魅惑の口元
『同窓会のお知らせ』
実家から届いた荷物の中に、高校時代の同窓会を知らせるハガキを見つけた。
高校を卒業すると同時に地元を離れ、都会へと出てきた私は地元の友達に会う機会もなく・・・卒業から、もう8年の歳月が流れていた。
「久々に皆に会いたいな・・・」
そう思った私の気持ちは、一足先に2週間先の土曜へと飛んでいた。
同窓会当日。
前日の夜に実家へと帰ってきた事もあって、ゆっくり昼頃に起床。
ご飯を食べ、ダラダラとした時間を過ごし、出かける2時間前に支度を始めた。
別に気合いを入れている訳じゃないけど・・・
何となく待ちきれなくて身体が勝手に動いてしまったのだ。
でも、それが正解だった。
着ていく服がなかなか決められなくて、スーツケースをひっくり返しての1人ファッションショー。
やっと決まったと思ったら、次は髪型がなかなか決まらない。
そんな事をしているうちに、あっという間に家を出る時間。
結局、バタバタと慌てるハメになってしまった。
会場は、車で15分ほどのところにある小さなレストラン。
タクシーの中で、友人たちとの久々の再会を前に、鼓動が少しずつ早くなっていくのを感じていた。
開始10分前に、お店に到着。
・・・ここまで来て。
ここまで来ておいて。
緊張がピークに達し、なかなかドアに手をかける事が出来ない。
足も根をはってしまったかのように動いてくれない。
中からはかすかに笑い声が聞こえている。
きっと、ほとんどの出席者は集合しているんだろう。
「はぁ・・・」
深い溜め息をつきながら、これからの事を考えてみた。
「・・・入んねぇのか?」
だから、急に後ろから聞こえた声に過剰に驚いてしまった。
「ぅわっ!び・・・っくりしたぁ・・・」
声の主は眉間にグッと皺をよせ、こっちを見る。
「・・・入んねぇのか?」
2回目の質問に、少し慌てて返事をした。
「あ・・・入ります・・・!」
予想外の出来事に気を取られたせいか、さっきまでの緊張はどこへやら。
触れもしなかったノブにあっさりと手をかけ、ドアを引いた。
カランカランとドアに付いていたベルが鳴り、皆が一斉にこっちを向く。
「あれ~・・・もしかして・・・」
「ひ、久しぶり・・・」
「うわー!久しぶり!元気だったー?」
旧友たちが次々と集まってくる。
皆の姿を見ていると、8年と言う歳月がどれほど長いものかを感じさせる。
だけど、皆と顔を合わせると・・・一瞬で、同じ教室で同じ時間を過ごした日々の感覚が蘇る。
ようやく笑顔を取り戻すと、皆と一緒に席へと向かった。
そんな私の横を、スッと煙草の匂いが通り過ぎる。
「おー、土方!この前はありがとな!」
「ひじかた・・・?」
「気付いてなかったの?あの人、土方くんだよ。」
「あ・・・」
何で気がつかなかったんだろう。
顔も見たし、声だって聞いていたのに・・・
「もしかして、土方くんの事忘れてる訳じゃないよね?」
「あ・・・うん。」
忘れる訳がない。
頭脳明晰。
容姿端麗。
品行方正。
おまけに、スポーツ万能。
誰もがそう認める人物で。
周りからの信頼も厚かった。
特に男子に興味のなかった私でも知っていたほど。
そして・・・私は、彼のもう1つの顔も知っていた。
要は、“裏の顔”と言うヤツ。
たまたまフラッと向かった屋上で出会った彼は・・・
未成年の時分から喫煙をしていた。
煙草に火をつけたり煙を吐き出す様は、とても手馴れていて・・・
きっと、私が目撃したもっと前から喫煙を繰り返していたのだと思う。
「あ・・・」
「・・・・・・フーッ。」
「・・・土方くん。」
