の面目に掛けて、朗々と謡いました。『祐善』という曲も知らないし。
一調の初め『遊行柳』は、粟谷さんもよろしいが、やはり、ここは人間国宝三島元太郎さんの太鼓。94歳のハズだけど、ちっとも乱れず、素晴らしい太鼓。力強さも失われていない。そういえば、最近、三島元太郎さんを観ていなかったかなあ。まったく衰えは感じないので、お元気でまた舞台を見せてください。
次の一調『勧進帳』も、シテ舞の武田孝史さんもよろしいが、ここもやはり大鼓の河村大さん。素晴らしい迫力ある大鼓でした。
このところ、囃子方の演奏に惚れることが多い。お囃子も学ばないと、謡と仕舞もうまくならないのでは無いかな。
能『天鼓』は、ほんの2ヶ月前に国立能楽堂の定例公演で観ている。その時は、金剛流豊嶋彌左衞門さんシテ。その時の感想は、ブログにあるけど、あまり高評価はしていなくて、ストーリーにも満足できず、シテの舞にも、ね。
ところがところが、こうも、シテ方や出演者で違うのかと思うほど、感激。前シテ王伯の気持ちも良くわかるし、その動作が意味があるのが良くわかるのだ。
観世銕之丞さん、偉い。いっぺんで好きなシテ方になってしまった。
更に更に、人間国宝小鼓の大倉源次郎さん。前シテ王伯が、帝の前で、仕方なく恐る恐る鼓を打つ時に、丁度それにぴったりのタイミングで、それまでの打ち方と少し変えて、ぴったりに、ポンと打ったのです。それで、背筋がピリピリ。二人の、一流役者が気を合わせて演じると、こういうことが起きるんだ。
更に更に、この地頭の紀彰先生。良い声で、素晴らしく地謡を纏めて、迫力満点。今度は黒紋付きに地味な袴でした。
アイ官人の野村太一郎君も、頑張っていました。同人の野村お二人の系統だもんね。良かったです。
ああ、お能って言うのは、一期一会なんだ。こういうのをお能の舞台は一期一会って言うんだ。
一流の役者達の、一流のお能を鑑賞すると、一変する。お能が本心から好きになる。『天鼓』は好きな曲になってしまった。
高等遊民は、これで中級者のお能観になったか。来年の能楽座自主公演も必ず。結構空いているんだよね。ワキと中正面は市松模様席で、空きが目立つ。正面指定席は、関係者が多いのか、詰まっていたけど、それでも空席あり。
勿体ない。こんな一流が揃うのに。