7月12日(日) 横浜能楽堂
狂言組 (和泉流 野村万蔵家)
お話 野村万蔵
『川上』
シテ(男)能村晶人 アド(妻)河野佑紀
(休憩)
『附子』
シテ(太郎冠者)野村拳之介 アド(主)石井康太 小アド(次郎冠者)野村万之丞
5ヶ月ぶりの横浜能楽堂。横浜狂言堂。座席は、市松で、見やすい。まあ、どこでもこのスタイルか。最前列も着席できる。市松模様座席が、今後、多分年内くらいは続くか。見物は半分で、単純に収入は半分だけど、こういう公共的施設の主催公演は、出演料はきちんと支払っているのだろう、と思う。貸し会場の貸し賃が半分になったという話を聞いたことはないから、主催公演以外は、結構難しいのでは。独自の会館を持たない能楽関係者は、開催が困難になる。赤字覚悟しないと。
野村万蔵のお話でスタート。やや緊張した面持ちで、登場。これでまず見所から拍手。「お久しぶりでございます」の一声で、更にひときわ大きい拍手。万蔵の破顔一笑。うれしそう。見所も、声は出せないけど、「待ってました」という雰囲気に満つる。役者と見所と、共通の期待とうれしさと感情交錯。こういうのは、国立能楽堂ではなかったな。やはり、常連の多い横浜能楽堂ならではか。良い感じ。
この休みの間、お稽古ばかりしていたと。内輪のお稽古舞台は持っているんだね。だから、この日の公演は、たっぷりとお稽古を積んできた成果を観て欲しい、と。出演者も、万蔵も後見だけだし、萬は無し。中堅レベル。
『川上』初めてかも。珍しい曲だといっていた。
生まれつきではない盲目のシテ男が、川上にある地蔵尊に通夜参りして、開眼できる。ところが、それには条件があって、アド妻とは悪縁なので、離別しないと再びめしいになってしまうという。シテ男は、この条件を飲んで来たが、帰ってきてそれをアド妻女に伝えると、怒ること怒ること。これまでの私は何だったのよ。で、シテ夫はこのアド妻の怒りに触れて、再びめしい(盲)になることを選んでしまう。
ええ、これでいいのか。念願の目開きになれた、シテ夫のことを、我が事のように喜んで、良かったね、私は陰ながら見守りますから、というのが妻じゃないのか。そんな条件をつける地蔵尊も地蔵尊だけど、妻はそんなモノか。ま、幸せそうに、妻に手を引かれるシテ夫だから、良いか。とやかく言うことじゃないか。
そのシテ男能村さんの盲ぶりの演技が光った。杖を突いて、よたよた登場。目はつぶっているように見えるが、少し開いているのだろう。歩こうとすると、何かにぶつかって、バッタと倒れる。ホントにバタッと。地蔵尊に向かう階段を上る様子も、折れ曲がった階段を用心しつつ登る様が、見事。地蔵尊のおかげで、目明になると、目も開いて、見慣れた能村さんの顔。そして、再び、めしいになって、目をつむった様子で退場。
お稽古たっぷりしたんだろうなあ。
『附子』、これは何度も。流儀や、お家で少しづつ違うのだろうけど、今回はフルバージョンだったか。
ストーリーは、ご存じ。
アド主の石井さんは、もとお笑い芸人で、ある時から狂言の訓練を始めて、何年間かしっかり修行をして、45歳にして、初舞台だと。万蔵さんも、芸人がちょっと狂言をやってみたという目で見ないで、と。野村万蔵家の一員になったということでしょう。
まあ、非常に緊張していた。観ているこっちも緊張して。登場からスリ足が速いし、台詞回しが早口。緊張すると、早くなるのは、我らが素人のお稽古でも同じ。台詞は、大きな声で、しっかり発声していたけど。目もまっすぐ前を向いていたし、基礎はできているんだけど。何しろ、場数が少なくて、良い意味での慣れがない。当たり前だけど。
留守番をする、太朗・次郎冠者。普通は、兄が太朗、弟が次郎冠者を務めるが、今回は、弟が太朗、兄が次郎。何だろうこの差は。兄万之丞の方が、良い。実験的配役かも知れないけど、万之丞の方が上だな。やや軽いけど。もちっと、重々しくなれば、万蔵家を継ぐか。
いつか、萬さんが、我が家は老・壮・青がうまく行っているとテレビで言っていた。老は萬、壮は万蔵。さて、青はやはり万之丞か。
今回の狂言堂。役者も、久しぶりでしっかり稽古を積んで舞台。見所の方も、しっかり期待を込めて、やっと観られるという心で。ここに一致して、素晴らしい舞台になったと思います。
コロナ休業は、悪いことばかりではなかった、と思う、高等遊民です。