好きな具は梅 -68ページ目

時を刻む秒針 2(BlogPet)

ジェングの「時を刻む秒針 2 」のまねしてかいてみるね

川べりは昼よりもなれないなシーンは迷惑だった三崎弱っ。
ねこばばかをまじまじ見下ろしながら三崎弱っ♪
最初に、時計の宿に襲われてもらった場所になるような?
ガムが口を前もって運転手を擦り抜けて言って言って下着盗んだよ、弓田だった二人を抜き取りながら業者の花火は途絶え、ただ花火が見えて蠢く群衆に帰る気に気付き、折江のようだ街本にきついし始めたな。
無理も意味が呆れながら言ってからタクシーを遅くまで喋らなかったあいつも淡々と、自然としか思えないか分からんだって…と言ってくれた夜のでかいやつにそこで間に合うが見えて笑う。
だからやめと一文に気付いていく。

*このエントリは、ブログペット の「豆柴 」が書きました。

時を刻む秒針 2



川べりは既に人ごみで溢れかえっていて、花火はとうに始まっていた。




- p r o l o g e 3 -




影となって蠢く群衆に空は遮られ、俺たちは花火をよく見ることができなかった。
花火が少し小さくなってしまうが、俺たちは川べりから離れた場所に孤立しているベンチを陣取って夜空を見上げていた。
ベンチは一つしかなかったから、女性3人を座らせて男たちは立ち見だ。三崎は女たちの足元に座っているけど。
そもそも何でこんな意味のないところにベンチが置いてあるのだろう。
「花火なんて久しぶり。」
不意に呟いたのは街本だった。
「俺も久しぶり。」
答えたのは三崎。
俺を含め、他の皆は答えなかった。
皆、ただ花火が彩る夜空を呆然と見上げている。
街本と三崎の会話も、会話と呼ぶには何だか一方通行な……ただどちらとも独り言を呟いているだけのような淡々とした感じで少し異様だった。
…お前ら、大丈夫かよ。
花火に魂持って行かれているんじゃねえだろうな…。
「…花火ってこんなんだったっけ?」
また街本が呟いた。
「こんなん…って?」
少し遅れて三崎が答える。
「あの時見たやつと違う気がする…。」
違う気がするも何も……俺は5年も前の花火なんざ鮮明に覚えていない。
「千奈津も? 私もそう思ってた。」
繁藤が花火を見つめたまま割り込んだ。
「例えば?」
がさがさと音を立てながら三崎が答える。
お前、何で今うまい棒なんだよ。
「何か……小さい。」
「音も遠い……それに、火薬の匂いがしない。」
こいつらどれだけ凄い記憶力なんだ…。
そんなことより細かい事に突っ込むようだが、自然と一文になるよう言葉を繋げた二人のコンビネーションに俺は感心した。
伊達にこいつら、6年間友達やってないな。
「あーそれは…ここ離れてるから。」
うまい棒咥えながら見上げんな。
「…それだけ?」
他にまだあるような言い方を含んだ街本の言葉に、俺の視線が彼女へと傾く。
空っぽの表情がそこにあった。
「ん。それだけ。」
三崎の顔も心此処に在らずだった。
花火は単発のでかいやつから、細かい連射のやつに移り変わり、また単発のでかいやつが絶え間なく夜空に打ち上げられる。
会話は途絶え、皆極彩色の夜空を見上げていた。
ぼーっと、見上げていた。
…俺はと言えば、折角の花火を楽しむ心境には到底なれず、皆の表情を盗み見ては何とも言えない気分になっていた。
だからやめとけって言ったのに。
…お前ら、ちゃんと花火は見えているのかよ。
…どんな気持ちで花火を見ているんだよ。
……お前ら、何が見えているんだよ。

