2月16日(日) 国立能楽堂

能『羽衣』・替之型 (金春流)

  シテ(天人)金春安明 ワキ(漁夫白龍)福王茂十郎

  笛:藤田朝太郎 小鼓:森澤勇司 大鼓:亀井実 太鼓:林雄一郎 地頭:辻井八郎

狂言『昆布売』 (和泉流 野村万作家)

  シテ(若狭小浜の昆布売)石田幸雄 アド(男)野村萬斎

(休憩)

能『藤戸』 (宝生流)

  シテ(浦の男の母 浦の男の霊)佐野由於 ワキ(佐々木盛綱)森常好 アイ(従僕)大藏基誠

  笛:森田保美 小鼓:幸信吾 大鼓:柿原崇志 地頭:今井泰行

狂言『腰祈』 (大藏流宗家)

  シテ(祖父)大藏彌右衛門 アド(山伏)大藏彌太郎 アド(太郎冠者)大藏教義

能『乱(猩々)』 (金剛流)

  シテ(猩々)廣田幸稔 ワキ(高風)飯冨雅介

  笛:杉信太郎 小鼓:曽和正博 大鼓:大倉正之助 太鼓:小寺真佐人 地頭:種田道一

 

第二部は、午後3時15分から開演。かなり疲れてきた。これから終演予定の7時20分まで。体力勝負か。

最初から考えると、休憩など入れて9時間20分。

 

『羽衣』は5回目。美しい舞の曲なのに、つまらなかったなあ。シテの舞が、情景が見えてこないんです。

お能は、想像する演芸だと言うことで、見所にも想像力を求めがちで、それはそれで合っているんだけども、演じている能楽師、取り分けてシテ方が、想像しながら、情景をしっかり見ながら、演じてくれないと、見所では、シテ方の舞や動きを通してしか、見所側にあるのであろう情景が見えるはずがない。

羽衣を盗られて、裸同然かな、の天女が、どこで、どうして、恥ずかしくもあって、白龍に天の羽衣を返してと言うのか。返してもらった羽衣を着て、どのような情景で、どのような心境で舞(序ノ舞)を舞うのか。演者が心の中から解っていないと、見所に伝わる訳がない。

『羽衣』はよく出る曲なので、みんな知っているんだあ。金春流がダメなのかしら。シテの金春安明は、金春宗家だと言うけど、宗家だからといって上手のハズがない。金春流は、消滅の危機かな。

 

狂言『昆布売』は初めてのハズ。二人大名と似る。重い太刀が面倒になって昆布売りに持たせるが、威張っていて面白くないから、昆布売りが逆に太刀を取り上げて威し、様々な風の昆布売りをさせた上、太刀も刀も持ち去るという、アホな侍の話。

まず野村萬斎が、例のやや高い声で登場して名乗ると、やはり舞台は一変する。下手くそな『羽衣』に引き続いて、おお、っとなる。さすが。

大分お疲れのようだけど、しっかりと、様々な踊りや浄瑠璃型などの、昆布売りをさせられる。

短い曲だけど、こういう五番立ての時には、清涼剤になる。上手の狂言師ならば。

 

能『藤戸』、初めてだけど、感動してしまった。涙。

源氏の大将佐々木盛綱が、藤戸の合戦の時に、馬で渡れる浅瀬を探して大勝利するが、それを教えた浦の男を、秘密保持のため殺してしまう。平家滅亡後、そこを領地にしたワキ佐々木盛綱が入部した時、殺された男の母親(前シテ)が、ホントに殺したのか、なぜか、どこに捨てたか、と問い詰める。訴訟と言うらしい。動揺したワキ盛綱は、詰め寄る母親を自宅に帰らす、それをアイが連れて行く。それを聞いたアイ達は、供養をせよと。ワキ盛綱は、管弦講を催して、7日間の殺生禁断を申しつける。まったく勝手な奴だけど、後シテ殺された男の幽霊が、殺された時の様子などを語り、成仏するというお話。

訴訟の場で、前シテがワキに詰め寄るシーン、それを追い返す様、アイが連れて行く悲しさ、後シテの語る殺され方、みんな上手で心に刺さる。こういうのを情景がよく見えるお能というのじゃ。わかったか、金春。

舞は無いけど、シテ方の語りや動作が、十分に能力を現す。ワキの語りも真に迫る。アイの語りも素晴らしい。

終わって、退場していく時、どなたかが「ブラボー」と。こんなことはルール違反だと言うことは見所はよく解っているんだけど、思わず、という態で。同感。

素晴らしいお能を見せて頂いた。

 

『腰祈』初めて。いつも登場する山伏は、威張っているばかりで能力は無いが、この山伏は、力が強すぎて、大切な祖父の腰を伸ばしすぎたり、折れ曲がらせすぎたり丁度がない。立腹する祖父と、困る太郎冠者、逃げる山伏。やるまいぞ、やるまいぞ。

お話が面白かった。芸としては、取り分けて言うこともなし。清涼剤。

 

『乱』初めて。元々は『猩々』という曲名だけど、特殊な「乱れ舞」が加わって、むしろこちらが主になると、曲名自体が「乱」になったらしい。

物語は、酒飲みの猩々が現れて、喜びの舞を舞うという、ストーリーではなく、舞ばかりの曲。シテ方も大変。囃子方も大変。

最初の頃は、習った型の舞が続いて、それはそれで面白かった。次いでさすがに「乱れの舞」に至ると、観たことも無い舞の型。足を前に蹴出すようにする。能の舞は摺り足なんだけど、蹴出す。回転させながらも。なかなか面白い舞。

そしてキリは、仕舞で習ったところ。素人の仕舞ではなくて、玄人のきちんとしたキリで、なるほどと。素人とは違うなあ。

笛方の杉信太郎が、大きな、若さ溢れる良い音色で。いつだったか、「杉新の会」に行ったけど、笛方で独自主催の能会を開くほどだから、伸び盛りで、上手。また「杉新の会」にも行くか。にわかファンで。

 

いやあ、長丁場の式能。通じて10時間くらい国立能楽堂内で。

第一部終了後は、来年は来ないよねえ、と思っていたが、最後は、やはり一年に一度くらいこういう式能も良いか、と。

様々な流派の能楽師達の比較になるし。

でもまあ、疲れました。フランス料理のフルコースを、お腹いっぱいに食べた感じ。中にはこれはどうかという皿もあるけど、全体としては満腹で満足、ということ。ごちそうさまでした。

 

来年は、2月21日(日)、国立能楽堂で。予定しておくか。今年の12月売り出し。今度は、脇正面じゃなくて、中正面にしよう。安いし、橋掛かりがよく見える。