jijinofuのブログ

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主な登場人物など

【さくらんぼ響】通称【咲く日々】

         国民的アイドルグループで女性グループ初の国立競技場でライブを成功させている。
守屋明日香  【咲く日々】の元メンバーで世間を騒がせるシンガーソングライター
倉敷 桜     明日香の娘
守屋今日子  明日香の母
守屋孝雄    明日香の父
倉敷雅大   明日香の夫、孝雄の高校の後輩、明日香の掛かりつけ医
豊田七穂子 【咲く日々】のリーダー 
向島メイ    【咲く日々】のメンバー
坂城絢沙  【咲く日々】のメンバー
熊本 零   【咲く日々】のメンバー

 

小説 「桜」

 

『ファンの皆様へ。  守屋明日香より

 この、手紙を皆が読んでいるということは、私はもうこの世にいないかもしれません。

 ごめんなさい。

 いろいろ、我儘を通させてもらって、たくさんの夢を叶えてもらって、

 皆には感謝しかありません。

 今回も、我儘を通させてもらいました。

 私、守屋明日香は、脳幹という、脳の大事な部分に腫瘍があります。

 いままで、倒れたり、転んだりしてたでしょ。

 変に震えていたりもしていたかな。

 中耳炎や、貧血とかいろいろ言い訳してたけど、本当はこれでした。

 元々は、親指大だった腫瘍もこぶし大までになり、とうとう、まともに体を動かすこと
も出来なくなってしまいました。

 秘密にしてきてごめんなさい。

 そして、これから、人生最大の掛けにでます。

 皆も知っての通り、私は、今、新しい命を身籠っています。

 名前は、「桜」って決めています。私が押し切りました。

 この子を守るため、薬を止め、治療も拒んできました。

 後悔はありません。自分できめた決めたから。

 でも、もうダメみたいです。

 このまま、私が死ぬと、桜の命も危ないそうです。

 なので、出来るだけ、桜を出産できるギリギリまでまって、手術することにしました。

 多分、帝王切開で早産の未熟児になるだろうって。

 どちらの命も危ないし、そもそも、私の方は、良くても意識は戻らないだろうって。

 早く手術すれば、という人もいると思います。

 でも、見つかった時点で既に手術は難しかったのです。

 だから、帰ってこれなくても先生のせいじゃないです。

 私は、自分の将来の分も桜に預けたいと決めました。

 大丈夫。早産だったとしても、元々、チビな私がここまで生きてこれたんだもの。

 でね。

 私と、先生だけの秘密。

 どちらかしか助けられないとしたら、必ず、桜を助けてほしいって約束したの。

 両親にも、旦那にも言っていないの。

 これが叶えば、この病気が見つかった時に立てた目標すべてが叶う。

 本当は生きたかった。

 桜の顔見たかった。

 抱きしめたかった。

 たくさん、たくさん、撫でたかった。

 でも、私が生き残って、桜が死んだら、私は多分生きていけない。

 だから、桜には、私の分もいろんな人生を楽しんで欲しい。

 最後に。こんな、我儘な私に付き合ってくれてみんなありがとう。

 さようなら。

 また、いつか、どこかで。
                                                 2020.3.14 守屋明日香』

 

 その字は、いつも、たどたどしい、彼女の文体からしても、更に解読し難く、弱々しく、筆圧も薄い。

 だが、彼女の字そのものであった。

 守屋明日香は、今もライブアイドルとしてトップに君臨するアイドルグループ【さくらんぼ響】通称【咲く日々】の元メンバーである。
 22年の芸能生活に一旦ピリオドを打ち、【咲く日々】を卒業。一年後、電撃再デビュー、結婚前提の25歳年上の彼氏を明し、ファンの阿鼻叫喚。彼女の誕生日に入籍し、怒号のライブ。右斜め上の話題に事欠かないシンガーソングライターである。
 最近は、子供を身籠ったことを発表し、身重で、ライブ活動するとは何事と、批判を浴びている。
 今、思えば、彼女の人生は短くも波瀾に満ちていた。

 