……分かっているくせに聞くなよ、俺。

「…何かごめんな、無理言って。」
会話があっても淡々と答えるだけだった皆が、三崎の言葉にぴくりと反応した。
「無理って何が?」
街本の言葉に意識が戻っていることに気付き、俺は咄嗟にうなじを凝視した。
「…あーもうごめん、変だわ俺。」
髪の毛をわしゃわしゃと掻きながら三崎が呻った。
「あんたが変なのはいつもの事でしょ。」
俺は繁藤の言葉に同意する。だが今そのツッコミを使うのは何だか違う気が。
「そーじゃなくって……あーもう、俺にも分からん。」
だから何でそこでうまい棒なんだ。
「…私にもちょうだい、サラミ味がいい。」
街本お前まで…。
「サラミ買ってないわ。ポタージュと納豆しかない。」
「じゃあ納豆。」
「俺も納豆がいい。」
「納豆よこせ。」
「…はい。」
三崎弱っ。こいつ女房の尻に敷かれるわ。
「…あのさ。」
今まで喋らなかった折江が口を開いた。
「私言ってなかったんだけどね…。」
うまい棒のストックを取り出そうとする三崎。馬鹿、折江が言いたいのはそれじゃない。
繁藤のナイス没収によりうまい棒を失った三崎が大人しくなったところで折江が再度口を開いた。
「私、好きだったんだ。」
「………。」
誰が? …とは、誰も聞き返さなかった。
「そっか…。」
街本が何かを理解したように呟いた。
「ご、ごめん、急にこんな。」
空気がおかしい事に気付いて折江があたふたと動揺し始めた。
「いや、やっぱりなーと思ったんだ。」
街本がうまい棒の食べカスを付けたまま笑った。
「や、やっぱりって…?」
「杏子は分かり易過ぎるんだよ。すぐに俯くし口下手になるし。」
「………きっ、気付かれていたと思う?」
「100%気付いていたと思うよ。」
「~~~~~っ!」
折江が顔面を両手で押さえて蹲った。
両足をじたばたさせるとか子どもか。
「でもここまで分かりやすい態度見せられても反応なしだったよね…。」
実験動物でも見るように繁藤が折江をまじまじ見下ろしながら言う。宥めてやれよ。
「や…やっぱり何とも思ってなかったのかな? 私のこと…。」
ようやく顔を起こした折江の顔は真っ赤で、今にも泣きそうな声だった。
「それはないと思うよ。」
俺もそう思う。が、俺は繁藤みたいにそこまで言い切れない。
「本当?」
「あいつもね…杏子のことは好きだったと思うよ。ただ、あんたと同じベクトルだったかと言うと、それはちょっと違ったかもしれない。」
「…?」
俺にも意味が分からん。
「好きだったんだよ、皆が。」
「………。」
「俺分かる気がする。」
三崎が頷いた。
「楽しかったもんね、学生時代。」
折江が少しだけ笑った。
「ねえ思い出したんだけどさ、私たちがグループ組むようになった時のこと。」
街本が繁藤のバッグからうまい棒を抜き取りながら言った。ねこばばか。
「三崎がふざけて女子の部屋に侵入したのが切っ掛けだったんだよね。」
そんな事もあったな。
「うわ、思い出した。身の毛がよだつから必死で忘れてたのに。」
繁藤が嫌そうな顔をした。無理もない、男子には大ウケしたが女子には迷惑だっただろう。
「そんな事あったっけ?」
何で三崎本人が忘れていやがる。
「あんた私のカバンを勝手に漁ってブラ奪って逃げたじゃないっつの忘れたなんて言わせないんだからっ。」
三崎のほっぺたをぎりぎりと抓りながら街本が暴れる。凄い顔だ。
「いだいいだいいだい! 思い出した、でもあれは女子部屋に入った証拠に持ってこいって皆が言でででで!! それに部屋に入ったって言っても布団嗅いだ以外何もしてないだいいだいいだい!!」
思えばこの頃から三崎は変態だったんだよなぁ。
「そうそう、悪いのは馬鹿やった三崎で、三崎の班の男子ら全員が家に強制送還させられそうになっていたところを弓田たちが助けてあげたのよね。」
「あれはナイスフォローだったぞお前ら~。」
ナイスフォローだったじゃねえ。俺まで女子たちから白い目で見られるし、本気で迷惑だったんだからなっ。
言う代わりに三崎の背中を蹴っておいた。
「俺は三崎がどうなろうがどうでもよかったけどな。」
弓田がしれっと言った。お前いつの間にコーヒーを…。
「人でなし! お前なんか友達じゃないわぁ!」
女子部屋に侵入して下着盗んだ奴に言われたくないだろうよ。
「助けてやろうと言ったのは俺じゃない、あいつだ。」
「……。」
皆が一斉に沈黙する。
が、それはすぐに笑いとなって消えた。
「俺が女子の部屋に侵入しなかったら今頃こうやって一緒に花火を見ることもなかったんだぞ? お前ら俺に感謝しろよ。」
三崎が腹を抱えて笑う。何で変態に感謝しなきゃならんのだ。
「あんたは木山に感謝すべきよ。」
繁藤が呆れながら言った。
「してるって、まじでまじで。」
ポケットを漁りながら三崎が笑った。
ガムが出てきた。お前の持参物はどうなっとるんだ。
「楽しかったなぁ…。もう一度戻りたいな。」
「………。」
花火はとうに終わっていて、静けさを取り戻した夜にくっきりと沈黙が浮かび上がる。
この沈黙の意味を、当時の俺たちはこれっぽっちも疑わずに信じていた。
ずっとこんな時間が続けばいいって。
……ずっとこんな時間が続くんだって、時計の針が何度文字盤を回っても、ずっとこんな時間が続くんだって……。
…大人になった今でさえ、それを信じていたい気持ちを覚えているのに。
「…花火、終わっちゃったね。」
うん、と誰かが頷いた後も、誰一人この場から動こうとせずに、俺たちは少しだけ濁った景色を見つめていた。







