〈質問〉
自分史を書くことに興味があります。しかし私の人生に振り返るほどの意義があるのかというと疑問に思います。自分史を書く意義はどういうところにありますでしょうか?
〈お答え〉
人の人生に振り返る意義があるのかということを述べる資格がありません。ここではそのことには触れません。
自分史を書く意義はたくさんあります。ここでは自分史を書くことの意義の一つをご紹介します。
それは人生における出来事の意味づけを書くことによって変えるということです。
かつて私は約200人の脳卒中の患者さんの話をお聞きするということに取り組みました。
その時に私が感じたことがあります。
それは、人は「語りなおす」ことによって、出来事に対する意味づけを変えることができるということです。
お話をうかがった患者さんの一人、Aさんの例をご紹介します。
Aさんは50代前半で脳卒中に倒れ、半身マヒになりました。
発症当初、Aさんは自分の運命を呪っていました。
脳卒中で半身マヒになった(事実)
→まじめにやってきたのに理不尽だ(意味づけ①)
→もう私の人生は終わった(意味づけ②)
しかし、Aさんは家族や友人の温かい励ましのおかげで、マヒは残ったものの、歩けるまでに回復しました。
そこでAさんは自身の脳卒中の意味づけを問い直しました。
これは自分史を書くことで、ご自身の出来事を振り返ることと同じ作業です。
すると発症から7年後、Aさんはこのように言いました。
「病気のおかげで周囲のやさしさに気づいた。大切なものが見えてきた。病気をしなかったら仕事だけで終わっていたかもしれない」と。
Aさんの脳卒中に対する意味づけは発症当初と変化しました。
脳卒中で半身マヒになった(事実)
→そのおかげで周囲のやさしさに気づいた(新しい意味づけ①)
→恩返しのつもりでできることをやる・希望が湧いてきた(新しい意味づけ②)
となり、時間とともにネガティブな意味づけからポジティブなものへと変えることができたのです。
自分史を書くことには、この例と同じように意味づけが変えられる可能性があります。
例えば過去、大変に不運だと思った出来事があったとします。
しかしいまの自分から見ると、そのことがあったお陰で違う問題を回避できたと気づくかもしれません。
こういった意味づけの変化によって、未来が変わる可能性があります。先述したAさんが「恩返しのためにできることをやろうと思うようになった」と言ったように。
自分の人生を語るための自分史を否定はしません。
そういうものがあってもよいでしょう。
しかし自分史を書くことには、自分の過去の出来事の意味づけを見つめなおす機会であり、
それは自分の未来のためであるという意義もあります。
結城俊也
一般社団法人日本からだ・ぶんかストリート 会長
専門理学療法士、医療福祉学博士
回答者・結城俊也は理学療法士として脳卒中患者200人の声を聞きとりし「リアル脳卒中 患者200人の生の声」(2018、日外アソシエーツ)にまとめ出版しました。
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