3月12日(木) 横浜能楽堂
講演 『天満天神が起こす奇跡劇』 小林健二
仕舞 『老松』 観世喜之
『鳥追舟』 観世喜正
狂言 『文荷』 (和泉流 野村万作家)
シテ(太郎冠者)野村萬斎 アド(主)月崎晴夫 アド(次郎冠者)深田博治
(休憩)
能 『藍染川』 (観世流 九皐会)
シテ(梅千代ノ母 天満天神)中森貫太 子方(梅千世)富坂唐
ワキ(太宰府神主)福王和幸 ワキツレ(左近尉)福王知登 アイ(神主ノ妻)野村萬斎
笛:杉信太郎 小鼓:飯田清一 大鼓:亀井広忠 太鼓:小寺真佐人 地頭:観世喜正
面:紹介なし。前は増女か、後は天満天神か
コロナウィルス騒ぎの中、敢然と能会を開催。とても珍しい曲で、準備万端なのに、中止は勿体ないし、延期はまた役者たちが揃わないというのが本音らしいが、でも、感染防止の諸注意が徹底されていて、症状のある方はご遠慮ください、そうでない方は手洗いと消毒の敢行、こういうことならば、開催しても良いはずで、国立能楽堂や横浜能楽堂の主催講演も、こういうことでやればよろしいのに。なんと主催企画中止は3月20日まで延長されてしまった。
学者の講演、小林先生のは大概つまらなくて、寝てしまうのだけど、今回は、まあまあ面白かったので、寝なかった。話し方だけではなくて、『藍染川』のあらすじから始まって、能の形式、霊験能、手紙の趣向、ワキツレ左近尉、アイ神主ノ妻の役割の紹介など、講演の内容が良かったんだと思う。
仕舞2曲。九皐会のトップ観世喜之は、年取りすぎ。声も弱々しく、舞も危なげで、大丈夫かいな。
その息子観世喜正は、声も良いし、舞も素敵だし、大きいし、やはり九皐会はもはや喜正の時代。喜之は隠居して家督を譲った方が良い。私は、観世喜正師のファン。
狂言『文荷』は2度目かな、主のラブレターを運ぶ役を太郎と次郎冠者が命ぜられ、嫌で嫌で、でも、盗み読みをして笑い飛ばす、取り合って、破いてしまう、主が怒って、お許されませ、やるまいぞ、と。
いや、3回目だった。2019年2月の狂言堂(野村万作家)、5月の国立能楽堂定例(山本東次郎家)。前回の端折った感じが、今回はたっぷり。記憶では男色だったなあ、と思っていたけど、今回は男色系の台詞は聞き落としたかな。
萬斎の太郎冠者は初めてだ。上手でしたね。きっと今月はあちこちで萬斎狂言は中止になってしまったか。疲れた感じはなかった。
メインの能『藍染川』。勿論初めて、観世流と金春流で現行曲ではなるが、めったに上演されない。今回の出演者中で、大鼓の亀井広忠さんだけが経験者だと。でも、観世流の謡本を売っていたので、お稽古ではやっていたんでしょうね。
シテの出番が少ない。よく出るのは、ワキツレの左近尉と子方の梅千世。梅千世を演じた富坂唐くんは、シテ方の子ではなくて、中森貫太の弟子の小弟子らしい。ちょっと声が出ていなかったけど、きちんと演じていました。
ストーリーは、ワキ太宰府の神主が京に行っていた時、夜伽ぎの女に子供を作ってしまう、それを置いたままワキ神主は太宰府(福岡)に帰ってしまうが、子供が大きくなったので、跡取りにしてもらおうと前シテ母と子方梅千世とで太宰府へ。泊まった宿の主であるワキツレ左近尉を介して、子ができた、二人で来ているという手紙をワキ神主に渡そうとするが、たまたま不在でアイ神主ノ妻が読んでしまって、子まで作ったか、跡取りにせよというかと激怒して、帰れという神主の偽の手紙を書き、前シテに渡す。酷く落胆して、前シテは藍染川に入水。子方も引き続いて入水せんとするが、ワキツレ左近尉にとどめられる。
舞台中央前・正中先に小袖が置かれて、これが、前シテ母の死体。『葵上』と同じ演出。
そんな騒ぎに時に、ワキ神主が帰ってきて、殺生禁断の河で漁をしているかと聞かせると、女が入水したと。で、前シテ母が書いたらしい遺言かな、手紙をワキ神主が読んで、事実を知って、悲しんで、子方梅千世と一緒に神式の祈り。この前に、作り物が出てきている。その中に後シテ天満天神が入っていて、鳴動して、登場。神の舞を謡って、舞って、どうやら梅千世の母は蘇生したらしい。よかったね。というモノ。
激怒して追い返した神主ノ妻はどうなっちゃうんだろう。
ストーリー優先のお能で、謡や、舞は大したことはない。よく知る能らしくはない能。
でも久しぶりの能会で楽しかったし、ストレス解消。2月23日の喜多流自主公演以来。18日ぶり。こんだけ長期に能から遠ざかったのは、初めてだなあ。
3月15日に梅若会別会が開催予定だ。