8月5日(水) 国立能楽堂
舞囃子 『熊坂』 (喜多流)
シテ(熊坂)香川泰嗣
笛:内潟慶三 小鼓:鳥山直也 大鼓:柿原弘和 太鼓:麦谷暁夫 地頭:長島茂
狂言 『茸』 (和泉流 野村万作家)
シテ(山伏)野村萬斎 アド(主)高野和憲 アド(姫茸)野村裕基 アド(鬼武)井上松次郎 立衆中村修一他6名
(休憩)
能 『西行桜』・杖の舞 (観世流 梅若家)
シテ(桜ノ精)観世銕之丞 ワキ(西行上人)殿田謙吉 ワキツレ(花見男)舘田善博、他 アイ(西行庵ノ能力)善竹十郎
笛:松田弘之 小鼓:鵜澤洋太郎 大鼓:亀井実 太鼓:三島元太郎 地頭:角寛次郎 地謡:梅若紀彰他
附祝言
この能楽協会主催の能楽公演2020には、~新型コロナウイルス終息祈願~という副題があって、もともとは~オリンピック・パラリンピック能楽祭~の名称の予定であったが、延期(中止?)によって、名称を変えて、実現したモノ。
7月27日(月)の第1回が『翁』で始まって、最終第10回が8月7日(金)『道成寺』。
この間、各流各派の出演によって、現代の能楽の真髄を連続公演で示そうという企画。
その第8回に出かけた訳です。
なぜこの回を選んだかは、予定されていたシテ方が梅若実だったから。でもきっと脚が悪くてできないんじゃないのか、その時は梅若紀彰師が代役するのではないか、という期待から。杖の舞という小書きも、実先生の特別なんじゃないかな、と思ったりして。
舞囃子の『熊坂』は、長刀を振り回しての仕舞で、迫力あるし、強い型が多くて、見応えがある。
ただ、前日の紀彩の会お稽古の疲れが残っているらしく、瞼が落ちがち。
狂言『茸』は初めて。沢山の俳優が必要なので、あまり出ない曲だと思う。今回は、野村万作家が総動員に近い。万作さんは出演しないけど。茸が生えてきて困っている主が、山伏に祈祷を頼むと、却って茸が増えてしまうと言うお話し。茸(立衆)が舞台に出てくる時には、膝を折って、中腰になって、上半身を動かさず、さっさと出てくる。かなり苦しい体勢だけど、皆さん上手に。
これも途中、気付くと寝ていて、起きると、茸が沢山。姫茸役が乙面を付けていて、退場する時に、唐傘を踏んでしまうアクシデント。何も問題はなかったけど、誰かなと思ったら裕基君。
面白い狂言でした。
能『西行桜』、寝ないように万全の備えをしたが、ふっと気付くと寝てしまっていたようだ。10分位も。
京の西にある西行法師の庵。今年は、桜見物は断って1人ゆっくり楽しみたいと願っていたが、上京辺りから見物衆が来て、たっての頼みで見たいと言うから、折角なので庭に入れる。そこで、こうなってしまったのは桜の科だと「花見んと群れつつ人の来るのみぞ、あたら桜の科にはありける」と西行が詠むが、夜になると、シテ桜の精が出てきて、老木の桜に責めはない、ただ咲くのみと、優雅な舞を舞って、明け方に消えていく、というモノ。
まあ、春の桜花を愛でる、優雅な舞の曲。途中、「春宵一刻、値千金、花に清香、月に影」の句も地謡で出てくる。習っている『田村』にも出てくる漢詩で、春の景色を愛でる時には、決まりの漢詩なのだな、と。節は違う。こう言うのが解るのも、お稽古の賜。楽しい。
開始前、地謡に紀彰師が登場するが、私の席が脇正面で、丁度真向かいで、こりゃチト恥ずかしい、と思っていたら、桜の老木を現す作り物がでてきて、丁度、影になってしまった。
その後寝てしまって、起きたらば、幕は外されて、シテ桜ノ精は外に出ていた。で、一畳台の作り物越しに、紀彰師と対面。
シテの舞は、優雅で、ゆっくりだから、実師でもできたかも知れない。
代役に銕之丞師が立ったのは、能楽協会の理事長だからだろう。本来は、梅若会の中で代役を立てる、取り分け長左衛門さんが主後見だったから、彼に代役を頼むか、紀彰師の代役でも良かったはずだが、地頭が観世会のシテ方だったし、うまく回らなかったのだろう。理事長が責任を取って、オレが替わる、と、だな。
紀彰師の声は素晴らしくて、どうして地頭ではないのだろうかとも思うが、年齢かな。実質地頭を務めたと思います。
お能も素晴らしかったが、配布されたパンフレットの出来が良く、観世流宗家観世清和のインタビュー、宝生流宗家宝生和英のインタビュー、狂言方人間国宝で能楽協会顧問の野村萬の寄稿、元文化庁長官で大使も務めた外務省出身の近藤誠一さんのインタビュー、古典芸能に造詣の深いデーモン閣下のインタビュー、観世銕之丞と野村萬斎の対談、とそれぞれの立場からのお話しが有意義で、資料的な価値もあるし、重鎮と若手の考え方の違いも見えて、為になった。
伝統と古典。新しいネット利用や、コラボの位置づけ。能楽は、コテコテに造られている反面、空間的には自由だから、様々な取組はやりやすい。一方、それでは600年の伝統がどうなるか。明治の断髪令の時に、能楽師の髪形が一変したのに、受け入れられてきている。
高等遊民。紀彩の会で真面目にお稽古を始めてから、ほぼ1年。成果は上がっていると思う。どんどんと深みにはまって、能楽がどんどん楽しくなってくる。知識も増えてくるから、観方も進化してくる。