午後21時半、あまり女性たちを遅くまで連れ回す訳にはいかないということで解散する事になった。
それを促したのは三崎だった。こいつ変なところで常識があるから馬鹿なのか阿呆なのか分からなくなる。
最初に集合した場所と同じ駅中の広場に戻り、そこでタクシーを拾う。
終電はまだ余裕で間に合うが、女たちだけで帰すのは物騒だからだ。
タクシーを拾ったのは弓田だった。
弓田がタクシー代を前もって運転手に渡そうとした時、それを見た街本に怒られる。
今日散々奢ってもらったのだからタクシー代まで払ってもらうことは出来ない、と。
無愛想な弓田が少しだけ驚いたような顔を見せ、「そうか」とだけ言って代金を引っ込めた。
そう言えば弓田、女たちの分だけじゃなく俺や三崎の分まで奢ってくれたんだよな。
案外いい奴なのかな……て言うか金持ってんのかなこいつ。
寧ろこういうところがイケメン臭くてムカつく。けっ。
女性たちがタクシーに乗り終わるまで、俺たちはそれを見送った。
最後に街本がタクシーに乗る時、少しだけ三崎に振り返ったのが印象的だった。
「じゃあねー、みんな元気でいなさいよ!」
一番奥の席から繁藤が手を振る。
「おう、元気でな。」
俺が手を振り返す。
タクシーの扉が自動で閉まり、女性たちを乗せて出発した。
「………。」
排気ガスの薄れゆく臭いに、さよならの時間を意識する。
「桐谷、お前も弓田ん家行く?」
横を振り返ると三崎がじゃがりこを食べていた。お前いい加減にしろ。
「お前今から弓田ん家に行くのか? 親御さんに迷惑だろ。」
「いや、この辺にアパート借りて一人暮らししているんだって。なぁ弓田?」
「ああ。」
「あ…そう。」
どうでもいいとか言う割には断らないんだよなこいつ…。
何が悲しくて男臭い部屋に野郎三人が集まらなきゃいけないんだと思うが、今から新幹線に乗って帰るのは体力的にきついし、弓田の家にお邪魔してごろごろさせてもらうのも悪くないかと思う…が。
「いや、俺はいいわ。」
「そっか、じゃあなー。弓田コンビニ寄っていこうぜ。」
「じゃあな。」
女たちと別れた時に比べ、男の別れってのは華やかなシーンは1枚もなく、薄味のラーメンよりもあっさりしている。
三崎の誘いを断った俺は他に行く宛もなく、かと言って実家に帰る気にもなれないから、俺は一人夜の街を歩いていた。
「兄ちゃん、寄ってかない?」なんて言葉を使う呼び込み業者って本当にいるんだな…とか思いながら、ぼうっと電力の無駄遣いとしか思えないネオンを見ていた。

「じゃあね、みんな元気でいなさいよ。」
「そっか、じゃあなー。」
「じゃあな。」

“じゃあな”に続く言葉を、俺を含め誰も使わなくなっていたことに、ああやっぱり俺たちはもうあの頃とは違うんだなと、不意に変な感覚が押し寄せてくる。


“じゃあね、また明日。”


その言葉を叶えられなかったあいつも含めて、俺たちはあの頃には戻れないんだと。
…そんな当たり前のことに、抗いたくなる反動と受け入れている諦めがせめぎ合っているような、不思議な感覚に襲われた。

この街は昼よりも夜の方が煩くて、俺はせせこましく小走りをしながら業者の手を擦り抜けていく。
俺がネカフェを一泊の宿にしようと決めたのは、見たいアニメを思い出してからだった。

時を刻む秒針


経験とは起きた事柄ではなく、それに対してあなたがしたことを指す。

アルドス=ハックスレー



…今、その言葉を思い出す必要があっただろうか。
数年前にたまたま目にして印象的であったから覚えていたという点では貴重な言葉かもしれないが、扇風機もない部屋で汗だくになりながら机上を眺めている俺には何の関係も見つかるとは思えない。
だがその言葉が脳内で再生されたのは事実だ。
記憶とはそんないい加減なものである。





 - p r o l o g e 1 -





気が付けば俺はルーズリーフをうちわ代わりに仰いでいた。
しかし汗に塗れた皮膚に張り付く風は温くて気持ちが悪いだけでしかない。
それでも熱気が停滞しないだけましだと俺はうちわを仰ぎ続ける。
…夏だ。大学に入ってから三度目の夏。
実家を離れ、一人暮らしをしている俺は例え扇風機でも無駄に浪費していい電気代などない。
その電気代を浮かせる為にこうして窓を開けて自家製のうちわで熱を凌いでいる訳だが、いい加減レポートの1枚でも手をつけないとバイトの時間に遅れてしまう……大して危機感も持たずにそんな事を考えていた。
俺の名前は桐谷大輝。22歳男。文系大学3年。
不況で新卒すら就職が難しいこの時世、今から始めても遅くはないだろう就職活動と、本業である大学生としての課題、そして生活がかかっているゆえ辞められないバイト。
充実した毎日だと言えばそうかもしれないが、俺にとってはただただ目まぐるしいだけの日々にそれに追い討ちをかけるこの暑さ。
いい加減休みたい。
…休むも何も今は夏の長期休講なのだが…。
講義がなくなった分、俺のバイトのシフトは散々な事になっていた。店長め、人をいいように使いやがって。
それはそうと課題だ。苦手だから気が向いた時にやろうと思って今の今まで手付かずだった課題……経済学部のくせして経済学が苦手とは何の冗談だろうか。
しかしそれは日本人のくせに国語が苦手だとか、そういうレベルと同じものであると俺は信じている。…いい大人が言い訳すんなと言われそうだが出来れば言わないでほしい。
朝起きて2時間、やっとレポートに手を付けて1時間、飯食って1時間……その間進んだレポートは僅か7行……。
駄目だ、全然集中できない。
これも全て夏の暑さが悪いのだ。俺から気力を奪い勉強に集中させない為の巧妙な罠に違いない。
本気でそう思っている訳でもないし、心の中で好き勝手な事を言いながら片隅でぼんやりと考える。
続きはバイトから帰ってからやろう。
俺はシャーペンを捨てて起き上がった。
腰が痛い。長時間胡坐をかいていたからな…。
腰のついでに首や肩の関節をごきごきと鳴らしていると、机の上からガタガタと振動がして俺は反射的に怯んでしまった。
…何だ、携帯か。
自分で言うのも悲しいが俺は友達が少ない。
だからこの時も着信相手の心当たりに友人の顔は思い浮かばなかった。
親かバイト先の店長だろう……そう思って振動の止まった携帯を掬い上げ、新着相手の名前が表示されたパネルを見た瞬間、俺の心臓が痛いくらいに高鳴った。


