8月2日(日) 横浜能楽堂

お話し 小島英明 (観世流シテ方)

狂言 『附子』 (大藏流 茂山千五郎家)

  シテ(太郎冠者)茂山七五三 アド(主人)網谷正美 アド(次郎冠者)茂山逸平

能 『舎利』 (観世流 九皐会)

  シテ(里人・足疾鬼)観世喜正 ツレ(韋駄天)桑田貴志 ワキ(旅僧)野口能弘 アイ(能力)松本薫

  笛:栗林祐輔 小鼓:森澤勇治 大鼓:原岡一之 太鼓:梶谷英樹 地頭:遠藤喜久

  面:前シテ里人「鷹」(作者不詳)、後シテ足疾鬼「顰」(長澤氏春作)、ツレ韋駄天「小天神」(出目元休作)

 

横浜能楽堂での能楽は、3月からすべて中止になってしまっていて、この日が復活初日。5ヶ月の休業。私としての能楽は、先月7月から国立能楽堂のショーケースに何度か。従って、能楽は既に復活していたが、我が本拠地横浜能楽堂での復活には、感慨深いモノがある。

 

お話しは、やはりこの企画も初心者・外国人向けに企画されていたものなので、能楽の解説から。

そもそも、この企画の正式名称は、「NOHGAKU for everyyone ~みんなで楽しむ能・狂言~」となっていて、”能サポ”という、ロビーや見所だけで受信できる、解説の配信をスマホやタブレットで読めるという、新しい取組もあって。数カ国語用意されていた。

しかし実態は、全員日本人で、能楽鑑賞初めてという方も数名だけか。

この”能サポ”は、詞章の表示はなくて、場面の解説だけなのだけど、やはり現在話している詞章と、もう少しリンクしないとなあ、と思います。

座席は、市松模様席で、見やすいことこの上ない。入場時にも、体温チェックや消毒で、厳重。楽屋でも、等間隔でベテランも下っ端も場所が与えられ、開幕前のお弁当も、教室形式で全員前を向いて食し、会話も控えめだそう。

九皐会自体は、もう7月に舞台があったようだが、横浜能楽堂は初めてで、試行錯誤感と緊張感。もうすぐ慣れるさ。市松模様席は続けて欲しいけど。

 

『附子』、この前も見たばかり。茂山千五郎家も、過去に見た記憶。茂山逸平は、あいかわらず声が大きくはっきりしている。太朗・次郎冠者の掛け合いも安心して、愉快に見ていられる。ストーリーや、仕草もほぼ覚えてしまっているが、それでも楽しいのは、さすがの伝統芸術なのかしら。

 

『舎利』は初めて。中止になった能楽公演のどこかにあった記憶で、その時に、十分勉強していたから、安心して臨めた。

観世喜正のファンなんです。上背があって、声も大きく良い声で、舞も紀彰師に似ていてまったく違和感が無くて。

ストーリーは単純で、天皇家の菩提寺で、仏舎利があるという泉涌寺に、ワキ旅僧が見学に来ると、得体の知れない前シテ里人が現れて、由来を語りつつ、最後は身分を明かして足疾鬼の執念だとして、舎利を持って逃げてしまう。

このとき、一畳台に置かれた仏舎利の台を踏みつけて壊す。中の発泡スチロールが見えてしまうのはご愛敬。

そこで、中入り後、舎利を取り戻すべく、ツレ韋駄天を呼び出して、天上界で、大いに戦って、ツレ韋駄天が勝利し、後シテ足疾鬼が舎利を差し出して返すというモノ。

どうも、昔々にも、足疾鬼が舎利を盗んで、韋駄天が取り返すという「出来事」があったという仏説らしく、その再現ドラマかな。足疾鬼の執念が盗むというのが面白い。対する神韋駄天は執念ではないはず。負け2度目。

鬼と神(仏法の守護神の一である韋駄天)の戦いは、激しく、勇壮で、とても、幽玄な能ではない。幽玄性など、ない。だからこそ、初心者や外国人に受ける面もあるのでしょう。

さすが、観世流九皐会の御曹司のシテだけあって、面は立派な、珍しいモノを使用。

後場の、強い激しい舞と、囃子方。飽きないですね。決して眠くならない。

観世喜正は、こういう強いモノに合う。習ったばかりの、強いヒラキ、強いサシ。ああ、こういう風にやるんだ。

コロナ対策で、地謡は5人が間隔を取って一列。これは九皐会のやり方。激しい舞と囃子方には、やや負けてしまうか。みんなしっかり大声だったけど、やはり、8人と5人では違う。少し残念。

 

高等遊民の、横浜能楽堂復活でした。