享年94歳。あとちょうど1ヶ月で95歳になるところだった。十分に長生きしたと言える歳だろうけど、本当ならまだ生きられるはずだった。
母親から連絡を受けたのが昨年の暮れのこと。婆ちゃんが火傷を負って入院したという。歳のせいか歩きながらつまづくことが多くよく転びそうになっていたが、不運が重なった。転んだ先に電気ストーブがあり、服に引火してしまった。
名前を呼ぶ声に気付いた父と母は慌てて火を消し病院に連れて行ったが、火傷は思った以上にひどかった。そのまま入院し一時は安定したものの、数日前に容態が急変。連絡を受けた自分と兄は病院のベッドに眠る婆ちゃんのもとへと駆けつけた。
チューブだらけの婆ちゃんの姿は痛々しかったが、それでもまだ生きてるうちに会えただけ良かったと心底思えた。
目を閉じたまま意識もなく、ましてや随分と耳が遠くなってしまっていたため呼ぶ声は届いてないはずだが、呼びかけに反応して顔の表情が一瞬変わったような気がして、届いてるんじゃないかと期待した。
「爺ちゃん、もうちょっと待ってや」
胸の内で呼びかけていた。若くして戦死した爺ちゃんは、もしかするとそっちで早く婆ちゃんに会いたいのかもしれない。でもこんだけ待ったんだから、あと少しくらい待てるだろうとお願いしていた。
年明けには3度も初詣に行ってガラにもなく神頼みしてみたが、願いは聞き入られなかった。一度だって行かない年もあるくらいだし、こんな時だけお参りに来るなということか。

小学校から帰ると、いつも縁側に座って迎えてくれた婆ちゃん。
カバンを置いて遊びに行こうとすれば、今日習った漢字を書きなさいと、すぐにでも遊びに行きたい孫を制しチラシの裏いっぱいに覚えたての漢字を書かされた。
このお菓子が美味しいと言えば、そればっかり買ってくれた。大学に入ってもまだそのお菓子を買っては孫を喜ばせようとしてくれた。
頭によぎるのは、いつもいつも心配してくれたこと。いつもいつも心配を掛けたこと。そっちに行ってもまだ心配してるかもしれないけど、まずは爺ちゃんと水入らずでゆっくり休んでほしい。そして今度は二人で孫やひ孫を見守ってほしい。
またすぐに会いに行くけど、もしかしたらその前に今夜の夢で元気な姿の婆ちゃんに会えるかな。
さすがにもう漢字の書き取りは勘弁やし、お菓子もいらんきね(笑)