Eメール1件:三崎啓介


俺はなかなかメールを表示する事ができずに画面を凝視していた。
その間も心臓は小さく不気味な音を響かせて異質な感覚を呼び寄せている。
と、新着メールが着てから1分もせずに今度は直に着信がかかってきた。
俺が携帯を落としそうになるほど驚いたのは言う間でもない。
……着信は……やはり、三崎からだ。
…三崎啓介。知らない人物ではない。
知らないどころか、俺の数少ない友人の一人で――― でもまさか、どうして?
三崎から、…いいや、“あいつら”から連絡が来たって何の不思議でもないし……連絡が来て困る理由も、ないし。
…でもどうして?
“あの頃”から俺たちは、連絡があったとしても携帯の機種変更をしましたとか……アドレスが変わりましたとか。
そんな連絡しか、しなかったのに。
「………。」
恐らく30秒は経っていた。
いい加減切れてもよさそうなのに、携帯は今も振動し続けている。
通話ボタンに向かいかけていた親指が少しだけ震えていた。
恐怖とは違う、何か別の……。
「………。」
俺は通話ボタンを押した。
「………も…」
「桐谷ィー?」
“もしもし”と言い掛けていた挨拶が無駄に軽い声に上書きされた。
「…三崎?」
「おうよ、元気してるか? 俺はなー」
「誰も聞いてないぞ。」
言葉を遮られた仕返しに俺も上書きしてやった。
「久しぶりなのにそんな事言っていいわけ? 切るぞ、切っちゃうぞ?」
「ほい。じゃ」
「待て待て待て!」
「どっちだよ。」
俺の緊張を返せ。そう言いたくなるほど相変わらずな三崎に呆れたようなほっとしたような何とも言えない溜息が出る。
「久しぶりにさ、会わねぇ? 皆で。」
――― その言葉に、俺の時が一瞬止まった。









 - p r o l o g e 2 -





二週間後の日曜日。
俺は約数ヶ月ぶりに地元に帰ってきていた。
本来なら今日の今頃はバイトに駆り出されていたはずなのだが、次の休みと入れ替えで今日を休みにしてもらった。
おかげで明日から二週間休みなしである。俺死ななければいいが。
ここに帰ってきたのは他でもない、三崎からの連絡だ。
「久しぶりにさ、会わねぇ? 皆で。」
突拍子もなく何を言うのかと思えば………しかし昔から三崎はこんな奴なのである。
「いきなり言われてもな…。」
バイトのシフトが融通利かない事を重々知っている俺には厳しい誘いだった。
「他の皆は来るのにお前だけ来ないのか?」
俺は無意識に「えっ…」と声を出していた。
「皆、来るのか…?」
「おうよ。まーどうしても来たくないって言うならいいけど? 俺らだけで久々の再会を楽しむし。」
この時の俺はこんな安い挑発にも心を揺さぶられた。
「本当に来るのか?」
「何だよ、信じられないのか?」
三崎はあたかも本当の事のように言う。
「………。」
疑う方がおかしいのかもしれない。
でも、“俺たち”は“あの時”から……。
「…分かった、行く。集合はいつだ? 場所は?」
普段の俺が見たら驚くほど必死な光景だ。
「落ち着けって、皆に連絡してみて都合が合う日を見つけたらまた連絡するわー。」
「! てめ…!!」

