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あの世アルバム 7 BERT JANSCH 「MOONSHINE」     1973

 よく「無人島へ持って行くアルバム」とかっていう例えがありますが、
「電気も通ってない無人島で、どうやってレコード聴くんだよぉ!」的な
非現実的な発想ではなく、誰もがいづれ訪れる死期に際して
「棺おけに入れて欲しいアルバム」・・・これも棺おけと共に燃やされてしまう、
「あの世に持って行くアルバム」・・・持って行くというだけの満足感でしかなく、
実際、あの世で聴けるわけでなし。
それでは「葬儀で流して欲しいアルバム」とか
「死期が近づいた時に枕元で聴きたいアルバム」とか、いろんなこじつけを考えますが、
ここは素直に「あの世へ持って行くアルバム」ということで...。(笑)

 なお、アルバム・タイトルの前の番号は好きな順番とか、優先順位とかは関係なく、
ランダムに載せて行きたいと思います。

 さて、今回はペンタングルのギタリスト、バート・ヤンシュの「ムーンシャイン」です。
本作はペンタングル解散後の初ソロで、初めて買ったバートのLPでした。
たしか高校3年生の時、受験大学の下見に行ったついでに買ったと記憶していますが、
ひょっとしたら受験で上京した時だったかも知れません。
もちろん下見、もしくは入試が主目的であったはずですが、
最大の楽しみはその後のレコード屋めぐりでした。
新宿あたりのディスクロードやディスク・ユニオンなどを回ったとおもうのですが、
このレコード、「RECORD SHOP OM」というお店のビニール袋に入ってるので
おそらくその「OM」というお店で見つけたものでしょう。

 バート・ヤンシュを知ったのは、高校生の頃、地元のラジオ(KNB)で、
地元のラジオ曲のアナウンサーがパーソナリティを務める番組があって、
そこに準レギュラーみたいな形で出演してた「ゴフク・タカユキ」という地元人が
番組の中で「永遠の絆」を日本語で弾き語ってたり、
ブルーグラスの名曲「Foggy Mountain Breakdown」をアコギでプレイしてたのです。
そのゴフク氏が英国にジョン・レンバーン(当時はレンボーンではなくレンバーンと
紹介されてた)という凄いギタリストがいる...ということで
ジョンの「ANOTHER MONDAY」というアルバムを紹介しました。
知人たちに「ジョン・レンバーンちゃ知っとるけ?」と聞くと
十中八九「ジョン・デンヴァーなら知っとるけど...」という答えが返ってきたものです。
「ヘヘヘ...お前らジョン・レンバーン知らんがけ!」的な優越感でしたね。(笑)
アコギで機関車の音を表現したりする凄いギタリスト、という印象を持ってました。
上京時にそれを買おうと心に決めてたのですが、見当たらず、
「FARO ANNIE」というアルバムを買いました。

 氏が番組でペンタングルには
ジョンのほかにもう一人バート・ジャンシュ(ヤンシュではなくジャンシュと紹介)
という素晴らしいギタリストもいる、と紹介してたので、
たまたまお店にあったバートの「MOONSHINE」を買った、という次第です。
バートのLPは他にもあったと思うんだけど、「MOONSHINE」のジャケのイラストが
気に入って購入したのだと思います。

 プロデュースはメリー・"悲しき天使"・ホプキンのダンナであるトニー・ヴィスコンティ、
奥方も「The First Time Ever I Saw Your Face」でバートとデュエットしています。

 内容的にはトラッド、オリジナル、カヴァーなどをミックスした構成となっていますが、
バート独特の節回しや発音のせいか、オリジナルを聴いてもトラッドに聴こえるから不思議。

 トニー・ヴィスコンティのフルートをフィーチャーしたA-1「Yarrow」、
ラルフ・マクテルがハーモニカを吹くA-2「Brought With The Rain」、
トラッドによくあるカレンダー・ソングのA-3「The January Man」、
フィドルがバートのヴォーカルに見事絡みつくA-4「Night Time Blues」など
どれも素朴で渋みのある曲に仕上がっています。

 タイトル・チューンのB-1「Moonshine」、俗語で「密造酒」という意味もあるのですが、
ここでは関係ないようです。足に重りをつけられて牢獄に入っているヒトに
月の光が鉄格子の窓越しに降り注ぐ、という図の裏ジャケのイラストのイメージです。
ここでもフルートやクラリネットなどが、バートのオリジナルにトラッドな香りを
与えています。

 さて名曲B-2「The First Time Ever I Saw Your Face」には
メリー・ヴィスコンティ(ホプキン)がヴォーカルで、ダニー・トンプスンがダブル・ベース、
そしてなんとダニー・リッチモンド(ミンガスのところで叩いてたヒト)がドラムを叩くなど、
豪華なゲスト陣です。
この曲、ロバータ・フラックなどで有名ですが、
あれはまったく同名異曲といってもいいくらいメロディが変わってしまってます。
バートのヴァージョンはペンタングルのインストヴァージョン同様に
イワン・マッコールのオリジナルに基づいた正調ヴァージョンで、
どのようないきさつでまったく違ったメロディになったのかわかりません。
バートのヴォーカルにオブリガートのようにヴォーカルをなぞるメリー、
ペンタングルのジャッキー・マクシーとはまた違った味を出しています。

 本作は全体的にバートのギターは大人し目ですが、
ソロのB-5「Twa Corbies」ではアタックの強いギターが健在です。
唯一の難点はB-5「Oh My Father」にエレクトリック・ギターで参加してる
ゲイリー・ボイルというギタリストでしょう。
ジャズ・ロック系と思われますが、速弾き風のギターはいらないんじゃない?

 ま、とにかく素晴らしい作品です。
ペンタングルの「SOLOMON'S SEAL」同様、発売後、廃番になり、
マスターの所在不明で永い間、再発されなかったアルバムです。

 さて次回の「あの世アルバム」はライ・クーダーの「チキン・スキン・ミュージック」を
予定しています。