6月23日(日) 横浜能楽堂

平曲 『実盛最後』 須田誠舟

狂言 『月見座頭』(野村万作家)

   シテ(座頭)野村萬斎 アド(洛中の者)高野和憲

(休憩)

能『実盛』 (金春流)

   シテ(前:老翁 後:斉藤別当実盛)櫻間右陣 ワキ(他阿弥上人)森常好 アイ(所の者)石田幸雄

   面:記録してこなかったが、前・後通して、朝倉尉か

附祝言

 

ー巻二十二ーとあって、何のことかなと思っていた。最初のお話しによると、シテの櫻間右陣さんが、平家物語の魅力にとりつかれて、これを広めようとして、二十二年前から毎年暑い時期にこういう企画をしてきた、と。琵琶語りの平曲も最初から、狂言も野村萬斎の出演依頼してずっと。来年9月26日(土)にも開催すると、もう予約を取っていた。何を題材にするかも知らせずに。

 

平曲なるモノを初めて聴いた。琵琶の演奏というか、掻き鳴らすというか、それを伴奏的に、節を付けたり、語り口調するなどして、一人の演者が、語る(謡う)。平家物語の「実盛最後」の段を、一回も間違えずに、正確に語った(謡った)。ああいう、語りの世界があるのだね。昔の琵琶法師を彷彿とさせるが、本当かどうかはわからない。須田さんは目明だし。台本はどうなっているのだろうか、とばかり考えていた。琵琶法師は盲目だから、書き残すことはないはずで、口伝だろうが、色々な流派というか、師匠がいたはずで、一概には決定はされていないはず。能の謡本みたいなモノがあれば、教室や練習もできるし、これが「正しい」というのがあるだろうけど、どうなんかしら。

面白いというか、興味深くはあった。

 

狂言『月見座頭』。確か2回目。後味の悪い狂言で、どうしてこれが狂言か、とも思う。萬斎は、盲目の座頭を、眼を閉じているようにして演じていた。見えていないはずはないのだけど、閉じているように見える。

盲目の月見というか虫の音鑑賞に、洛中のモノが来て、一緒に遊ぶ。酒を飲みながら、最初は和歌。これは二人とも古歌でごまかす。次に謡。更に盲目なのに一差しずつ舞う、というお遊び。前回は、この部分がまったく理解できなくて、退屈だった記憶。今回は、上手だからからか、こちらの謡仕舞の知識が増えたためか、狂言方でも、しっかり謡仕舞するんだねえ、萬斎も上手だねえ、と、楽しかった。こういう優雅な遊びができたらば良いなあ。

ところが、洛中の者が帰り際、気が変わって、戻って、座頭を打ち据える。座頭は同一人物とも気づかず、理由もわからない。仕方ないなあ、困ったモノだと退場するが、これでなんで狂言か。

今回の座席は正面1列目だったので、萬斎の様子がよく見えて良かった。萬斎上手やんけ。

 

能『実盛』も、当然平家物語からの修羅物。歳を取った老武者が、鬢髭を黒く染めて戦い、首を取られて洗い流されて白髪に戻ってしまう。

大鼓の亀井廣忠さん、相変わらず格好いい。ワキ方の森常好さん、ちょっと足が悪いのかな、脇座にいる時に葛桶の上に座っていた。

前場、いきなりアイ狂言の状況説明から始まる。そして実は実盛の幽霊が出てくる部分。ここでは舞はないが、謡調子が面白い。

間狂言も、石田幸雄さん、長くて、きちんと語っていた。記憶力というか、大変だなあ。

後場は、同じ尉の面に、平家の右折れ烏帽子、錦の直垂(狩衣)で登場。甲冑を表す。戦いの動きはない。動きのある舞。眠くはならない。

地謡がね、ちょっとね。後列のこちらの一番端の老人が、足が痛くなってしまって組み直したり、顔を歪めたり、謡も揃っていなかったり。金春流は人材が少ないか。

 

今回は、能体験が少ない方も結構来ていて、お調べが始まっても歩いたりざわついたりしているし、最後も、拍手が早すぎるし。附き祝言があることは番組に書いてあるのだから。でも櫻間会というらしく、上品なご老人も多いが、むしろ平家物語の語りに興味があるのかも知れない。「絵巻の会」の入会申込書が配られた。

 

でも、高等遊民も、さすがに三日連続は疲れた。帰りがけに能面の紹介をチェックしてくるのを忘れた。疲れた。