TVでこの消費不況下でも成長を続けるABCマートの特集をしていました。

それによると、

「商品の価格と顔のバランスが良い」
「(競合店舗よりも)販売員を1.5倍と多めに配置し、試着などの待ち時間を短縮することで売上増につなげている」

といったことが成長の要因だということでしたが、経営論的な視点で見ると、そのいずれもが適切ではありません。

そもそもABCマートは「Hawkins(ホーキンス)」などスポーツシューズが支持されて売上を伸ばしてきたのですが、そのポイントは「バイイングSPA型セレクトショップの勝ちセオリー」を着実になぞっていることにあります。

「バイイングSPA型」というキーワードは後段で述べることとして、そもそもABCマートがセレクトショップというと意外に聞こえるかもしれませんが、ビジネスモデルで見ると、BEAMSやUnited Arrowsと同じ業態に分類されるのです。

セレクトショップは、世の中にある商品(National Brand:NB)を目利きに自信のあるバイヤー(買い付け担当者)が文字通りセレクト(仕入れ)してお店で売る業態です。

しかし、必ずしも仕入れてくる商品が売れるとは限りません。
まさに「当たるも八卦、当たらぬも八卦」
バイヤーが選んだ商品が「イケてる」ものであれば良いですが、少しでも消費者の視点と外れたり、トレンドを読み違えると、仕入れた商品は売れずに不良在庫となってしまいます。

仕入れ商品は元々あまり利益が出ない上、売れない商品が少しでも増えてしまえば、それは会社にとって即「現金の枯渇」(仕入れた商品に支払った代金を売上で回収することが出来ない)状態に陥ることを意味しますし、下手をすれば倒産してしまいます。

そこで考えたのが仕入れた商品でお客さんを集客しつつ、実際には仕入れ商品よりも利益率の高い自社商品(Private Brand:PB)を買ってもらうことで利益率を高める、ことを実現するモデルです。これこそが「バイイングSPA」です。

この時大事なことは、仕入れ商品と自社商品の位置づけを明確にすること。
「バイイングSPA」では、仕入れ商品はあくまで「魅せる」商品である必要があり、お客さんにとって魅力的に移る商品でないとその役割を果たせません。

また自社商品は、「仕入れ商品はデザインも良いし買いたいけど、そこまでお金が出せない」お客さんのニーズを捉え、「(自分が気に入った仕入れ商品と)同じようなデザインだし、これくらい値ごろだったら買って行こう」と思わせるような高いデザイン性、(仕入れ商品に対して)値ごろな価格設定の商品にする必要があります。
(ただし、「バイイングSPA」型ではないセレクトショップのモデルもありますので、その場合は自社商品も仕入れ商品と同じように「魅せる」商品にする、というやり方もあります)

前置きの説明が長くなりましたが、ABCマートはまさに上記のモデルを実践しています。
スポーツシューズにおける購買の主要因の一つに「ブランド」があります。

スポーツシューズで「ブランド」と言えばアディダス、ナイキ、プーマの御三家。
次いでニューバランス、コンバース等といったところが人気のあるブランドと言えるのではないでしょうか。

ABCマートはこれらの「ブランド」シューズ(スポーツシューズ)を数多く揃えると同時に、値下げして安くし、集客の種にしています。
ところが、ABCマートに行ってみると、より廉価な「Hawkins」に目が行き、「結構これでもいいかも」と買ってしまうといった経験をしたことがありませんか?

実は「Hawkins」はNB(仕入れ商品)ではなく、ABCマートのPB(自社商品)であり、上記のような流れで顧客が「Hawkins」を買って行くことで、営業利益率20%という驚異的な高収益体質を実現しているのです。

そして儲かったお金は更に
集客のための「魅せる」商品(アディダス、ナイキ、プーマなど)を値下げする為の原資に使われる→その安さ(プラス品揃えの豊富さ)に惹かれてお客さんが増える→PBを買って行くお客さんも増える

といった形で活用され、良循環を生み出していっているのです。
これがABCマートが成長を続ける要因なんです。

ただし、これはスポーツシューズに限った「勝ちセオリー」であって、ABCマートが最近注力している「婦人靴」には当てはまりません。

この「婦人靴」については別の機会に述べたいと思いますが、いずれにせよ、TVや雑誌、新聞で伝えられることもきちんとした視点と知見を以て読み解かないと誤解されて認識してしまうリスクをはらんでいるということですね。

見る/聞く側(視聴者、購読者)にとって「分かりやすさ」が重要であるが故に単純化して伝えたがる、というメディア側の欲求は理解できなくもないですが、あまりに安易すぎるなあ、と感じた次第です。