初めて描いたフライトジャケットは、リアルマッコイのA-2だった。しかも、一度も着てないまっさらなヤツ…
当時、ある、立ち上げたばかりの古着屋で働いていて~そこはつぶれたスーパーを改装した、張りぼて同然の店舗だったが~看板やらPOPをせっせと描いてると、
開店以来常連となっていた若い歯科医師が、耳打つように言った。
「まだ一度も着てないA‐2があるんだけど、好きにしていいから、描いてみないか?」
その人は、店の最良の上客だった。先日TVで観た『マイケルの真実』のMJのようなセレブ買いをする。カードで買い領収書をきる。だだし良い品が有る限り。
夜ごとピカピカのジャガーに乗って来て、フラミンゴみたいなスタイルの良い美人の奥さんを連れて来た。
セレブというより俗物そのもの!!
以前画材屋に勤めていたときにも、併設のステンドグラス教室に通う、ザマすオバ様のカゴ持ちをしたことがあったが、世の中にはこういう人種がいるのである。
彼が参考にと、フライトジャケットのペインティングの第一人者、カスタムキングの草野氏を特集した『Lightning』を差し出した。
「こんなかんじでね。パクってもいいでしょ、どうせカスタムのカスタムなんだから~」
カンバスに絵は描いていたが、こんな世界があるとは知らなかった。
セレブならプロに頼めばいいじゃん、と、思ったが、元来フライトジャケットのペイントは、絵の巧みな整備兵が描いたものだから、むしろ素人臭さが良いのだとのたまう。失礼な! しかし、まるっきりパクる訳には行かない。
で、これが悩みながら初めて描いた作品。
ハッキリ言って、稚拙である。でも、この必死さと情熱は、今は出せない…
依頼人はよろこんで納得してくれた。いくら欲しいか聞かれたので、恐縮して自分が欲しい金額より低く答えると、それが逆に彼のプライドを刺激したらしく、
『こういう場合は、自分の設定より高く言わなきゃダメだよ。あなたは、ずっとここでくすぶってるつもりかい?』
と言って、相応以上の金を払ってくれた。
恐らく、ただの買い物に飽きて、ちょっとしたパトロン気分を味わってみたかったのだろう。で、彼らのサロンで自慢するのだ。
(実際それらしきことを言っていた)
今でも損してばかりしている。いい商売はできない。もっと吹っ掛けてやれば良かったと思うばかりである。
そして、今でも俗物セレブは苦手である。
ところで、彼には感謝してる?
今のところ、それは、ない。