プツッ。ツーッ、ツーッ……。

…こうして俺は三崎にまんまと嵌められたわけだ。
ちなみに最初に送られてきたEメールの内容は「久しぶりに会わねぇ?」だった。電話してみて出ないからメールを残したのなら話しは分かるが、それとは逆の順序だったから三崎の考えることはよく分からん。
嵌められたのは気に入らないが、三崎はあれから本当に皆と連絡を取り合って日程と集合場所を連絡してきた。ここまで来たら三崎が「明日集合ね」とか言い出さなかった事に感謝しよう。
そんなこんなで俺は今、市電に揺られて市内へと出向いている。
集合時間は昼の12時、集合場所は駅中の広場にある噴水の周辺。
それだけの情報を頼りに俺は集合場所へと向かう。
退屈そうに足元を見ていても、内心では皆と久々に会う緊張感に苛まされていた。
午前11時43分、電車は終点の駅前に到着した。
俺は電車を降りて広場の噴水へと向かう。
皆とは高校を卒業して以来、一度も会う事はなかった。
見事なまでに進路はばらばらで誰一人同じ大学には行かなかったし、ましてや俺は県外の大学に進学したし。
皆どんな風になっているだろう。女たちは元が良かったから美人になっているだろうな。
弓田はどう転んでも元より悪くなっているイメージが沸かない、ムカつく。
三崎は………電話からして全く変わっていない事が簡単に想像できる。
……俺は……変わっていないだろうな、多分。
考え事をしながら歩いていたせいで、俺は目的地の噴水前まで辿り着いていた事に気が付いていなかった。
「…桐谷くん?」
名を呼ばれてはっと前を向く。しかしそこには誰もいなかった。
狐に摘まれたような感覚に呆然としていると、またも俺の名を呼ぶ声がする。
不意に視線を下に向けた。
居た。
「桐谷くんだよね、久しぶり。」
視界に入らない位置に立っていた小柄な女性は俺を見上げてにこりと笑った。
「お、折江?」
相手を確認するように呼ぶ。
折江と呼ばれた女性はにこりとしたまま頷いた。
か、可愛い。
俺は素でそんな事を考えていた。
あの頃より髪は伸びていて、毛先だけに緩いウェーブがかかっていてそれが妙に似合う。
しかも天然の黒髪だ、これはポイントが高い。
俺が心の目でじっくり観察をしている間にも、折江は何かを喋っていたようだが俺は全然聞いていなかった。
話は聞いていなかったが、折江が背を向けて指差した方向を見た時に俺は状況を理解する。
少し離れた場所でこちらを見ている女性が二人と野郎が一人。
どうやら主催者である三崎以外の全員が既に集合していたようだ。
折江に連れられて俺は皆の元へと向かった。
「桐谷、久しぶり~!」
先に話しかけてきたのは街本千奈津だった。
「お、おう。久しぶり。」
こいつちょっと見ない間に美人になったな。
俺は素で驚かされた。
明るくて姐御肌性分なところは昔から変わっていなさそうだが、化粧もするようになってますますお姉さんキャラになっている。
そう言えば街本は女子短大に進学したから今は社会人のはずだ。それで服装もシャツに細身のパンツとぴしっとした格好になっているのか…。
半分呆気に取られていると横から話しかけられて俺は視線をそちらに向けた。
「あんたも元気そうじゃない、どう? 大学生活は。」
勝気な瞳が俺を見ている。しかし俺はキャミソールでは隠し切れていない胸の谷間に目が釘付けだった。
「人の話を聞いてるの!?」
どこを見られているのか気付いたらしく、少しむきになった顔が俺の目に飛び込んだ。
繁藤さなえ。また胸が成長している…。
こいつもなかなか美人になっていた。今はさぞやもてるだろう、その性格さえ隠していれば。
「あんたは全然変わっていなさそうね。」
悪かったな。
皆があまりにも綺麗になっているものだから、俺は少し嫉妬と言うか複雑な気分になった。
しかし麗しく成長した女性陣より何よりも、彼女たちの隣に並ぶこの男の存在が俺の嫉妬心を一番掻き立てたのだ。
弓田貴久。お前は昔から見た目がよくて女子たちの憧れの的だったよな。
だからそろそろお前の時代は終わってもいいはずだ、そうだろう! なのに何だその一層良くなっている見た目は!
しかも弓田のくせに無駄に色気をつけていやがる……こいつら(女性陣)がいなくなればたちまち声かけられそうなほど行き交う女たちがお前を見ているじゃねえか!
俺は昔から女たちにもてた事なんかなかったのに、こんな不公平なことがあって許されるのか! いや、許されない、そうだよな!
「…何だ。」
いつの間にか凄い形相で弓田を睨んでいたらしい。昔とちっとも変わっていないそのクールな態度が気に食わない。
こうなれば三崎、俺の心の拠り所はお前だけだ。
早く昔とちっとも変わっていない姿を見せて俺を安心させてくれ。
俺は心の底からそれを願った。
「三崎くん、寝坊したから少し遅れるって。」
話の流れから三崎の名が上がった。
三崎よ、やっぱりお前はもう少し変われ。
「でも本当に久しぶりだね、三崎くんから電話が来るまで一度もみんなと会わなかったから今日逢えて嬉しいよ。」
折江があの頃より少し大きくなった声で笑った。
「私も三崎から電話が来たときは驚いたけど、前はこんなことよくあったからさ、懐かしくなったよ。」
街本が本当に懐かしそうな声で笑った。
懐かしいと思う気持ちは俺にも理解できる。前はこんなことしょっちゅうだったから、休みの日には予定を入れなかったくらいだ…。
それが無くなったのは、やはり“あの日”から。
皆が楽しそうに笑うこの空間にも、俺は違和感を感じている。
俺だけじゃない、きっと皆も同じ事を思っているだろう。でもわざと核心に触れずに避けているのだ。
高校を卒業すると共に連絡が途絶えたのも、三崎が集合をかける今日の今日まで誰一人集まろうとしなかったのも。
俺たちは気付いている。パズルのピースが一つ足りないことに。
「桐谷?」
不意に呼ばれて俺は顔を上げた。
「話し聞いてた?」
繁藤だった。
左腕を肘で小突かれる感触に少しだけ複雑な感じを覚えながらも、俺は「聞いていた」と嘘をついた。
「じゃあ行こ。」
街本が先に動き始める。
「行くって何処に?」
「やっぱり聞いてないじゃない。三崎から“本通りに来い”って連絡が着たから移動しましょうって言ったでしょ。」
繁藤が呆れた眼差しで俺を見た。
その視線を是非とも集合場所を指定しておいて現れなかった三崎に向けてほしいと俺は思った。

