無我夢中で走っていた。歓楽街からいつの間にか住宅街までにたどり着いていた。俺は殺していない…俺と同じ境遇の奴らがいて、タイミングが被り、同時に起きてしまったのか…いやそんな事はあり得ない。そんな事を考えながら、懸命に走っていた。橋の下に潜り込んだ時には、もう息が上がっていた。大の字に身体を広げて、ナイフを投げ出した。ナイフのコンクリートにぶつかる音を聞いて、あの言葉を思い出した。ざ・ん・ね・ん…奴は俺の全てを知っている。俺は…
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何が起きてるんだ…まったく理解できない。刺したナイフは男の手…女の子は俺が狙った背中にナイフが刺さって血があふれ、倒れている。俺は女の子を刺していない…それだけがうっすら理解できる。女の子は血だらけで、恐らく死ぬだろう。気付けば、俺のナイフは男に取られていた。俺の目を見てる。見下している。口元が少し動いている。「ザ・ン・ネ・ン」と言ったような気がした。男は消えていた。いや俺が動けなかったから、消えたように感じたのか。女の子の死体を見た俺は、逃げだしたんだ。朝8時すぎの出来事。何が起きてるんだ…
人間はここぞという時に何もできないんだ。ホラー映画では、大きな悲鳴をあげるのに…刺されても声が出ない。不思議すぎる…さあ目を開けようとした時…嫌な空気を感じていた。誰かいる。ナイフが刺さっているのは男の手だ。お前は誰だ…女の子をかばって飛び出し、女の子を守ったのか?いつの間に?俺はミスをしたのか?男の手はまるでリレーでバトンをもらうかのような体制で俺のナイフを握りしめていた。残念なのは、俺はここぞに声が出なくなっている。ナイフから流れる血だけを見つめていた。俺・ナイフ・血・謎の男・狙った女の子の順番にまるでオブジェだ。そのオブジェが崩れていくんだ。女の子だけが…