うとうと、寝ながらテレビの音だけ聞いていた。
深夜にプロレスの番組だった。音声だけだが新人同士の試合らしい。勢いがある。実況中継だけでも熱気を感じる。
試合そのものより、若者と思われる野次が面白くなってきた。
赤コーナーのファンと青コーナーのファン同士が野次を飛ばし合っている。
「×××、ワンチャンいてまえ!」
「▽▽▽、反則反則!!」
「技かけろ、技!」
「ファッキュー!」
「てめ、さっきからうるっせんだよ」
「はあ?そっちこそうっせーんだよ、ここじゃ先輩とか後輩とか関係ねえからな!」
「関係あんだろ、てめ、あしたボコるかんな」
「おもしれーじゃねえか、今ボコってみろよ」
実況中継よりこっちのほうが白熱してる!どうなるんだ、先輩と後輩?!
「きてみろよ、カス!」
「上等だよ、腰抜けネトゲ廃人!」
ボコッ!バシッ!ゲボッ!
たちまち流血だ!
そこへ黄色い女子の声。
「やめて!試合を応援しに来たんじゃないの私達は」
「うるせえ、誰とでも寝やがって!今はこいつか!?」
「そうだよ、文句あんのかよ、先輩」
おいおい!ジャングルポケットのコントみたいになってきた。
なんと実況中継の人も、野次のほうをオンエア始めてしまった。
「あんたが試合ばっかり見に行ってるから悪いんでしょっ。」
「そうだよ、大事にしてやらないから俺んとこ来たんじゃねーかよ」
「てめー、後輩のくせに人の女に手ぇ出しやがって!」
ボコッ!バシッ!ゲボッ!
エキサイティングだ!画面観たくなる!
「血だらけ!もうやめて!」
「洗ってこいよ、カス」
ギャラリー「そうだそうだ。洗浄してこい。」
なぜか洗浄コール。意味不明。
「洗浄!洗浄!」
「せーんじょー、せーんじょー!」
「せーんじょー、せーんじょー!」
わたしもついうっかりコールに混ざってしまった。
「せーんじょー!」
もう試合はリングより客席がメインになっている。
CMのあいだに、顔を洗ってきたらしい先輩が戻ってきた。
冷静になったらしい。
「俺、アヤのこと構ってやらないで好きな試合ばっかり見に行ってた。それは事実だ。ごめん。でもな、でもな、こいつは無いわー、あぁ、無いわー(泣)」
「おめーが 無いわ、カス!」
「もうやだ2人とも嫌い!」
中継アナウンサー「ちょっと待ってください。アヤさんは本当に後輩さんで良いのですか?」
「うん」
ゴングが鳴った。
試合終了だ。
リングでは、両選手の試合がおごそかに再開していた。
観客席には、真っ白になった先輩がたったひとり座っていた。


