エッセイ『静かな嘘』

 

傷を舐め合っても
決して治るわけではない

その箇所はいつまでも湿り
膿みを帯び
やがて痛みだけを残す

同じように痛む誰かに寄り添う

安心したいだけ
何も考えなくていいと
自分に言い聞かせる

数人の中の一人になれば
責任は逃れられる

肩に重くのしかかる負担は
逃げても消えることはない

湿った痛みは
静かに
しかし確かに
胸の奥に居座る

エッセイ『揺れる

自信なさに
押し潰されそうで

でもどうしても
信じたい自分がいて

心のよりどころを探して
裏腹な態度に
胸を締め付けられる

笑顔をみるたび
希望に
手を伸ばしたくなる

でも
心の奥で
疑いが囁く

裏切られたら
どうしようと

胸の奥で振り子は揺れる

エッセイ 『麻酔』

 

自分の気持ちに麻酔をかけて
自分だけが我慢をすればいいとしてきた
でも麻酔はいつか切れる

鈍く重たい違和感がじわじわと浮かび上がり
聞こえないふりをしても心の奥が疼きだす
行動にブレーキをかける

静かに溜まっていたものが形を持ちはじめて
ようやく名前を与えられた感情が息をする

置き去りにしてた
見ないように感じないようにしていたこと

触れれば崩れてしまいそうで遠ざけてきた
求めてはいけないと自分に言い聞かせ
傷つかない未来だけを選んできた

麻酔が消えて痛みが戻るのは
終わりではなく始まりだと気づく瞬間である

エッセイ『あたりまえ』

 

大切なものは
いつも身近にあって
あって当然のように感じ
その温もりに気づかず
日々を過ごしてしまう

ある日
そのものがそばにないことに気づき
初めて、存在を感じる
失ったことさえ気づかず
虚無感だけが
心に残る

唯一無二の存在を
理解できるのは
失う前でこそ
なくしたあとでは
後悔と切なさだけが
押し寄せる

自由を感じるのは
帰る場所があるから

エッセイ『嫌気』


最初は小さな違和感だった
気のせいかもしれないと笑って流した
些細な表情の変化
言葉の選びかた
誰かによって変わる態度
ちゃんと気づいていたのに
見なかったことにしていた
でも違和感は
黙ってはくれない

一度気になってしまったら
もう止まらない
あの返事も
あの沈黙も
笑い方も
曖昧な態度さえも
記憶の中で膨らんでいく

性格だから仕方ないと
思えなくなった瞬間
それは
もう誤魔化せなくなったサイン

その感情に気づいてしまったら
もう二度と
見えなかった頃には戻れない

エッセイ 『叶えたいこと』

 

誰かと何気なく雑談していて
いろんな経験をしてきたんですねと微笑まれる
その瞬間 そうなんだと
ふっと自分をみつめることができる

当時は 深く考えていたわけじゃない
機会が与えられたら
何故かいつも
今やるか 四十代になった時にやれるか
頭の中でそっと天秤にかけていた

結局 とりあえずやっておくかと
迷いながらも手を伸ばした

思い出すたび あの頃は
背中を押してもらったと感じる
今もそっと押してもらっている気がする

ただ
心の一番奥の
たったひとつの願いだけは
まだ 叶っていない

エッセイ『ひとりとふたりの間』

 

一人で行動するのが好きで
一人の時間が必要なのに
どこか淋しがり屋な人がいる

ワイワイした楽しい場所が好きで
場を盛り上げるのに
ふと、静かに一人で過ごしたくなる

つかず、離れずの絶妙な距離感は
長く付き合わなければ、なかなかわからない
そして、気が付いた時には
関係はもう、少し変わっているだろう

エッセイ『過般化』

 

顔を見ただけで嫌なタイプだと
判断してしまう瞬間がある
理由は説明できない
表情の端や話し方
立ち方や視線の配り方
顔つきや態度にふっと滲む何か
第一印象は数秒で決まると言われるけれど
本当は過去の記憶と照らし合わせているだけ
これは過般化かもしれない
嫌な記憶と似た雰囲気をまとっているから
心がそっと警告を鳴らす
理屈より感覚が先に働く
説明できない嫌悪は、ただそこにある

エッセイ『片付け』


物を片付けるという日常的な行為は
他人への配慮や人間性、その人の内面まで巡らせてしまう

誰かにもらってもらう
普通ゴミで出す
あとは有料のゴミを出す

日頃から他人のことを考えない人は
楽な方法を選ぶ
「考えてます〜」と言われそうだが

胸の奥に小さなざわめきだけがそっと残る

エッセイ『タイミングを待つ』

 

とりあえず、したかった事をして
欲しかったモノを手にいれて
心を満たしたはずなのに
満足できないことにきづく

飽きてしまうのとは少しちがう
手に入れて、納得できたから
もう必要ではないだけ

唯一無二のものを手にしない限り
心は、満たされることはないのだろう

やっと出逢えたと思える人やモノに
心が動くその瞬間を
急がずに、待っているだけ