こうして俺たちは再び市電に乗り、駅中の噴水前から本通りへと場所を移動する事になった。
市電は無事に目的地へと到着し、俺たちはそこで降りた。ここまでは何事もなく平穏だった。
市電から降りる前、ここから先は平穏という訳にはいかないだろうと皆が口を揃えて言っていたが俺は適当に笑って誤魔化していた。
皆がそう言うのも無理はない、何せ三崎が加わるからな。自他共に認める“トラブル量産メーカー”が大人しく時が過ぎるのを待っている訳がない。
問題事を起こさないでくれと願う気持ち半分、何をやらかしてくれるのかと期待する気持ち半分で、俺たちは本通りの少し開けた広場に集まった。
そこで俺たちが見たものは想像を絶する光景だった。
「……何が始まるんだ?」
何か喋ったかと思うと他人事みたいに言う弓田に俺は少しだけいらっとする。
「知るか、俺に聞くな。」
突き放すように答えるも、俺も同じ気持ちだとこの時は認めざるを得なかった。
ざわざわと群れる人ごみの中、その中心にいたのは紛れもなく三崎啓介。
しかし俺たちが「三崎ー」と気軽に寄って行けない雰囲気がそこにはあった。
どこから持ち運んできたのか、ドラムやキーボードにベース、そして歌う気満々なのだろうマイクスタンド。
そして何より俺たちを近付けさせない空気を出していたのが、三崎と親しそうに会話する強面3人集!
「…帰ろうか。」
誰かがぽつりと呟き、「うん。」と皆が揃えて首を振ったその時。
「お前らー! おーい!」
あはははと浮かれきった三崎がこちらに向かって駆け寄ってきた。

ごすっ!!

合流と同時に三崎から鈍い打撲音が響いた。
繁藤の鉄拳が鳩尾に炸裂したのだ。
「うげぇ!!」
「何考えてんの! こんな人通りが多い場所でわざわざ目立つようなことして!」
極力目立たないように繁藤が小声で怒鳴る。
しかし先ほどの鉄拳で既に周囲の視線を集めまくりだ。
「いでぇ…、大丈夫だって、交番にライブ許可の申請書はちゃんと出してるから。」
殴られた鳩尾を痛そうに押さえながら三崎が言う。
「そういう問題じゃないでしょ!」
諦めろ繁藤、ここまで人を集めてしまったらもうやるしかないというのは俺にでも分かる。
「まーまーまー、それより先に言っておきたいことがあるんだ。今日皆を集めたのもそれが理由だ。」
げほげほ咽ながら三崎が笑った。
「何? 言っておきたいことって。」
街本が言った。
「俺、結婚することになった。今日は俺にとって最後のバンド活動だ、だからお前たちに聞いて欲しくて集まってもらったんだ。」
…は? 三崎のくせに何言ってんの?
どんな爆弾を落とすのかと思えば、おい、ふざけんなよ。


予想以上の爆発規模に俺たちは言葉を失った。


「…え? 結婚?」
切り出したのは俺だった。
沈黙に耐え切れなかったのだ。
「おう、10月に挙式を挙げるんだ。」
「10月って、あと3ヶ月しかないじゃない!」
「三崎くん結婚するんだ……何だか信じられないなぁ。」
「結婚するからバンド活動を辞めるのか。」
俺の発言を切っ掛けに皆がようやく口を開く。
「そういうことだ。今日は思いっきり弾けるからお前らもノってくれよな~ぁ。」
昔と変わらない独特のテンションで三崎がふざけた。
「そ…そっか、三崎結婚するんだ…。」
今まで喋らなかった街本が口を開いた。
「…おめでとう、奥さん幸せにしてあげなよ。」
「分かってるって、ありがとな。」
にっと笑う三崎の顔を見て、俺は少しだけ苛立ちに似た何かを感じた。
ぽつりと呟いた時の街本の横顔が、俺にはあの頃と同じままに見えて、街本がどんな気持ちで“おめでとう”と言ったのか……そう思うと、何だか切なかった。
雑踏の賑わいの中、場違いな爆音を立てて三崎のラストライブは始まった。
三崎はギターとボーカルを兼ねていて、声変わりは終わったはずなのに、また1オクターブ低くなっているような感じがした。
プロのバントとしては素人の俺から見ても力不足なのは明らかだけれど、三崎はこのままの方がいいと思った。
高校時代の文化祭、いきなり体育館のステージを乗っ取って初ステージを飾ったあの頃のお前と、今この場所で場違いな演奏を奏でているお前は何も変わっていないんだと、俺はそう思った。
それでも……何かが足りない、欠けた1ピースを心の何処かで探してしまう俺は贅沢すぎるのだろうか。
…いや、それはきっと三崎も同じだったはずだ。
馬鹿ばっかりやってどうしようもない調子者だったけれど、あの頃からお前がバンドにのめり込むようになったのは。
…三崎は三崎なりに、足りない1ピースを埋めようとしていたのかもしれない。
そんな三崎にとってバンドを辞めるというのは、きっと特別な意味を含んでいるのだと思う。
…例えば、三崎にとって足りないピースが埋まったとか。
三崎、おめでとう。
たった一度だけ、俺は心の中でその言葉を贈った。
…そして奥さんとなる顔も知らない女性にも、“がんばれ”とエールを送っておいた。



