人事賃金制度のブログ

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日本企業の人事賃金制度の行方を話し合ってみませんか。

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 データは少し古くて恐縮ですが、1999年の単位労働組合(下部組織を持たない労働組合)数は6万9400組合あり、その全労働組合員数は1182万人とされています。

 注目すべきは全雇用者に占める労働組合員数の割合を表す組織率で、1999年に22%とされた後、2003年に20%を割り込み、2014年に17%まで後退し、いまや組織員は6人に1人まで 減少しています。

 このうち非正規従業員のパートタイマー労働者の組合員は24万4000人で、全労働組合員数に占める割合は2%強で、また全パートタイマー労働者に占める組織率は2%半ばと言われています。

 ただ正規従業員の労働組合員が減少する中にあって、非正規従業員のパートタイマー労働者の労働組合数と組織率は増加しているとされ、格差是正と待遇改善を訴えるパートタイマー労働者の要求が強まると共に、関心の高さからか組織率が上昇していると言われます。


 労働組合の組織率を、主なOECD(経済開発協力機構)の加盟国と比較すると、アイスランドの75%が最も高く、次いでスウェーデンの68%、デンマークの67%、フィンランドの67%と北欧諸国が上位を占めています。

 先進国ではイギリスが27%、ドイツが19%、アメリカが12%、フランスが7%となっており、しかも殆どの国で年々低下しているようです。

 従って日本の17%は際立って低いとまではいえませんが、日本を含めて先進国における労働組合の組織率の低落傾向の要因は、生活水準が高まる中で、働く人達の労働組合に対する期待と、労働組合が取り組む活動がズレてきているようです。


 世界の労働組合の歴史は産業革命の18世紀に遡るとされ、労働力が不足する生産現場に農民や女性や子供が駆り出され、また移民も多く流入しました。

 しかし当時は劣悪、かつ過酷な労働環境や、人権を無視するような不当な労働条件が蔓延し、こうした中で労働者が団結して労働環境や労働条件の改善を求め、自主的な組織を結成したのが起源とされています。

 日本の労働組合も明治維新の殖産興業といわれた「日本の産業革命」の中で、省みられることの無い労働者の待遇や処遇の改善を目指す運動として、1897年に最初の労働組合が結成されたと言われます。

 しかし1900年に制定された治安警察法や、その後の治安維持法の下で弾圧され、それより以降1945年の第2次世界大戦終了まで、労働組合は非合法組織として時の政府は暴力団(博徒集団)の力を借りてまで、徹底的な弾圧をしたと言われます。


 1945年の終戦と同時に連合軍司令部(GHQ)が民主化政策の一環として、労働組合を合法化すると、投獄されていた左翼活動家が釈放されて運動を再開し、労働組合が相次いで結成されました。

 この当時の組合員数が約4000万人で、組織率は約40%に達したと言われますが、それまでの弾圧の反動もあり、労働組合が労働環境や労働条件の改善よりも政治闘争が優先されるようになったと言われます。

 激しいストライキや暴力事件が多発するに及んで、反政府運動に対し制限が加えられることになり、それを機に中道勢力が中心となる労使協調路線の労働組合を目指し始めたとされます。


 1960年代の高度成長期に入ると、「春闘」という独特の労働組合活動方式が定着し、企業規模と企業業績の拡大の中で、雇用も賃金も大幅に改善されていきました。

 そして1970年代の安定成長期に入ると雇用環境が悪化し、失業問題が現実味を帯びると「賃金か、雇用か」が争点となっていき、この頃から組合離れが現れ始め、組織率が30%を切ったと言われます。

 1980年代に入ると自由で民主的な労働組合の機運が高まり、1990年代に入りナショナルセンター4団体が統一して、「全日本労働組合連合会」(連合)が発足しましたが、組織率の低下は止まらず、2100年代に20%を割り込むようになったと言われます。


 1990年代はデフレ経済に陥り、失われた20年の間に労働市場は非正規従業員が増加したことかtら、パートタイマーや派遣労働者が急増したものの、こうした人たちはこれまでの労働組合から疎外されてきました。

 こうした非正規従業員や管理職を対象に、政治色の強い団体や活動家により、様々なユニオンが誕生して、労働組合の多様化時代となって今日に至っているようです。


 日本の労働組合は断定できない要素もありますが、類型的には企業別のユニオンショップの形態をとり、雇用と同時に企業内の労働組合に加入することになっているところが多いようです。

 ショップとは労使間の取り決めの「協約」を意味しますが、雇用と組合員との関係で区分すると、縛りのないオープンショップ制、縛りのあるクローズドショップ制、日本に多い雇用と同時に組合員とするユニオンショップ制があるとされます。

 日本ではユニオンショップ制は合法とされますが、欧米では組合選択の自由や、団結権の自由を侵害するとして、何れのショップ制も禁止されている国が多いと言われます。

 また欧米の労働組合は産業や職種によって組織されるのに対し、日本は個別の企業やグループ企業だけで、産業や職種の区別なく組織する「企業別労働組合」であることが特徴です。

 ただ現在では職種や産業に係わらず、個人単位や非正規従業員や管理職、中にはコンビニのオーナーが加入するユニオンと呼ばれる合同組合が現れ、紛争解決の荒っぽさと激しさで耳目を集めることが多いようです。


 これまで待遇や処遇の改善を掲げて団体交渉を要求してきた労働組合が、長期低落傾向を辿って組織率を低下させている原因には幾つかあるようです。

 1つ目は、1970年代以降の低成長から1990年代のマイナス成長を通して、企業倒産による労働組合の解散やリストラによる人員整理などで、組合員が減少していることが挙げられます。

 2つ目は、正規従業員の雇用を控えて、非正規従業員の雇用を増やしていることから、一部で非正規従業員のユニオンが組織されているものの、正規従業員の減少による組織率の低下が挙げられます。

 3つ目は、産業のサービス化で労働者が製造業からサービス業に移動し、そのサービス業で労働組合の結成意欲が低いことが挙げられます。

 4つ目は、IT関連などの新興企業は、俗に言われるカリスマ経営者が多く、またこうした業界の労働者は労働組合を組織することに関心が薄いことが挙げられます。


 組織率が低下し続ける日本の労働組合が、今後何処に向かうについて予測することは困難としても、幾つかの方向はあるようです。

 まず1つ目は、労働組合は労働環境や労働条件の改善が主な組織目的とするならば、何よりもコミュニケーションを一層円滑にし、意思の疎通を図る「労使協調路線」が強化されていくようです。

 労働組合に労使関係に付いてアンケートした結果を見ると、安定的に維持されているとした労働組合が87%に上ることからも、コミュニケーションの重要性を感じていることは確かです。

 そして2つ目は、これまでの闘争史から労働組合にネガティブなイメージを抱く者も多く、これが組織率を低下させてきたとの指摘もあることから、左翼主義的な政治闘争から距離をおき、真に労働環境や労働条件の向上で、労使が向き合うことを組織の特性としていくことです。


 日本の労働組合について、組織率低下の問題を中心に探った今回の「第31話」をもって、人事賃金に関する四方山話の講述をひとまず閉じることにします。

 

 ご愛読有難うございました。


人事賃金コンサルタント 上田松雲