 午前の収録が終わると、午後のスケジュールがすべてキャンセルされた。
 【咲く日々】のメンバーが、太っちょのマネージャー青木盛夫によって、集められた。
 「明日香が危篤って連絡がありました。今、緊急手術の最中だそうです。
 午後の予定は、すべてキャンセルしたので、これから、メンバーと僕だけで向かいます。
 時間がないので、衣装のままで行きましょう」
 青木が手でリーダーの豊田七穂子の背中を押す。
 「ちょ、ちょっと、盛、どういうこと?」
 菜穂子は眉間に皺を寄せ、盛と呼ばれた、青木の手を振り払った。
 「何があったの?」
 メンバーの向島メイが青木に詰め寄り、見上げるように言った。
 他の、坂城絢沙、熊本零も、抗議の視線を向けた。
 青木は、周囲を見渡し、「車の中で話そう」
 メンバーは口外出来ない秘密があると理解し頷いた。
 移動中、青木は明日香に起きていたこと、メンバーに秘密にしていた病気のことも告げた。
 それは、衝撃だった。
 それまでメンバーは、明日香の体調不良はメンタルから来るものと、元々、喉が弱いところから来ているものと聞かされていたからだ。
 今、入院しているのは、つわりがが酷いからとも聞かされていた。
 もちろん、それを信じてしまうメンバーが素直すぎると言えるし、明日香や青木はそこをうまく利用したともいえる。
 「もう、明日香とは話せないの?」
 零は、鼻を啜り、下を向きながらそう言った。
 その声は細く小刻みに震えていた。
 明日香と零は【咲く日々】で両端の立ち位置でグループ内ユニットを組んだり、ロケを一緒にしたり、グループの中では一緒に過ごす時間が多かった。
 「ムリかもしれない。主治医の先生からは、手術になったら、良くても一生、意識は戻らないだろうと」
 青木は淡々と言った。
 「じゃなんで、手術なんかするのよ!、しなくったっていいじゃない」
 絢沙はキッ、と青木を睨んだ。その眼は赤く腫れていた。
 絢沙も明日香と同じで、幼少期から子役をしていたので、子役時代の辛さは身に染みている。言葉に出すことはないが、明日香の生き方には共感している部分は多い。
 「子供を助けてと、そう強く願ったそうです」
 青木は、前を向き、車を走らせながら、そう言った。
 『あっ』と、一同は声をそろえた。
 明日香は、LINEでメンバーにお腹の子供の成長を伝えていたのだ。
 青木は続ける。
 「明日香はちょっとバカでしょ、主治医先生に、お願いしたそうです。
 『どちらかしか助けられないとしたら、必ず、桜を助けてほしいって』
 桜って、名前まで決めているそうです。旦那さん押し切られたみたいで」
 名前は、まだ悩んでると、言っていた。明日香にとってはサプライズのつもりだった。
 「患者との約束と言っても、親族に言わない訳にはいかないじゃないですか」
 【さくらんぼ響】に通じるその名を聴いたとき、黙っていた、七穂子から嗚咽が聞こえた。
 「バカぁ」
 「なんで、盛も、明日香も言ってくれないの。こんなのないよ」
 メイは両手で涙を拭いながら、青木を睨んだ。
 「明日香から、口止めされてたの。
 『もし、皆が、これを知ったら、多分、みんな笑顔でいられないんじゃない。
 それに、病気のこととは言え、私の我儘だもの。
 知らないで、受け入れてくれた皆には感謝だし、
 それで、皆のいいところが消えるのは嫌だよ』って。
 うん、すこし、乾いた笑顔だったかもしれないなぁ。
 本当は言いたかったのかもしれないよね。
 ホント、バカだよね。
 キャラ通り、人のことなんか気にしなくていいのにねぇ」
 そのバカに付き合う青木自身、自分のことをバカだと思っている。