「・・・黙っとけよ?」
「え・・・」
「まぁ、別に言いたきゃ言ってもいいけど。」
「いや・・・えっと・・・」
「・・・・・・フーッ。」
「・・・言わないよ。」
「そうか・・・」
当時の私が、どうしてその事を黙っていたか。
そこまで正義感の強い人間じゃなかったと言うのも理由の1つ。
それ以上に・・・魅せられてしまった。
あの口元に。
煙を吐き出すその口が、余りにも艶っぽくて。
「言わない」と言った後に少しだけ口角の上がった唇に、更に色気を感じたんだ。
「どうしたの?ボーっとして。」
「あ、うぅん。何でもない。」
「そ?てっきり土方くんに見とれてるんじゃないかと思ったんだけど~?」
「ちょっと、何言ってんの?違うって!」
「ほんと~?」
「ほんと、ほんと!」
「でも、やっぱカッコイイよね~。」
「・・・うん。そうだね。」
8年ぶりに再会した彼は、昔と変わらずカッコよかった。
「何~?土方くんの話~?」
「そうそう。カッコイイよね~って。」
「まぁ、確かにね~。・・・あ、でも。やめといた方がいいよ~?」
「え?何が?」
「土方くん、あの顔だから昔っからモテててたけどさぁ・・・」
「なになに?何かあるの?」
「結構、遊んでるって噂。」
「嘘ー!そうなの?」
「何か、会う度に違う女の子連れてるって男子が言ってたよ~。」
「えー!何かショックかもー。昔はそんな事する人じゃなかったのにー。」
あまり意外だと思わなかったのは、彼に裏の顔があることを知っていたからかもしれない。
「あー、もしかして土方くんの話~?」
「うん、そう。」
「ほんとやめといた方がいいよ~。」
「何~?その言い方は、何かあったの~?」
「いや、私じゃないんだけど、友達が告白してさぁ。」
「うんうん。」
「1回ヤって、それっきりだって。」
「うわー。それはヒドイ。」
「かわいそ~。」
「あとね、あとね・・・」
話の内容がドンドンと過激になってきて・・・居心地の悪くなった私は、皆が盛り上がってる隙にそっと輪を抜け出した。
女の子特有の噂話が苦手で、うまく会話に混ざれないのは昔からだった。
特に混ざりたいとも思わなかったから、別にいいんだけど。
皆から少し離れた席でぼんやりとその光景を眺めていると、何だかほんとに昔に戻ったような気がして可笑しくなった。
「何笑ってんだ?」
「あ・・・土方くん。」
「ここ、いいか?」
「・・・うん。」
隣の席に腰をかけると、ポケットから煙草を取り出した。
トントンと指で弾いて出てきた1本を銜えると、ジッポの蓋を押し上げ火をつける。
手馴れているのは昔からだけど・・・まるで映画のワンシーンでも見ているかのように思えるほど、私の目に映った土方くんの仕草はカッコよかった。
「・・・・・・フーッ。」
「・・・ねぇ。」
「何だ?」
「いつから煙草吸ってるの?」
「・・・二十歳から。」
「ふふっ。嘘つき。」
「・・・んだよ。覚えてたのか。」
「うん・・・」
あの時の事を、土方くんも覚えていてくれたのは嬉しかった。
「その事、お前しか知らねぇんだから、誰にも言うなよ?」
「何で?もう時効じゃないの?」
「・・・俺のイメージが崩れる。」
「ぷっ!」
「既に崩れてるよ」は言わないことにした。
「笑ってんなよ。」
そう言いながら少しだけ笑う口元に、ついつい目を奪われる。
「・・・・・・フーッ。・・・なぁ。」
「ん?」
「珍しいか?」
「・・・何が?」
「煙草。」
「え・・・・・・私は吸わないけど・・・別に珍しくはないよ?」
「・・・何か、さっきからお前が口元ばっかり見てる気がしたからよ。」
