ボブ・ベルデンが自身のビッグ・バンドを率いてスティングの作品を取り上げたアルバム。
何曲かはシンガーもフィーチャーされています。
大昔、ギル・エヴェンスがジミヘンを取り上げたように、現代の名コンポーザーであるスティングも
このようなスタイルでアレンジされることに何の違和感もなく楽しませてくれます。
収録曲は
イントロダクション~アラウンド・ユア・フィンガー (ダイアン・リーヴス:vo)
ロクサーヌ
ストレート・トゥ・マイ・ハート
シスター・ムーン (フィル・ペリー:vo)
ブルー・タートルの夢
見つめていたい (マーク・レッドフォード:vo)
孤独なダンス
シャドウズ・イン・ザ・レイン
チルドレンズ・クルセイド
アイ・バーン・フォー・ユー (ジム・タネル:vo)
ダイアン・リーヴスのヴォーカルにオブリガートをつけるようにジョン・スコフィールドの
ギターが控え目に絡む「Wrapped Around Your Finger」、間奏ではジョンスコとしては
珍しいほどのメロディアスなソロが聴けます。
また、本アルバムの中では一番の出来ではないかと思われる「Sister Moon」、
ベニー・グリーンのピアノを軸にアレンジを付け加えていったかのような素晴らしい曲です。
ヴォーカルはフィル・ペリーという人、多分ソウル系のシンガー?
後半でのヴォーカルとボビー・ワトスンのアルトの絡みもなかなか官能的?
ワタシ的に再発見したのは「孤独なダンス」という楽曲の素晴らしさです。
もちろんスティングのオリジナルが素晴らしいのは言うまでもありませんが、
ここではリック・マーギッツァのテナーがオリジナルにかなり忠実にメロディを
なぞっています。この曲はチリで秘密警察に夫や息子を奪われた妻や母親たちが
刑務所の前で無言の抗議をこめつつ、夫や息子の幻を呼び寄せながら踊る、
といった光景を目の当たりにしてスティングが作ったと言われ、
そのような背景をスティングの伝記「エヴリ・ブレス・ユー・テイク」の著者である
ヴィック・ガルバリーニのライナーによって初めて知った次第です。
管をバックにテナー・サックスが歌う静かなメッセージが胸に染みます。
スティングは元々マイルス・ディヴィスやギル・エヴァンスに傾倒していて、
80年代の中頃にはブランフォード・マルサリスやダリル・ジョーンズ、
ケニー・カークランド、オマー・ハキムらとジャズのエッセンスを取り入れた
新しいロック・サウンドを確立させた偉大なるミュージシャンであることは
疑う余地もないのですが、ギル・エヴァンスがもっともっと長生きしていれば、
ギル&スティングのコラボももっともっと発展していただろう、と考えると
今回ボブ・ベルデンが、ギルがやりたかったことを替りにやってくれた、という見方も
できるかも知れませんね。