『拝啓、30歳の私へ。

 夢のステージが目前の、私、守屋明日香は、今日まで、人生の絶頂にありました。

 でもね。

 最近、体調が良くなくて、掛かりつけの先生に相談して、総合病院で精密検査をしたの。

 それでね、原因が判ったの。

 脳腫瘍っていう、脳にできるガンでした。

 なんでも、先生の話によると、脳幹っていう部分に親指ぐらいの腫瘍があって、神経と、絡み合っているらしく、これが、神経を圧迫していることが原因だったみたい。

 先生から、問診を受けたとき、結構、思い当たる節があって、だいぶ前から、腫瘍は有ったみたい。

 たとえば、何にもないところで転んだことはあるかとか、

 うまく、言葉が出なくて、噛んだことはないか。

 あ、毎日だわ。へへ。

 指が痺れたり、痙攣はないかとか。

 あ、あるわって。

 でね、治るのって?訊いたの。

 難しいって。

 MRIってやつで撮った3Dの私の脳を見せてもらいながら説明してもらったんだけど、

 確かに、脳幹ってやつの下にあって、神経と絡みあっていたの。

 先生は、過去には、自然に腫瘍が消えたケースもあるとも言ってくれたんだけど、このまま、腫瘍が大きくなると、いずれ、体の機能が奪われて、死ぬこともあるって言われた。

 とりあえず、このまま、成長するのか様子を見ようってことになりました。

 正直、ショック。


 そこで、発表です。明日香が死ぬまでにやっておきたいこと一覧。

じゃーん。パチパチ。

 ・目前のソロコンサートを成功させる。
 ・ソロアルバムも出す。
 ・シンガーソングライターになる。
 ・結婚して、家庭をつくる。
 ・子守唄をつくる。
 ・子供を産む。

ここからは希望。

 ・母親として、武道館に立って、子供に自慢する。
 ・おばあちゃんになる。
 ・100歳まで生きて大往生する。絶対、ファンの人より長生きしてやるんだから。

 私の人生だもの。絶対後悔したくない。いろんな人から、止められたりするかもしれないけど、
 私一人になっちゃうかもしれないけど、
 ぜったい、いつか、子供が大きくなったとき、自慢できる人生にするんだ。

                                                 2015.3.15 守屋明日香』


 病院の一室。手術の映像が流れる関係者控室。
 家族は、既に手術室に入っている。
 つまり、それは死ぬ可能性を示唆していた。

 その控室には、【咲く日々】のメンバーと青木のみだった。

 モニターには開頭手術を受ける明日香の姿が。
 手術は既に、3時間を超し、危険な領域に入っている。
 脳幹の神経に癒着した腫瘍を取り除くことは神の領域と言っても過言ではない。
 本来なら、もっと、早く手術をすべきだったかもしれない。
 でも、明日香の場合、腫瘍が見つかったとき、既に脳幹との癒着があり、難しかったのだ。
 手遅れだったと言っても良い。
 医師の倫理においてあってはならないのだが、生還率が低い手術では、医師側のリスクも考えなければならない。
 明日香は、【咲く日々】を卒業しているとはいえ、全国的に有名な芸能人である。
 それを、無為に殺したとは言われれば、名声的に大打撃だろう。
 そもそも、明日香自身も、手術には乗り気ではなかった。
 病気のことは、極々一部の人間しか知らない。
 両親、当時掛かりつけ医だった旦那、【咲く日々】のマネージャー青木の4人だけだ。
 明日香と、その4人に主治医は告げる。
 「余命は、まだ判りません。経過観察が必要です。
  急速に成長すれば、半年。緩やかであれば、5年か10年か。
  外科手術でないと根治は難しい病気です。過去には、自然治癒したという例があるそうですが、私の知る限りではありません」
 脳外科の主治医は、MRIの画像を見せ、続ける。
 「脳幹から繋がる神経に絡んでいます。おそらく既に癒着しているでしょう。
 無理に引きはがせば、良くてても、一生意識が戻らない可能性が高く、悪ければ死ぬかもしれ
ません。正直、お勧めできません」
 「手術しなかったら?」
 「まず、神経が圧迫され、指先が痺れたり、視界が暗くなったり、意識を失って倒れたり、段々進行していきます。さらに進むと、下半身不随や、言語障害、記憶障害、幻覚、多臓器不全。
 そして、死に至ることもあるでしょう。
 若いあなたが、精神的に、迫りくる死の恐怖に、耐えられるかどうか」
  母の今日子は、覗くように明日香を見て言う。
 「どうする。手術受ける?」
 「だって、死ぬかもしれないんでしょ。私はまだ、やってないことがたくさんある。
  お嫁さんになりたいし、子供がほしい!。
  本当は、幸せになりたい。
  なんで・・・」
 初めて、病名を告げられた時、4人にそう言った。
 死ぬ確率の高い手術を受けなさいとは言えない。
 一同が黙る中。明日香は零れ落ちる絶望の涙をぬぐわず、顔を上げ言った。
 「決めた。死ぬまで生き抜く」
 明日香は、4人の手を集め、小さな手で強く握った。
 「これは、ぐすっ、ここにいる人だけの秘密。ぜぇったいに、漏らさないで」
 明日香は振り返ると、診断に立ち会った、当時、まだ、旦那でもない、掛かりつけ医の倉敷に向き直り強い目線で言った。
 「先生、これから私に起こることを誤魔化せる理由を考えて」
 次に、青木の方へ向いた
 「青木さん。スタッフにもメンバーにも秘密だよ。それと、倒れたりしたら上手く誤魔化して」
 明日香は眉間に皺を寄せ、赤くした瞳を向けた。
 「七穂たちが、これを隠して上手く笑えるわけないでしょ。きっと、辛くなるから。
 それじゃ、私も辛い。
 これからどうするか、まだ、判んないけど、お願い。秘密にして」

