彼との、おわりのはじまり。

繋がりの途中、彼の胸下に身を引き、彼の目を捉えて逃がさないように位置を変えた。

ずっと、したかったこと。
今までできなかったこと。

何十回と私の左耳に繰り返し問い掛けてきた彼の言葉。

「誓いの言葉を言え」

その度に繰り返してきた私の言葉。

「私は一生ご主人様のものです」

それが出てこない。
聞きたい言葉になっているから出てこない。

「何故言えない？
おまえは誰のものだ？
俺の為に生まれて来たんだろう？
おまえは俺の所有物だからな」

荒い息の中、彼の言葉が聞こえてくる。

ほの暗い部屋明かりの下、彼を見た。
疲れてやつれている男の人の姿。

いつも仕事で疲れ果て、残る体力でもっと心労の出る調教を繰り返し私にしてきた一人の男の人がそこにいた。

彼の鋭い大きな目をしっかり見つめながら聞いた。

「ご主人様は･･それで幸せですか？」

｢当たり前だろう！｣

彼の怒りが私に降り注ぐ。

涙が溢れた。
何の涙なのかは私自身にも分からなかった。

｢泣くな、喜べ。
喜んでから泣け｣

彼の動きは緩むことなく続く。

｢私の心も身体も人生も全て捧げます｣

今までにない流暢ではっきりした口調で言えたことに自分でたいそう驚いた。

彼は喜んだ。

｢よく言った。
全部捧げろよ、全てだぞ。
俺だけがおまえの真実だ｣

戦いは終わった。
８ヶ月の戦いは終わった。

おわりのはじまり。
不思議と、心は穏やかだ。