ライブは思ったよりも盛り上がった。
…盛り上がったと言うか、「何あれ変なのがいる」のノリで集まってきた野次馬が割合を占めていたような気がするが。
それもこれも三崎が原因だ。はしゃぐのはいいがお前のノリは一般人とは斜め上に違うのだからセーブしないとどんどんおかしな方向へ行ってしまう。
一緒に演奏している他のメンバーが気の毒だったが、彼らも楽しそうに笑っていたし……ま、いいのか。
そしてライブが終わった後で俺たちは三崎から驚く事を聞かされる。
何とあの強面野郎たちは俺たちの元同級生だと言うのだ。
三崎から紹介されると強面の3人がはにかみながら会釈をしてきた。怖い。
彼らの名前を聞かされて、俺の記憶にありし日の彼らの顔が蘇ってくる。
たった2、3年の間に何があったというのだ。お前ら何処にでもいるような普通の顔だったじゃないか…。
この後、三崎は彼らと打ち上げにでも行くのかと思ったら、彼らが気を利かせてくれていたようで打ち上げは前の日に終わらせているから皆で遊んでこいと言う。
顔は怖いがいい奴らじゃないか。俺たちは強面3人の言葉に甘えて今日一日を共に過ごすことにした。
三崎たちがワゴン車に楽器を片付け終わるのを待ち、再度三崎が集合したところで俺たちは場所を移動した。
適当に本通りをぶらぶらしながら他愛もない話をして、足休めに入った喫茶店で、そこでも他愛もない話をして。
弓田は理学系の専門学校に進学して、卒業後に割といい企業に就職できたらしいがそこを辞めて、今は情報処理系の専門学校に通っているらしい。
このご時世そう簡単に就職先は見つからないというのに何を考えているんだ…。
卒業後は今流行りのSE業に就職したいらしいが、お前はSEって柄じゃないだろうどう見ても。
余談だが彼女はいないらしい。そう言えばもてる割には女がいる気配がなかったな。そういや一時期ソッチの気があるって噂があったっけ…。
繁藤は生活デザイン学科の3年生で、学業とバイトに追われているという俺と似た日々を過ごしているらしい。
将来はインテリアプランナーの資格を生かした職業に就きたいと言っているが、俺と違って3年の現在でもう就職先の目処を立てているところはさすがしっかり者の繁藤だと感心せざるを得ない。
ちなみに彼氏はいるっちゃいるようだが、人の話を聞いているようで聞いていないところや誰かが見ていないと駄目なところは誰かさんそっくりだと言って俺を見てきた。何だその目は。
街本は医療関係の事務職をやっているらしい。主にデータを資料化したり集計したりするのが仕事だから、医療関係の専門知識がなくても何とかなると言っていた。根性だけで何とかなりそうなのはお前くらいだと思う。
街本の口からは失敗談を聞いてはいないが、要領はいいから仕事自体は出来る奴だろうけど、がさつでずぼらな面も直ってなさそうだから俺はちょっと心配になった。せっかくの白いシャツを二の腕まで押し上げてコーヒーを飲んでいる姿がそれを物語っている。
彼氏は……街本の口からは出てこなかった。さっきの様子からしていない事は明白だけど。
折江はフリーターをやっているらしい。調理系の専門学校に通ったが、卒業後は自分の夢だったというとあるレストランの求人に応募したものの、既に社員枠が埋まってしまっていたため、バイトでもいいから雇ってくれと押しかけてそこで働くようになったらしい。
諦めて他の就職先を探さなかったのかと街本が聞いたが、どうしてもそのレストランが諦め切れなかったと折江は笑っていた。
普段は大人しくて目立たないくせに、たまにこういう突っ走りな面を見せるから折江は面白い。
彼氏はいないそうだ。俺ひょっとしてチャンス?
「私、西○秀樹さんみたいな人が好きなんだ…。」
俺のフラグは何もしていないのにへし折れた。
三崎の奴は……ライブ前の会話で大体は聞いたからあまり話すこともないだろう。
あと1、2点言えば、結婚は今付き合っている彼女を妊娠させての出来婚らしい。
三崎に子どもが……。結婚すると聞いただけでもショックだったのに、来年の今頃は間違いなく一児の父親になっているなんて……さすがにこれは他の皆もショックを隠せずに笑みを歪ませていた。
「一番結婚しそうになかった三崎が一番に結婚するなんてなー……何が起こるか分からないね、人生って。」
繁藤がからかうように言った。
「次に結婚するとしたらさなえじゃない? 今の彼氏とめでたくゴールインしてさ。」
街本が更にからかうように言った。
「ば…っ、馬鹿言わないで! 私はまだ結婚しないわ。今の彼と結婚するにしても…せめて25歳を過ぎるまでは考えないわよ。」
こういう現実的なところが繁藤らしい。
繁藤も…弓田も、街本も折江も、三崎も。皆将来に向けて頑張っているんだな。
俺も見習わなければ。…頑張らなければ。
でも……頑張るって何を頑張ればいいのだろう。
働かないわけにもいかないから就職は考えているけれど、それが俺のやりたい事かと聞かれたら多分違う。
…何だか変な感じだ。
中学の頃からずっと一緒で、高校を卒業するまで当たり前のように同じ坂道を登校して、同じ授業を受けていた俺たちが、今、就職や結婚など、別々の進路に向けて話しに花を咲かせている。
…これを寂しいと感じるのは俺の我侭なのだろうか。
皆がそれぞれの進路に向けて頑張っている中で、俺は昔と何一つ変わっていなくて……別にやりたい事もなく、ただその日その日を消化するように過ごして。
…何か頑張っているかと言われたら何も答えるものがなくて。
……俺だけ、何も変わっていない気がして。
………俺だけ、此処にいるのが場違いな、そんな気がした。