  控室。【咲く日々】のメンバーに青木は、おもむろに懐から一綴りの手紙をだした。
 それは、明日香が、メンバーに当てた手紙だった。 
 七穂子はそれに触れると、涙があふれた。
 「明日香ぁ」
 
『咲く日々のみんなへ。
 これを読んでるってことは、青木さんが全部洩らしたかな。

 盛。口軽いな。

 いろいろとごめんなさい。

 どれから謝ればいいんだろう』

 

 『七穂子のおでこまじまじとみて、すっげーデコって思った事かな』
 「バカ」
 『メイのから揚げ食べたことかな』
 「それちがうでしょ」
 『アヤ人形お尻で飛ばしたことかな』
 「どうでもいいしょ」
 『零、歯ぐきでてる』
 「悪口でしょ」

 

 4人は明日香の手紙にツッコミ、それを読み上げる、青木の手元を覗き込んだ。

 『ごめんなさい。冗談。

 これを、読んでるなら、もう、聞いたよね。私の病気。
 それで、もう会えないだろうことも。

 これ知ってるのは、両親と旦那と盛と、盛が漏らした社長だけ。

 七穂、国立で言ったじゃない。笑顔を届けるって。凄く素敵なことだよ。
 私もそう思った。でも、無理になっちゃった。
 ごめんね。

 ちょこちょこ倒れたりして、迷惑かけて、それでもちゃんとやろうとして、上手くいかなくて、イラついたりして。廻りからもたくさんいろんなこと言われて。

 もうダメって思っちゃったの。

 それに、体が持たなくなってた。

 こうするしかなかった。

 疲れたっていうのは、体だけじゃなくて、ココロも。

 すごく怖かった。いつ死ぬんだろって。

 もう一度、勇気をつけるためにも、一度リスタートしたかったの。

 自分のペースを掴むためにね。

 辞める時、たくさん話したけど、病気のことは言わなかったね。

 メイは、凄く不満そうだったの覚えてる。

 おかしいって判ってたのかな。

 でも、押し通しちゃった。

 

 七穂、メイ、アヤ、零。

 みんなやさしいから、このことを知ったら、笑顔で【咲く日々】のステージできた?

 私が【咲く日々】に残っても、残らなくても、それまでと、同じように、笑顔を届けられた?

