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TENORIO JR. 「EMBALO」     1964

 テノーリオ・ジュニオルが残した唯一のリーダー作です。
当時のブラジルのジャズ・シーンは歌伴のビッグ・バンドが多数ひしめき合い、
そんな中でクラブやバーでのアフター・アワーズ的なセッションが盛んに繰り広げられ、
ジャズ・サンバの全盛を迎えることになります。

 曲毎のパーソネルが特定されておらず、わかりにくいのですが、
管入りのタイトル曲「Embalo」ではラウルジーニョのバルヴ・トロンボーンがフィーチャーされた
珍しい曲です。またアントニオ・カルロス・ジョビンの「無意味な風景」や
ジョニー・アルフの「エルドラードでの週末」、バーデン・パウエルの「コンソラソン」、
バド・シャンクの「サンビーニャ」などのカヴァーも秀逸。

 特に「サンビーニャ」ではギター(奏者不明)とアルト(パウロ・モウラ)をフィーチャーした
サンバで、これは我々日本人の好みそうな哀愁を帯びた曲です。
また「エルドラードでの週末」はトリオで演奏されており、パーカッシヴなピアノと
ミルトン・バナナのドラミングが妙にマッチしている名演です。
かつてセルジオ・メンデスがNYでキャノンボール・アダレイとレコーディングした「雲」、
ここでもパウロ・モウラが吹いており、ギターもフィーチャーされ、パーカッシヴなプレイが
特徴のテノーリオとしては珍しくジェントルなプレイに徹しています。

 アルゼンチンに向ったきり消息を絶ってしまったテノーリオ、
(軍事政府によって殺害されたという説もあるらしい)
リーダー・アルバムとしてはこれっきりで、客演もワンダ・サーやナナ・カイミのアルバムなど
数えるくらいしかなく、まさに貴重な記録でしょう。