グリーンの芝生、整備されたテニスコート、大理石の掲揚台から銀色に輝いて高く伸びたポールにひるがえる日章旗、社旗、駐車場に並んだ自家用車。フェンス越しに目にするそうした眺めは、会社のイメージをいやが上にも高揚させた。すばらしい会社だとの好印象を茂雄自身も持っていた。それは外面だけだったのか。初めて会社を訪れた時守衛長と交わした会話を思い出した。
「伊藤さんは何時頃退社されていましたか?」
「6時半頃でしようか、偉いさんですからね、他の人とちよっとずらして帰られていました」
守衛長の、えらいさんという表現に何となく蔑んだ雰囲気があったのを思い出した。
「それで伊藤輝男部長を痛めつけようと思った。それが皆の為になると言う単純な発想だったな」サラリーマンの悲哀を感じつつ言った。
「少し痛めつければ何となく気が晴れるような気がしました。それには車に何か仕掛けをして車に損傷をしてやればすっきりすると思いました。ところがあんな大惨事になるとは夢にも思いませんでした」安里和夫の体は小刻みに震えていた。
「焼けこげた車のトランクからリールの部品に混じってゼンマイと直径が1㎜ほどの短いピンが多数。心棒らしい金物と金属製の板が1組。木製、プラスチック製の部品は焼けて跡形も無かった。単三の電池は2本出てきた。鑑識の結果一部はオルゴールの部品と判明した。オルゴールを改造したタイマーを作りトランクに仕掛けた。そうだな」
茂雄は厳しい口調に変わった。安里は観念したのか体を細かく震わせて下を向いたまま頷いた。
「作業場にカセットテープがあった。テープは、エリーゼのために、だった。そこで金沢市内でオルゴールを扱っている店をしらみつぶしに探して、△△観光みやげ店に、エリーゼの為に、が聞けるオルゴールを置いていることが判った。そしてレジの記録から××月××日1台販売されている記録をコピーしてもらった。たまたま対応したのが伊藤悦子だった。そこで知り合って時々△△観光みやげ店を訪れるようになった。間違いないな」