10月25日(日) 横浜能楽堂

狂言組  (大藏流 山本東次郎家)

『靭猿』

  シテ(大名)山本東次郎 アド(太郎冠者)山本則俊 アド(猿引)山本則重 アド(猿)山本則光

(休憩)

『茶壺』

  シテ(すっぱ)山本則俊 アド(中国の男)山本泰太郎 アド(目代)山本凜太郎

(休憩)

『鬮罪人』

  シテ(太郎冠者)山本則秀 アド(主)山本則孝 立衆(客人)山本凜太郎・山本泰太郎・若松隆・山本修三郎

  笛:栗林祐輔 小鼓:住駒充彦 大鼓:佃良太郎 太鼓:小寺真佐人

 

山本東次郎家総出演の、特別企画。東次郎家でも、『靭猿』ができるようになったんだ。

 

『靭猿』4回目か。でも、東次郎家は初めて。小猿の山本則光ちゃんは、則重さんの長男。「本日が初役」とパンフに書いてあったが、要するに、則光ちゃんが後ほど独り立ちした時の経歴に、2020年10月「靭猿、披く」と書かれるのだ。そのホントの初日。初役。確か、国立能楽堂でも、同じ役で『靭猿』やるらしいけど、横浜能楽堂の、この日の『靭猿』が全国、全世界初演であって、歴史的なのだ。

シテ大名は東次郎さんで、大叔父さん、アド太郎冠者の則俊さんはお爺ちゃん、アド猿引の則重さんが父親。文字通り、総出演で、3世代そろい踏みなのだ。ここだけで、既に感動。

シテ大名は、堂々と威厳を持って登場。さすが人間国宝。まもなく、アド小猿が登場。ここでもはや会場から「可愛い」との声。大叔父さんとお爺ちゃんは、貫禄を持って。力強く。小猿は可愛げ。アド猿引父親は心配げ。全員が、役に応じて、アド小猿を見守る、励ます。

後半で、シテ大名とアド小猿が、一緒に芸をする部分は、シテ大名の東次郎大叔父さんが、孫のアド小猿と遊んでいる風が、そのままで、東次郎さんの目尻が下がりっぱなし。芸では無くて、「可愛い」という感情丸出しで、観ていても心温まる。

アド小猿の芸は、割と単純な動きの型になっていたけど、それでも「可愛い」とお爺ちゃんは思っている。途中で、アド小猿の足にヒモがからんでしまってちょっとヒヤヒヤしたが、シテ大名大叔父さんが、後見を借りずに、ヒモをほどいて上げた。

何度観ても、『靭猿』は涙、涙。

則重さんには、もう一人2歳違いの次男がいるらしい。その同年に則秀さんのお子さんがいるらしい。しばらく東次郎家の『靭猿』を楽しめそうだ。東次郎さんがシテ大名を務めるだけでは無くて、猿引でも良いのではなかろうか。前に、野村万作さんが猿引で、大名が萬斎、小猿が孫、というのを観たが、これは猿曳きが可愛い孫を殺されてしまうかという部分がクローズアップされて、それはそれで感動的でした。

 

『茶壺』も何回か目。主人から頼まれて茶を買ってきたアド男が酔っ払って街道で寝てしまうのを観たシテすっぱが横取りしようとする。仲裁のアド目代に対して、弁解をするシテすっぱは、盗み疑義をして同じことを話す。舞を舞って勝負になるが、事前にわからないシテすっぱは、同じ踊りをするが、少しだけ遅れる、がそれでもまあまあ舞う、勝負を決せられないアド目代が、茶を持って逃げてしまう。

舞を舞うシーンで、ほんのちょっとアド男の舞に遅れて舞うシテすっぱが、素晴らしい。わざと少しずらすのは難しかろう。でも、舞としてはきちんとした型。あの呼吸が、さすが。

 

『鬮罪人』初めてかな。くじざいにん、と読む。鬮=くじ。くじ引きで祇園会の山鉾の役を決めるという。アド主が頭になるが、ああいう人は記憶が悪いので、シテ太郎冠者の助言が無ければ何も決められない。でも、アド主は、口出しすな、とシテ太郎冠者を怒る。決まった山鉾で、下から罪人が登るのを、上から鬼が追い落とす、その罪人がアド主、鬼がシテ太郎冠者の役に鬮で決まる。その練習をしようというのに、ここぞとばかりシテ太郎冠者が復讐して、打ったりする、というお話し。

練習風景にはお囃子も入って賑やかに。

全員、お笑いではまったくなくて、真剣にお役をこなす。さすが、東次郎家の芸風は素晴らしい、と実感。

最後に、扇子を前に突きだして(さして)退場するのだけど、その時の扇子の角度が、泰太郎さん、凜太郎さんがきちんと上手に格好良く。あの動きだけ見ても、やはり、次世東次郎は、泰太郎さんだ、と納得。

 

先日の狂言堂で、狂言組はチト飽きたかな、と思っていたけど、この日の狂言組は、3曲だけど、どれも素晴らしく、芸を見せて頂いた。満足。

やはり、お家で大分違う印象。東次郎家は、芸も、人材も、安泰と言って良い。