映画『からっぽ』(2018年)を観ました。
職業とアイデンティティ、そんな古くからの問題が見事に問い直される映画です。人は最初からそうなのではなくて、働くなかでそうなっていく。しかし、フリーターはどうなのか。
毎日3件週7日合計21種類のアルバイトを掛け持ちしているフリーターの女性が主人公。ロシア民謡「一週間」の軽快なテンポに乗って、つぎつぎユニフォームを着替えてはい次の顔。
そんな生活に突然現われたのが、自分の顔をじっと見つめる画家。顔を描かせてほしいということで、同棲するようになり、アパートの室内には「顔」がたくさん。最初はそんな生活を楽しんでいたのが、次第に違和感が生じてくる。
そこに登場するのが美術専門のライター。静かな一対一の画家・モデル関係と恋人関係だったのが、第三者を加えると揺れてくる。
絵画と主人公の「顔(ペルソナ)」をからめるところが心憎いですね。一点を凝視する画家の視点と、次々と取り替わる主人公の「顔」。無理に固定すると壊れてしまう。
上演終了後に、野村奈央監督がトークをいたしました。何度も言っていたのは、「ほんとの自分なんてどこにもないんです」。
新人の映画監督の大学卒業作品。千葉映画祭や田辺・弁慶映画際といった国内の映画際で上映、受賞した映画ですが、ロードショウ上映というのではないので、機会があればご覧下さい。
2019年7月14日