退院の朝

ジョングクは朝早くから荷物を整理していた



おはよう、ジョングク



兄さんおはよう



もう荷物できてるじゃないか、すごいな



早く外に出たくて



長い入院生活だったからな



本当に…長かった…



完全ではないけど、元気になって良かった…

ほっとしているよ



これからもリハビリ頑張らなきゃ




そうだな…まあゆっくり治せばいい

僕は退院の手続きしてくるから




わかった




ジンが病室を出ると

ちょうどジミンとテヒョンがやって来た



おはようございます



おはよう、朝早くから来てくれてありがとう



僕、嬉しくて昨日は眠れなかったんです



きっとジョングクも寝てないよ

もう荷造り完璧だったから



えっ、手伝うつもりだったのに



来てくれるだけでいいんだよ

テヒョン君もありがとう、来てくれて



いえ…



テヒョンって兄さんのこと知ってるの?



あっ…いや…



ジョングクから聞いてるから

ジミン君の親友だって



そうだったんですね



ジンはテヒョンに頷いた



ジョングクが待ってるから早く

会いに行ってやって



わかりました



ジミンとテヒョンは病室へ入る



グク、おはよう



ジミナ、おはよう

…テヒョンさん…おはよう…ございます…



おはよう…



来てくれてありがとうございます…



いや…退院おめでとう



ありがとうございます…



なんかぎこちないけど…



久しぶりだから緊張して…



ジミナ、病院出たら行きたいとこがあるんだ

一緒に行ってくれる?



いいよ、どこでも一緒に行くよ



テヒョンさんも一緒に…



着いて行っていいのか?



はい…来て欲しいです



わかった



ジンが病室に戻る



さぁ、晴れて退院だ

おめでとう、ジョングク



兄さん、色々ありがとう

僕の世話たくさんしてくれて



何改まってお礼言うんだ

弟のためにするのは当然だろ?

じゃあ行こうか



はい…



みんなで荷物を持ち

ジミンはジョングクを支えて歩く



お世話になった病院のスタッフにお礼をして

ジンの車に乗る



兄さん…学校近くの土手に連れて行って欲しいんだ



あぁ、いいけど…

歩けるか?



ジミナと歩きたい

手を…繋いで…



わかった



幸せそうな顔をしているジミンと

何か違和感を感じてるジンとテヒョン

真っ直ぐ前を見ているジョングク



着いたよ



兄さんはここで待ってて



俺も…車で待ってようか?



いや、テヒョンさんは一緒に来て下さい



いいのか?

2人の方がいいんじゃ…



来てもらわないとダメだから…



わかった…



車から降りる



ジミナ、手繋いで



うん



手を繋ぎ見つめ合う



ずっと…こうして歩きたかった…

あなたが僕の前から消えてからも

ずっと…



…ごめんなさい




謝らないで…

…少し歩きましょう




うん




少し離れて歩き後ろをテヒョンがついて行く




ジミナ…ありがとう




何のお礼?




病院毎日来てくれて

あなたが居たから頑張れた




当たり前のことをしただけだよ

僕が会いたいと思ってしたこと




来月大会でしょ?




そう、観に来てくれる?




…行きます




なら頑張らないと

かっこいい姿見せないとね



ジョンソクはジミンから目を逸らした




風…気持ちいいですね




そうだね…




僕…




ジョングクが黙り込む

ジミンはジョングクの顔を見つめていた




僕…が何?




しばらく…




しばらく…?




…会えない…です…




…どういうこと?

どこか行くの?




いえ…行きません




行かないのになぜ会えないの?




…無理だから…




何が無理なの?

意味がわからない…

今グクが言ってる意味がわからない…




………ダメなんです…

今の僕じゃ…ダメなんです…




何もダメじゃないよ

一緒にいたいんだ、グクと




…僕は幼い頃からあなたを目で追い

あなたの事を四六時中想い

あなたに触れたくて…

あなたの側でいる事で強くなり

あなたの笑顔で勇気が湧いてくる

ジミナが僕が生きるすべてで

存在する意味をくれる

だから…あなたを守れる強さが

僕には必要…なんだ

今の僕には…それが…ないんだ…

だから…

だから…

今の僕は…ジミナと一緒に…いられない…

いちゃ…いけない…

ジミナのためにも

僕のためにも…





グク…悲しい事言わないでよ

僕は今のグクで充分なんだ…

強くならなくていい

足りないものは2人で補えばいいんだ…

支え合いながらずっと一緒に…

これからもずっと…2人で

一緒にいたいんだ…

二度と離れたくない

僕からグクを取ったら何もなくなる

生きる意味も…

なくなって…消えてしまうから…

僕を…1人にしないで…

お願いだから…この手を離さないで…





…ジミナ

僕のわがままを…許してください

あなたは僕の月

優しく僕を見守るような

温かな光を放つ月なんだ…

そして僕は…ジミナの太陽だよ

迷わない様にあなたの歩く道を照らすんだ

寂しくならない様に照らすから

わかって…下さい…






2人のやりとりを黙って見ているテヒョンは

ジョングクの気持ちを察していた

だから何も言わなかった




ジミナ…僕を待っててくれますか?




嫌だ…嫌…

離れたくない…




ジョングクの腕を掴み

泣きじゃくるジミンを

ジョングクは優しく抱きしめた




あなたにふさわしい人に…なりたいんです…




下を向き首を横に振るジミン




今の僕には…何も…ないから…

学校もどうなるかわからないし

今の僕は全部が中途半端で

ジミナが僕と別れる選択をしたのも

きっと…無力な僕じゃ…

自分が納得できた時…

必ず…迎えに行きます…

必ず…





…離れ…たく…ない…




必死にジョングクの腕を掴むジミン




強くなります…僕…

あなたと生きていくために

強くなります…



しばらくの間

2人は何も話さずにいた

ジミンはジョングクの腕を強く掴む

ジョングクは小さなジミンを

しっかりと抱きしめていた



どうしていつも…

2人は一緒に居られない選択をするんだ…

愛し合ってるのに…

辛い想いは…もうしなくていい…



テヒョンは2人を見守る


しばらくしてジミンは掴んでいた腕を

ゆっくりと離した…




…わかったよ…

待ってるから…何年でも何十年でも

グクが迎えに来るのを待ってる…




ジョングクは頷き優しく微笑む



必ず…あなたを迎えに行きます

どこにいても見つけられる



ジミンは涙を拭いジョングクの目を見つめる



ジョングクはジミンの両手を握り

額にそっとキスをした




その瞬間

テヒョンはすっきりと晴れた空を見上げた




『今だけは…2人の時間だ…』






ジミナ…健康でいて下さい




グクも…健康でいてね…




また会える日まで…



ジョングクは微笑み

小さく手を振った


そのまま1人ジンの待つ車へ戻って行く

その背中をずっと見つめるジミン


テヒョンはジョングクが車へ乗り込むまで

何も言わず見守っていた



車に乗り込みすぐに走り去る


寂しさと切ない想いが

一気にジミンに襲いかかる




ジョングク…

ジョングク……

ジョングガーーーーーーーーーー



小さな両手で顔を覆い

泣き叫ぶジミン



その声はジョングクにも聴こえていた

振り返りたい気持ちを堪えるように

両手を握りしめる



ジンはバックミラー越しに

そんなジョングクを心配そうに見ていた…




(つづく)