2月8日(土) 横浜能楽堂
狂言組 (大藏流 山本東次郎家)
『粟田口』 シテ(大名)山本東次郎 アド(太郎冠者)山本則孝 アド(粟田口)山本則重
(休憩)
『節分』 シテ(鬼)山本凜太郎 アド(女)山本泰太郎
笛:一噌隆之 小鼓:田邊恭資 大鼓:佃良太郎
面:「鬼」(河内作・山本東次郎家蔵)
いよいよ、十一回目。あと一回だ。早いね、もう1年経った。
『粟田口』初めて。シテ大名が「粟田口」なるモノを買ってこいとアド太郎冠者に命ずる。ところが、「粟田口」なるモノが一体何なのか、物なのか、人なのかすら知らない、ただ高価なモノだと言うことだけ。万匹と言っていた。
で、京に出た太郎冠者は、「心の優れない者」と自称する、スッパに逢って、我こそ粟田口だとの口車に乗せられて、連れて帰る。大名もわからないから、書き付けと比べて問い詰めると、まあ、きちんと聞けば太刀の優れた物の特徴とわかるのだが、人物のことと勘違いをして、喜んでしまって。その上、うれしくて、すっぱ(アド粟田口)を連れて歩く。その様子が楽しそうなんです。ホントに粟田口という名前のそのスッパが気に入ってしまった。楽しそうにはね踊る。子供みたい。いよいよ太刀と刀を持たせて、自慢げ。その時、頃や良しとスッパが持ち逃げしてしまう。
驚いたのはシテ大名。まさか、裏切られたとは思えないが、みっともないのと、悲しさから、落ち込む。
このシーン、舞台には、後見もおらず、シテ大名東次郎だけ。ただ、一人。
その心象風景の移り変わりを、人間国宝東次郎が、素晴らしく演じる。ホントに楽しそうだったのが、かわいそうなくらいに落ち込む。
買い間違えは『末広』もあるけど、こちらは、大名は本物を知っていて太郎冠者が間違えるだけ。『粟田口』も買い物間違えだけど、シテ大名も信じて、うれしそうなんです。それが、あっけなく裏切られて、ビックリ、がっくり。
さすが、東次郎という曲と役でした。
『節分』も初めて。季節柄の曲か。蓬莱から来日したシテ鬼が、旦那が籠もっていて留守で一人で居るアド女に言い寄るという、狂言では珍しいお話。
初めから囃子方が入ってきたから、能仕立てかと持ったが、次第などを演奏しただけで、すぐに引っ込む。
凜太郎君がシテで、立派にやっていました。アド女の父泰太郎に言い寄るけど、出て行け、出て行け、腹立ちや、腹立ちや、と追い返される。それがしつこい。伽をしてやろうとか、なんとか。遂に抱きついてしまうが、これも撃退されると、めそめそ泣き出す始末。ちょっとかわいそうになったかアド女が、宝を寄越さねばダメだ、といい出すと、透明人間に見える隠れ蓑、隠れ傘、さらに打ち出の小槌まで上げてしまう。鬼は本当に好きになったのかしら。
ところが女は怖い。亭主気取りになった鬼に、「鬼は外」と豆をぶつけて追い返す。宝を取り上げただけ。
その遣り取りが、親子の演者で、面白かったし、きちんとできていた。凜太郎君の声はやや、若いからか、高いのだけど、まあいいよ。謡もちょっと息継ぎが・・
東次郎家伝というのは、東次郎さんがやりたい曲と役なのだけど、特に後半になってきて、次代への継承という色が強くなってきた気がする。泰太郎、とりわけ凜太郎。実演で仕込む。
次回、3月の最終回はどうなるのだろうか。最終回は『鱸包丁』と『若菜』。