喫茶店を出た後、俺たちはボウリングとカラオケをして遊んだ。
女性陣の買い物に付き合わされてショッピングにも行った。飲み放題付きの焼肉を食べにも行った。
三崎が食いすぎで腹を壊した。自重しろ。
ごく普通の、誰でもやるような遊びだった。
普通に楽しかった。まるであの頃に戻ったかのような時間だった。
でも……。
「おっ、もう20時か。」
山場を越えて元気になった三崎が時計を見上げながら言った。
「結構遅くまで遊んだねー、そろそろ解散しようか?」
自分の腕時計を見ながら街本が言った。
「そうだな、俺明日もバイトがあるし、そろそろ帰らないと。」
言ったのは俺だ。バイトは昼からだから明日の朝一の新幹線で帰っても間に合わないことはないが、できれば睡眠時間は確保しておきたい。
「ちょっと待って、俺皆に頼みがあるんだけど。」
だらしなく転がっていた三崎がばっと起き上がった。
「頼み?」
街本が不思議そうに言った。
「あのさ、そろそろ川べりで花火大会が始まるんだよ。一緒に見に行かない?」
…その言葉に、この場の空気が止まった。
…三崎、お前は何を言って…。
「…いや、皆がそう思うのも分かるん…だけどさ。」
自分が作った空気を自分で濁しながら三崎が口篭る。
「俺、結婚式が終わったら県外に引っ越すんだよ。そうなるともう、こんな風にお前らを呼んで一緒に遊ぶこともできなくなる。だから、最後の思い出に、な? 頼む。」
酔っているのかは知らないが、三崎が不恰好な土下座で俺たちに懇願する。
だけど俺たちは、三崎のこんな姿を見てもなかなか「うん」と言えずにいた。
…どうしてだよ三崎、何でそんな事を言い出すんだよ。
皆その話に触れないようにわざと避けて今までの空気を保ってきたのに、お前のせいでまた滅茶苦茶に…。
「…あのさあお前ら、俺もだけど!」
急にがばっと顔を起こしたかと思うと、三崎が何やら怒った顔つきで俺たちを見ている。
「確かにあの時の事、思い出したくないのは分かる、よーく分かる! …でもさ、俺たちまでずっと目を背けているのって…おかしくね?」
俺の心臓は小さく、けれど激しく高鳴りを上げていた。
あの時みたいに……三崎から着信が着た時のような、異質な感覚を呼び寄せて。
「俺だって最初は辛くてさ、忘れようと思ってバンドに夢中になってみたり他にも色々手を出してみたけど、でも!」
珍しく真剣に訴えかけてくる三崎に、皆息を詰まらせて耳を傾けていた。
「やっぱりこんなのおかしいって。俺たちが忘れたら誰が“あいつ”が“ここ”に居たって証明してやれるんだ? …誰からも目を背けられて忘れられていくなんて、そんなの寂しすぎるじゃねえか。もしも“あいつ”が俺だったら寂しくて耐えらんねえよこんなの!」
「………。」
皆言葉に詰まっていた。
かくいう俺も三崎に返す言葉がない。
ただ、三崎の言うことはもっともだ…と認める気持ちと、何で今更蒸し返すんだよ…と責める気持ちが、俺の中でせめぎ合っていた。
そうだ、三崎の言っていることはもっともだ。
でも、それを受け入れるにはあの時の俺たちは幼すぎたんだ。
認めたくなかったし……何より、受け入れるのが怖かったのだと思う。
だから俺たちは触れなかった。
このまま黙っている方が波風立たなくて平和で、この方がいいって見て見ぬ振りをしていた。
…だけど、俺たちが避ければ避けるほど感じる違和感が強くなっていく。
まるで“あいつ”が悲鳴をあげているかのように。
「…やめろ三崎。」
「何でだよ桐谷!」
「それを思い出すにはもう、俺たちは時間が経ちすぎている。」
「………。」
まるで俺、悪役じゃね?
でも皆の気持ちを考えるなら引けなかった。
「辛いのは分かるけどさ、今更蒸し返すなよ。」
せっかく忘れようとしているのに、お前の感情だけで皆を振り回すんじゃねえよ。
皆困っているじゃねえか、折江なんて泣きそうじゃねえか。
「………。」
三崎は何も喋らず俯いていた。
落ち込んでいると言うより、何かを考えているような面持ちでじっと畳の上を見ていた。
「……俺、行く。」
「…え?」
沈黙に割って入ったのは弓田だった。
「でもお前」
「無理に忘れようとするからこんなにぎこちねえんだろ。…忘れられないものは忘れられない、それでいいじゃねえか。」
「お前…。」
のそりと立ち上がると、弓田がレジに向かって歩き出した。お前の奢りか。
「私も行く。」
「え?」
「私も。杏子も行くよね?」
「うん。」
「えっ、え?」
「みんな…。おっしゃ、行こうぜ花火大会!」
酔っ払いが嬉しそうにはしゃぎながら皆に続いて店の外へ出て行った。
「…え?」
ぽつりと店の中に取り残される俺。
チョーかっこよかったのに空気。
俺は泣きながら皆を追いかけた。