50代の女性が
緩和外来で
「あのぉ。聞いてもいいですか?」
「最近ぼけっちゃったのか、
何気ない言葉がぱって
言葉が出てこなかったり
なんだか色々なことが
面倒くさく感じちゃんです」
「母も認知症になったし、
私もこのままぼけていくのかしら?」
化学療法を行っている
もちろん脳転移はない
遠くにぼんやりするような
電解質の異常も特になく
採血も特に問題はない
もしかしたら
もしかしたら
ケモブレインってやつかな?
聞いたことありますか?
ケモブレインとは
抗がん剤治療の間、もしくはその後に
記憶力や思考力、集中力が一時的に低下する症状を
いいます。改善するひともあれば
長く続くこともあります
いつからはじまりいつまで続くか
しかし、これについてはまだ
原因や対処法がわかっていません
実際の医療現場でもまだ十分な情報はなく
このような症状を
患者さんから聞いたとしても
「気のせい」とか「気にしすぎ」などで
十分にとりあげてもらえないことも多いんです
はっきりはわかっていないものの
がんそのものによる変化であれば
がんの治療を行うことで症状が軽減するように
検討します
薬物療法などがんの治療によって認知機能の低下が
みられる場合には治療のスケジュールを
調整したりすることで、症状の改善をめざしたり
症状の改善が難しければ、折り合いをつけながら
うまくつきあっていけるように考えます
認知機能低下についての症状は
他の人に伝えることにも抵抗があったり
他のひとに理解してもらうことが難しいため
落ち込んだり、悲しくなったり
するだろうとも思います
まずがんと診断される前の
生活にもどそうとすると
かえってあせってしまいます
「なんで前のようにどうしてできないのか?」
「こんなにだめな人間なんだろう?」
と落ち込み、ふさぎ込んでしまうことも
あります
自分を責めたりしないでください
すぐにもともとのベースにもどそうと
思わずに
ゆっくりをもどしていってください
ケモブレインは予防も対処方法もいまのところ
明らかになっていません
だから
気長につきあってやる!
これも自分だ!って
認めてあげることからはじまります
さきほどの患者さん
「忘れてしまいそうなことは
メモすることにしたの」
「あとね、夜はしっかり眠りたいから
睡眠薬もときどきのむことにしたの」
「仕方がないよね。これも私」
「はなしてみてよかったわ」
「自分だけで考えていると
苦しくなっちゃうの」
変化がさらにきになったら
教えてください、と
伝えた。
”よく話してくださいましたね”
うふふ、と笑って
「自分の人生だもの」
「腹が立つこともあるけど
自分の人生だから」
颯爽と帰っていかれた
きっとこれからいろいろ
解明されます
だからちょっとしたことを
医療者に伝えてください
ケモブレインは
まだまだ医療者にも
しれわたってはいないかも
しれません
昔は
抗がん剤の副作用は
どんなにつらくても我慢を
すべきものでした
しかし
身体的な緩和から
精神的な緩和にも
目がむけられるようになり
がんになっても
充実した人生を
送ることができるような
治療を継続することを
目標に
我慢が美徳ばかりではない
我慢も必要だけど
病にうまくむきあい
自分の体調を分析して
医療者につたえる
おいしゃさんが
あとはその言葉を
きちんとくみとって
くださったらいいのだけどな