孫子の兵法では「敵を知って、己を知れば百戦殆うからず」ですが、私の場合はこの年になっても「己を知る」心境までに至っていない。電子回路のトラブルシューティングも「敵を知る」から始まりますね。
 
今回から、受信を阻害し、送信ではインターフェアの要因になる「コモンモードノイズ」について考えることにします。そこでコモンモードノイズと言う敵を知るために、測定する方法から考えました。
ただし測定と言っても、学術的な研究ではないので、必ずしも絶対値を求める必要はないでしょう。自分が解れば良いのだから、何処かに基準を設けて、その相対値が解れば十分です。そう思えば気軽に測定ができます。
 
普通の電気回路が2本の線でつながっていれば、当然ですが線間では電位差が有ります。その電位差が信号であったり、電力であったりするわけですね。これがノーマルモード(ノイズ)です。
ところが2本の線に同じような電位差が発生する場合があって、それがノイズであれば、コモンモードノイズ、同相ノイズと言われています。
コモンモードについては、TDKの方が「TDK EMC Technology」に書かれているので、参考にご覧になると良いです。
 
電気音響の世界では、かなり以前から同相ノイズに対する対策が行われていました。有名なところでは2芯シールドを4芯にして、2本ずつ撚り合わせて同じ相のノイズを打ち消し合う、4芯マイクケーブルがそれです。
現在では、放送局、レコーディング、PAなどプローディオの世界では普通に使われていますが、私の記憶では、カナレ電気が4芯シールドを使ってマイク回線のノイズ除去を始めたように思います。
 
パソコンやスイッチングレギュレータなどの電子機器ではECM対策、電源ラインのノイズ対策では、各線にコイルを入れて、そのコイルを結合しすることで、同じ相のノイズを打ち消す方法が取られています。これが一般的にコモンモードチョークと呼ばれるノイズフィルタです。
 
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高周波の同軸ケーブルでは、線路インピーダンスが重要ですから、撚り合わせることはできません。さらに周波数が高くなると、信号線路にコイルを単純に使えませんので、フェライトコアなどの透磁力を借りて、同相に派生したノイズを打ち消す方法が取られています。
 
本題に入って、同相ノイズの測定は、分割型コア(俗にパッチンコア)に数ターン検出コイルを巻いて、この出力をオシロスコープで観測することにしました。
 
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ここで使用しているパッチンコアは、竹内工業のTFT-112514N(外径28.6mm 長さ20.2mm 内径11.4mm)ですが、測定する同軸ケーブルの仕上外径より、一回り大きな内径であれば、何でも大丈夫です。
今回は、主に5D-2V(仕上がり外径:7.5mm)、3D-2V(仕上外径:5.5mm)を測定対象にしていましたので、丁度良い内径でした。
 
コイルになる被覆ワイヤ(AWG22)も、特にこだわりはありませんが、線外径が太いとコイルとして巻き数が制限され、挟む同軸との兼ね合いが出ますので、注意が必要です。
 
できるだけ現象を検出したので、8ターン(コアの内側を通過する数)にしましたが、高周波的には、もう少し巻き数を減らした方が、特性は良くなるかもしれません。コアに巻きつけた線の両端にオシロスコープのプローブを挟むだけで、立派な測定器ができました。
 
同じコアで巻き数を変えなければ、オシロスコープに現れる振幅が相対量として測定できるわけです。ここでは50MHzのオシロスコープを使って観測していますが、出力波形の形状を観測するわけではありませんので、測定周波数の倍程度の帯域(7MHz帯の測定なら14MHz以上)があれば、振幅量の観測には十分でしょう。
 
どうしても絶対値が必要なら、検出コイルの巻き数を調整しながら、校正された高周波電圧計とオシロスコープの目盛を合わせればよいことですが、アマチュア的には無駄な苦労だと思います。
 
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次回から、このコモンモード測定法を使って、IC-7200とアンテナ線の同相ノイズを探りながら、フィルタの効果を調べてみたいと思います。