クリニックにいただいた質問をご紹介します。


Q.

検査をするたびに血尿がでています。タンパク尿はでていません。

腎臓内科の先生から「血尿がでているのは腎臓が悪いということで、20~30年後は透析を受けることになる」といわれました。

私はまだ20代半ばでいきなり将来的に人工透析と言われてとても不安です。


A.

「透析」という言葉が出てきますと、ビックリされると思います。

●まず考えるのは血液がどこから出ているか?

さて、尿に血液が混じる場合、まず最初にその血液がどこから出ているかを考えなければなりません。
腎臓、尿管(オシッコの通り道です)、膀胱、尿道(やはりオシッコの通り道です)のどこから血が出ても、血尿になります。

腎結石・尿管結石や膀胱癌などで血尿となることがしばしばあります。

年齢から考えて、膀胱癌はないと思いますが、結石だったらあっても不思議はありません。


●腎臓が悪く、血尿がでていると仮定した場合

これらの病気がなくて、血尿は腎臓から出ているとしましょう。
タンパク尿がなくて血尿だけの場合には、次のような原因を考えます。

(1)慢性糸球体腎炎
(2)多発性嚢胞腎
(3)遊走腎
(4)家族性血尿
(5)特発性血尿
(6)その他
です。


●それぞれの病気の可能性を考えてみる

「20~30年後に透析」という話からは、腎臓内科の先生は(1)の慢性糸球体腎炎、しかもその中のIgA腎症という病気を考えているものと思われます。
検尿で異常があったとき、特に血尿とタンパク尿が両方あったときにはその多くがIgA腎症という病気で、IgA腎症だとすると70%近くの方が 20年くらい経つと透析が必要となることがわかっています。
しかし、IgA腎症の場合、透析になりやすいのはタンパク尿が出ていて、しかもそのタンパクの量が多い方であることも知られています。
もし、IgA腎症であったとしても、タンパク尿が出ていなければ腎臓が悪くなってくる可能性は大きくありません。

(2)の多発性嚢胞腎は、ある意味ではIgA腎症よりも厄介な病気で、 40歳代までくらいに透析が必要となってしまうことがあります。
この病気があるかないかは、腹部超音波検査(エコーと呼ばれていますね)で簡単にわかります。

もし、やせ形の女性であれば、(3)の遊走腎の可能性も大きくなります。
遊走腎とは、寝ている状態と立ち上がった状態で、腎臓の位置が大きく動いてしまう状態で、タンパク尿は出ずに、血尿だけが出ます。
遊走腎はほとんどが無害で、腎臓が悪くなることも多いので、治療はせずにほっておきます。つまり、心配のない血尿、ということになります。

(4)の家族性血尿ですが、文字通り、血のつながったご家族の中に血尿が出る方が何人もいらっしゃるような状態です。
この家族性血尿の代表的な病気は、アルポート腎症という病気と、菲薄基底膜病というどちらもあまり聞き慣れない病気です。
アルポート腎症の場合には、難聴を伴います。
そうして、腎臓が悪くなることが多く、透析が必要になることもしばしばあります。
血縁のご家族の中に、耳が聞こえにくくて透析をお受けになっている方がいらっしゃるようでしたら、要注意です。
菲薄基底膜病は、これもまたご家族の中に血尿が出る方が何人かいらっしゃる病気ですが、こちらは腎臓が悪くなることはまずないので、安心できる病気です。このため「良性家族性血尿」とも呼ばれています。

(5)の特発性血尿とは、いろいろな検査を行っても原因のわからない血尿をいいます。
この場合、腎臓が悪くなることはまずありませんので、これまた安心できる血尿です。

●どのような対処をしていけばいいのか?

さて、先ほど書きましたように、腎臓内科の主治医の先生は、上に書いた様々な病気のうちで、IgA腎症のことを念頭に置かれているように思われますが、血尿イコールIgA腎症というわけではありません。
また、仮にIgA腎症であったとして、血尿だけのIgA腎症は、腎臓が悪くなることはあまりないことも、説明いたしました。

さらに、このこともお考えいただきたいと思います。
主治医の先生がおっしゃるとおり、20~30年後に透析が必要な病気になっているとします。
けれども、透析が必要となる20年の間に、医学・医療はまだまだ進歩をするはずです。
特にIgA腎症については、治療法の研究が進んできていて、今後は透析にならないように腎臓を守る治療法が出てくる可能性も大きいのです。
ですから、IgA腎症(あるいはそれ以外の慢性糸球体腎炎)だと診断がついたとしても、 決して悲観をしていただきたくないのです。

検尿異常がある場合に、油断をしてはいけません。
ですから、常にどこかの医療機関に通っていただいて、定期的に尿の検査や血液の検査をお受けになっていただきたいのですが、血尿だけの場合は、タンパク尿をともなっている場合に比べて、心配のないことが多いことは強調しておいていいと思います。

主治医の先生とよく相談をして、今後の治療方針やフォローアップの方法をお考えになってみて下さい。