 届けられたら、それはそれで、イヤだけど。

 だからね、ソロでやりたいって、我儘を言って押し通したの。

 

 私は、幸せなの。

 みんなの素敵な笑顔だけを見てこの世にお別れするの。

 だって、死んじゃったら、皆の悲しむ顔見ないで済むもの。

 私の我儘、聞いてくれて今までありがとう。
 
 ねえ、最後に、もう一つ私の我儘を聞いて。

 もし、帰ってこれなかったら、

 私の子供、桜にも、笑顔を届けて。
                                                  2020.3.14 守屋明日香』

 

 「なんだよ、もーぉお、ダメだー」
 七穂子はテーブルに突っ伏すように泣き崩れた。
 「ずるいよ。自分だけ」
 絢沙は手紙を凝視しつつ、涙を拭うことなく泣いている。
 「もう会えないなんて、イヤぁだぁ」
 零は、鼻水を垂らしながら泣く。青木がカバンから箱テッシュをだし、それで、メイが、拭う。直ぐにダーッとまた垂れる。
 「ホントに帰ってこれないの明日香は」
 メイは、零の顔を整えると、自分の涙を両手で拭いながら言った。
 「わからない。先生は、殆ど可能性は無いって言ってた」
 「バカバカバカ、明日香のバカ、もっと話したいよ、ヤダヤダヤダ、もっと、もっと、ううっ、なんでよーぉ」
 零は、叫ぶように泣きじゃくり、最後は何を言っているか判らないほど嗚咽を上げた。


『雅さんへ。

 へへ、まだ、旦那様って言いにくいな。

 

 最初に会ったのは、東京に引っ越してすぐ、風を拗らせて、時間外で見てくれるお医者さんが判らなくって、パパの後輩ってだけで叩き起こして診てもらった時だよね。

 それから、掛かりつけになって、病気じゃないのに、遊びに行ったりしてたよね。

 パパが単身赴任で居なかったのもあると思う。やっぱ、寂しかったのかな。

 転機はやっぱりあれかな。腫瘍が見つかった後だよね。

 いつ来るか判らない、死ぬって恐怖と、【咲く日々】の活動での緊張で、精神的にもボロボロで、ちょくちょく倒れたりして。

 扁桃炎とか、花粉症とかって誤魔化しちゃったね。

 

 いつか、謝んないとだね。

 

 あのころは、かなり参っちゃていたから、毎日のように通ってたよね。

 でも、毎日、通ってると、治療費バカにならないのよね。

 で、思ったの。 こりゃ、医者とでも結婚しないと、治療費大変だぞって。

 知り合いに、医者いないなー。

 「うーん、医者か。お、居たぞ」ってね。

 次の日だったかな

 「ねぇ、先生、結婚しよう」

 あはは、あの時の顔、間抜けだったよね。ヤッタって思っちゃった。

 「だって、先生と結婚すると治療費タダでしょう。
 私の願い知ってるよね。
 結婚して、家庭をつくる。子守唄をつくる。子供を産む。
 私の事情も知ってるでしょ。
 そんな人、いないもの。
 それに、独身でしょう?
 お得だよね」

 でも、失礼な話だよね。お得って。

 雅さんね、よく結婚してくれたよね。

 すぐ死んじゃうかもしれない人、普通、結婚しないよ。

 桜をありがとう。

 私にしてあげられないことを、たくさん、たくさんしてあげてね。

                                                  2020.3.14 倉敷明日香』

 

 閉頭されて行く明日香。
 手術の成否は判らない。
 手術が成功しても、意識が帰らないことはある。
 意識のない明日香はまだ頑張らなければならなかった。
 出産である。
 
 既に5時間を超える手術を受けている。
 体力が持つか。どうか。
 
『桜へ

 まだ、スキャン越しでしか会えない私の子供、桜。

 日に日に、大きくなってるの感じてるよ。

 もう少ししたら会えるのかな。会いたいな。

 

 ごめんね。桜。

 もしかしたら、会えないのかもしれないの。

 お母さんは、今、病気と闘いながらあなたを守ってるの。
 
 薬も、治療も受けられないから、ちょっと、大変なの。

 でも、がんばる。

 最近、意識を失うことが多くなっちゃって、

 もしかしたら、あなたに会えないかもって、考えちゃうことが多いの。

 ちょっと、くじけそう。
 
 もし死んじゃったら、あなたはさみしい思いをするかもしれない。

 そう思って、この病気と闘い始めた時から、たくさん、映像に残したの。

 いろいろなことにチャレンジして。

 たくさん、たくさん、映像に残れば、

 いつか、あなたは、私を見つけることが出来るかもしれないから。

 だから、』

 

