福岡県の太宰府市に住んでいる瓦田勝君は、私の大学時代からの友人であり、何よりもカリスマ的な美術教育の指導者として知られている。その瓦田君が自宅に程近い太宰府市五条にある新崎アパート107号室のIWASI Laboで、6月19日(水)から6月23日(日)までの会期で絵画による個展をした。

 個展は既に終了しているが、印象深い作品展だったので今回のブログではその感想や瓦田勝君の事などを書いてみようと思う。

 

 

 

 

 福岡市を核とする都市圏は、近年目覚ましい発展を遂げていて、日本で最も元気な街だと言われている。また、その影響は少し離れた大宰府市などにも、何らかの形で及んでいるようだ。

 個展の会場である太宰府市五条四丁目にあるIWASI laboには、今回初めて伺ったが、西鉄五条駅からあまり離れてないこともあって、周囲は住宅と商業施設が混在しているような地域だった。そんな中にあってIWASI laboのある新崎アパートは外からは、大学生などが部屋を借りて住んでいる古びたアパートに見えるが、内部は改装した小さなショップやギャラリーなどがいくつも入っていて、かつての昭和の時代のような活気も感じられる不思議な場所だった。

 

 

 この新崎アパート一階107号室の、6畳にも満たないような小さな空間が、今回の瓦田勝君の個展会場であった。この小さな空間の壁面に、6号や4号くらいの絵画を2、30枚ほど、瓦田君らしい拘りを持って展示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、私の歳になると、古くからの友人が個展を開くだけでも嬉しい。まして個展に向けて真剣に準備してきたであろうことを思うと、飾られている絵にどこかいとおしさのようなものも感じ、冷静に見ることなどできない・・・・・・・

 

 

 冒頭で触れたように瓦田君は美術教育の指導者として長年尽力してきたが、作家としての活動も怠ることなく継続して来た。瓦田君は口先だけで美術や教育を語ることを、何より嫌い、強く否定して来た。そして、美術教育の指導者は、まず創造者であるべきだという強い信念を持って長い間頑張って来た。

 

 

 その瓦田君の仕事を、今までは展覧会資料などで見てきたが、今回初めて実際に目にすることが出来た。それでも、そのあまりにシンプルな表現に、正直最初は少し戸惑いを覚えた。

 

 

 瓦田君の絵は用いている色数も少なく、画面上に等間隔に点が並び、一見すると雑多な要素を全て切り捨てたミニマルアートのようにも見える。しかし、よく見るとキャンバスの表面を溶液であるテレピン油でたっぷりと覆い、その上から全神経を集中させて油絵の具で点を、ほぼ同じ間隔に配しているのが分かる。色数は僅かであるが、それらの色が画面を覆うテレピン油と反応し、微妙な模様になって広がり、どの絵も不思議なニュアンスに満ちていて、絵の表情はそれ程単純ではない。

 瓦田君が使用している色数は、青や黄など僅かであるが、その中で特に黄色は植物のいのちのような不思議な力を感じたので、色名を尋ねてみた。するとオーレオリンだと教えてくれた。

 オーレオリンは私が普段使わない色だが、調べてみると合成顔料として1848年に発明されたようだ。そして、ウィンザー&ニュートンが1861年に最初は水彩絵の具として発売したらしい。コバルト由来の顔料であるが透明度が高く、白地に重ねることにより金色の表現が可能とあった。

 瓦田君はニュートン製の絵具を好み、黄色はオーレオリンを使うなど拘りが半端ではない・・・・・・・・ 

 

 

 個展のリーフレットに「六月の雨の中で」という瓦田君の詩ともとれる短い文章が添えられていた。それを読んでみると瓦田君が日々生活し、その日常の中で感じる自然に、いかに強くインスピレーションを受けて絵を描いているのかが理解できる。

 普通の人にとっては何でもない、身近な世界の中で生起する現象、例えば季節は六月、散歩に出かけていて急に降り出した雨に、熱せられたアスファルトの路面には、けむりが立ち上がり、遠く懐かしいにおいもしてくる・・・・・・・

 そんな何気ないが心に強い波動を与えるものの記憶を、瓦田君はミニマルなスタイルの中に深く籠めて表現している。また逆に、描かれた絵はその絵を見る者の心に瓦田君が感じたのと同じような感動の波動を放射しているに違いない・・・・・

 一見ミニマルにも思える瓦田君の絵は、そんな機能を持った装置のように私には思えて来た。

 

 

 カリスマ美術教育家でもある瓦田勝君の個展には、本当に多くの方が足を運ばれていた。その中には長く美術教育に携わった福岡女学院中学や高校の卒業生の方や美術教育の関係者、それに美術家も多かったようだ。狭い会場の中は身動きが出来ないくらいだった。そして、私が伺った日は生憎の天気だったが、外で傘をさして待っている方も多くおられ、瓦田君の人望の厚さや広さには改めて驚かされた。

 個展が無事終わり瓦田君は今はほっとしている事と思う。それでも、今後も健康には十分に気を付けて、また絵を描いて皆に見せて欲しい!