45年前に開局したときは、10W局でさえ申請書類が山のようにあって、作成するのに難儀をした思い出がある。その後、JARLの機種認定制度が生まれてJARLの認定を受けたメーカー製のリグであれば、提出する書類が簡便になった。
 
この制度は、無線機器メーカの売り上げを伸ばした一方で、ハム独特の自作意欲が急激に減衰していきました。パーツをそろえて汗を流して組み立てて、更に調整に苦労するより、メーカー製リグは安定している上に、価格にも大きな差がないのです。
 
こうして自作派ハムは、本流ではなくなってしまった。とは言え、コンバータ、トランスバータ、アンテナなどの周辺機器を自作する局は多くいました。しかし、これらの分野もやがてメーカー製が多くなり、自作派には増々肩身の狭い環境になってきました。
そうした中で携帯電話機の普及などによる無線の需要も増えて、総務省の肝いりで「技術基準適合証明」マークが多くの無線機に摘要されるようになった。2000年ごろから、アマチュア無線にも「技適マーク」が適用されました。
 
元々アマチュア精神は自作にあり、その「カット・アンド・トライ」の精神は、新しい発見や技術の革新を生み出す原動力となっていたのです。機器の自作だけでなく、電波伝搬、伝送方法、ディバイスの開発に至るまで、アマチュア精神が無線技術発展の原動力となりました。
 
申し上げるまでもないが、戦前、戦後の技術革新を支えた、八木アンテナの八木 秀次、三田無線の茨木悟、ソニーの井深大や、戦後JARL会長を務めた梶井謙一、村井洪、原昌三など、自ら半田ごてを握ってアマチュア精神で新しい時代を築いた人々でしょう。
 
今でも、メーカーにない機器を自作するとこは、アマチュア無線の誇りです。自作しないまでも、古いリグを修理や改造して使うことも一般的です。Wなどではマルコニー式火花送信機を楽しむハムもいます。
つまりアマチュア無線には「技適マーク」では対応しきれない分野が多岐に渡って存在している訳です。総務省がJARLに対して「技適マーク」を強要しようとしても、アマチュア精神が残っている限りは、「技適マーク」との折り合いは付かないのです。
 
世間話のラグチューだけだったら、携帯電話や簡易無線、メールで事足りる。自らの考案を生かし、新しい世界にチャレンジする。あるいはラグチューを通じて技術交換と修正を行うから意義がある。「携帯電話の普及でハム人口が減った」と言う話を耳にするが、JARLもJAIAも世間話ラグチューのハム人口だけをあてにするから、このような発言が出てくるのだと思う。
しかるに自作機器を作り、機器を改良し、アンテナを工夫し、DXにしのぎを削るハムも多く存在し、データ通信、和文CWを愛するハムも多い上に、一過性ではなく継続的にアクティビティも高い。
 
技適マークは、総務省の「規格に合った無線機だけ使え、古い無線機や自作の無線機は使うな」ということですから、当のハム以外には大変都合の良いシステムです。無論、放送局並み(?)の落成検査を受ければ、自作機も使うことはできるのですが、これでは電監(今は総合通信局)が対応しきれない。
 
総務省の「技適マーク」一本化への反発を、当時のJARL会長であった原さん(JA1AN)も相当苦労なさったことでしょう。そこで保証認定制度を残すことになったのですが、総務省は「労あって功少ない」この業務を民間委託にすることにして、委託会社を公募をしたようです。
戦後のアマチュア無線再開時から、包括免許、一括免許の検討がされていたようですが、すべてを自らの管理下に置いて、電波利権を手放したくない郵政省、引き継いだ総務省が断固反対の姿勢を崩すことはありませんでした。
 
アマチュア精神を過去の遺物と片づけるのは簡単ですが、「カット・アンド・トライ」の精神がなくなったら、「キングオブホビー」と言われたハムの存在意義もなくなることでしょう。その結果、若い「日本人の理科離れ」は、間違いなくみます。
 
そこで総務省は、自ら手間を増やすのを嫌って仕方なく「保証認定制度」を残したのですが、総務省やメーカーから見れば妾の子としての存在の保証認定制度を引き受ける民間企業もなく、原さんの友人であった木村信次郎氏に依頼して手を挙げてもらったようです。
 
こうしてTSS株式会社(代表取締役=木村信次郎氏)の保証認定事業がスタートしたようですが、JARLからJARD(日本アマチュア無線振興協会)そしてTSSと、たらい回しにされた職員(今は社員)の精神は、明らかに蝕まれているようだ。
TSSの保証認定の担当者から電話で伺ったことだが、100件前後の申請待ちを、たった1人の担当者(一旦言ってから話を濁らせた?)が行っているようだ。一件ごとに申請の不備な点をメールで連絡して、修正をさせて再確認する作業に追われているとのことだ。
中には、この時とばかりに一気に多くのリグを申請するケースもあり、担当者には負担が重なっているようだ。民間企業に事業委託したのだから、民間企業は単独の損益のバランスを考えなければならない。しかし誰が見ても利益を生む事業たり得ないことは明明白白だ。
 
この負のスパイラルが、折角生き残った保証認定制度を更に危うくして、アマチュア無線人口を減らしているのではないかと思えた。
 
今回は、少しお堅い話になってしまったが、ハムの現状を知る良い機会になりました。