世の中には女王様タイプの人がいる。あの人がそうだった。


会社経営者の彼女は、足の骨折をしてとある病院へ入院していた。
しかし、治療方針が納得できず、うちの病院に強引に転院してきたのだ。


今回は‘女王陛下’にお仕えするための「セラピスト3か条」について述べたいと思う。


①ファーストコンタクトにすべてをかけよ! 
第一印象が肝心だ。ここでつまらない感情の行き違いを起こしては、取り返しのつかないことになる。
とにかく、ていねいに、おだやかに、ゆっくりと。
「失礼します。私、リハビリテーション科から来た者です」。
「それで」。「あなた、なにをしてくれる人なわけ?」。超上から目線だ。
ここであわててはいけない。セラピストとして、退院まで伴走することを説明する。
とにかく、ていねいに、おだやかに、ゆっくりと。
とりあえず、初日の謁見の儀終了。


②わがままには迅速に対応せよ!
女王陛下はわがままだ。
例えばリハビリ時間の変更。
本人の希望する時間にお迎えに行っても、「忙しいから後にして」。
どう見ても忙しそうには見えないんだけどなー。
急遽スケジュールの再調整。
その日の午後、再度お迎えに行く。
車椅子を押していると、「ちょっと待ってて。電話するから」。10分経過。
再度リハビリ室に向かう。
「売店寄りたいから連れてって」。10分経過。
「あのー、リハビリの時間なくなっちゃうんですけど」なんて間違っても口にしてはならない。
社会的モラルを大きく逸脱する行為は論外だ。
が、許容範囲内のわがまま、気まぐれには、迅速に対応することが肝要である。


③全身全霊で相手の話を聴け!
徐々にラポールがとれてくると、患者さんの中には自分語りをはじめる人がいる。
女王陛下もそうだった。
自分の生い立ちや若いころのエピソードなどを語り出した。
このような時は、心を砕いて聴くことだ。そうすることで信頼関係が築かれていく。
この頃、セラピストのアドバイスには素直に従ってくれるようになっていた。


月日は流れて退院の日。
女王陛下がリハビリ室まであいさつに来てくれた。
「おかげさまで無事退院の日を迎えることができました。ありがとうございました」。
なーんて、ありきたりのあいさつ、するはずがない。
「あなたも頑張ったわね。これからも一生懸命やりなさいよ」。
うん、やっぱ、そうでなきゃね。
女王陛下、万歳!