 明日香の手紙はここで止まっている。
 自分の子供へ向けた手紙をしたためているとき、気を失った。

 

 

 明日香は、フワッたした意識の中にいた。

 死後の世界がある。
 そういう人がいる。
 出来れば、私も信じたかった。
 でも、現実、現金主義の私は、あまり信じていない。
 手紙を書いていたところまでは覚えている。
 気を失ったのかな。
 そういえば、麻酔を打たれていたところも覚えている。
 既に、感覚がなくなっていたところなので、刺された感触すら感じられなかった。
 もし、ロボットが痛覚を認識するとしたら、こんな感じなのかもとぼんやりと思った。
 そっか、手術になっちゃったんだ。
 何かまぶしい。
 死後の世界って、こんな感じなのか。
 死んじゃってるから、もう手紙かけないな。
 桜。
 会いたかった。触りたかった。たくさん撫でたかった。
 ごめんね。ちゃんと育てられなくて。

 

 次第に焦点が合いだした。天井には、極々普通な蛍光灯が並んでいた。
 「どこ?」
 第一声はそんな感じであり、劇的なものではなかった。
 
エピローグ

 東京湾を望む公園。見える建物は変わってしまったが、そこを吹く風は、磯臭く、懐かしい。
 遠くに、陽炎にゆらむタンカーが行き交うのが見える。
 「ねぇ、ママ。なんで、手紙出版したの?
 死ぬまで、出さないんじゃなかったの?」
 今年、23歳になり、母と同じ、48歳の男性と婚約した桜は、少し、開けた湾が見える公
園の芝生に、座り、昨日出版された、明日香のが書いた『明日の桜へ』を閉じ、母、明日香を
見やりそういった。
 それは、明日香が生きた48年の日々をつづった日記であり、宣言であり、生き様だった。
 「気が変わったの。私、我儘だから」
 にこやかに、悪戯っぽく笑う母は、とても、穏やかだった。

                                                                                                                            END

 

 

あとがき。

 この小説にはモチーフとした方はいますが、完全なフィクションです。

 あの人の教会のツイで、もっとドロドロしいスジのものは収めて、このスジに。最初は、主人公は死んでしまうスジでしたが、死ななくてもいいなって思って、幸せに我儘を言い続けさせました。

 このスジはもともと、ある人がアイドルをやめた本当の理由ってあるのかなって考えたことがきっかけで、 スジはだいぶ前に頭にありました。

 さらに、あることがきっかけで、ダークサイドに落ちた作者が、雪道を1000キロ程度毒を吐きつつ、雪山に埋めた後に、あるツイートを見て、エンジェルサイドに戻り、思いついた勢いで書き上げたものです。
 なので、精細な時代考証や、言い回しでない部分があることを前もって陳謝いたします。
 また、作者は素人なので、読みにくさ、表現のあまさ、構成の不足。重ね重ね陳謝いたします。

 

 

色々な秘め事。

 グループ名の【さくらんぼ響】変ですよね。あるアイドルグループの候補名の中から選んで
単純にくっつけました。咲く日々はサクヒビを単純に変換かけたらなかなかだったので。 
 守屋明日香:モリヤアスカ
 青木 盛夫:アオキモリオ
 坂城 絢沙:サカキアヤサ
 なんとなく判ります?
 豊田七穂子:7月生まれで近所の稲穂が青く元気よく育っていたから。
 向島 メイ:東向島の旧名とアニメ界の妹といえば。
 熊本 零 :6月生まれで、雨が降っていたのでレインから零に。
       熊本は、あの人ググるとくまもんが出てくるので。

今日子と桜、明日香は、娘に明後日って付ける気は毛頭もなく、もし死んでも、母親を近くに感じられるように明日香の誕生日頃つぼみになる桜から名前を付けました。
 色は特に決めていません。
 エピローグの前。明日香が目覚めたところで話を止めています。
 2020.3.16に入った瞬間でとめました。
 そこから、23年の間に何があったかは、余白として楽しんでください。
 他にもありますけど、気が付いた方で楽しんでください。

                                                    2019.2.18  葉月 著

 

PS 葉月 とは 18年ぐらい前に使ってた同人のペンネームだったりします。