その言葉に、ドキッとした。
気付かれるほど見つめてしまっていたなんて・・・
「・・・気のせい・・・だよ。」
「そうか。」
それっきり、しばらく沈黙が続いた。
でも私的には、煙草を銜えるその口元を見ていられるから、そんな状態も嫌じゃなかった。
「・・・なぁ。」
急に話しかけられて、一瞬身体がビクッと反応する。
「な、何?」
「場所、変えねぇ?」
そこから、どうやって店を出たのか。
何を話していたのか。
何で、此処に来たのか・・・全然覚えていない。
気付いたら、ホテル・・・要はラブホテルでベッドに座っていた。
どうしていいかわからずにいる私とは対照的に、土方くんは落ち着き払って煙草を吹かしている。
さすが噂を立てられるだけの事はある。
そして、それにハマってしまう女の子の気持ちが今ならわかる気がする。
少し暗めの室内に、煙草の匂いが広がっていく。
見とれてしまうほどの綺麗な口元から、白い煙が薄っすらと漂っているのが見えた。
「・・・やっぱり。」
「え・・・」
「そんなに気になるか?俺の口・・・」
「あ・・・あの・・・えっと・・・」
慌てふためく私の様子に、緩んだ口元が・・・少しずつ近づいてくる。
だけど、視線は口元に釘付けになっていた。
1度だけ軽く重なった口唇。
「・・・馬鹿。目ェ閉じろよ。」
「あ・・・うん。」
今度はちゃんと目を閉じると、何度か口唇が重ねられた。
キモチイイ・・・
頭の中はそれしか考えられない。
スッと離れた口唇をつい追いかけてしまう。
「ん・・・」
予想外だったのか、土方くんは少しだけ声を漏らした。
柔らかい口唇の感覚に夢中になっていると、肩を摑まれてグイッと引き剥がされる。
「あ・・・」
残念そうな声を出した私は、また笑われてしまった。
「お前、そんなにキスが好きなの?」
「そ、そういう訳じゃ・・・」
「じゃあ、口フェチ?」
「・・・・・・」
「それとも・・・俺の口が好きなのか?」
意地悪そうに笑いながら歪ませる口元。
普段なら絶対に認めたりしないけど・・・すっかり魅了されてしまった私は、コクンと頷いていた。
「・・・欲しいか?キス。」
「・・・・・・欲しい。」
まるで催眠術。
「なら・・・くれてやる。」
口唇を重ねるだけのキスが、熱を帯びたキスへと変わる。
そして、口唇から耳。
耳から首筋へと這うように移動する。
「ね・・・もっと・・・」
「ふっ・・・わーってるよ。」
強請る私に呆れながらも、優しくて熱いキスを降らせる。
「満足するまで味わわせてやるって・・・」
まだ火照っている身体。
それは、土方くんも同じみたいだった。
目の前にある逞しい胸元からは、トクトクと少し早い鼓動が伝わってくる。
右手はしっかりと腕枕をしつつ。
左手で煙草を燻らす。
さすが、モテる男・・・と言った感じ。
「ねぇ、土方くん。」
「・・・ん」
「何で・・・私なの?」
「あ?」
「他にも女の子いっぱいいたのに・・・何で、私?」
「・・・・・・さぁな。」
少しの間、考えるような素振りを見せたが、返ってきた答えはまともな物じゃなかった。
別に、残念だった訳じゃない。
流されやすそうな人間を選んだんだろう・・・と投げかけた質問の答えを勝手に解釈しておく事にした。
腕からの温もりを感じながら、私はまた、あの“魅惑の口元”に見惚れていた。
「わかんねぇけど・・・」
「・・・え?」
「理由はわかんねぇけど・・・俺はお前を選んだ。」
「あ・・・う、うん・・・」
自己完結させた質問の答えが、まさか返ってくるとは思わず。
少し戸惑いながら視線を泳がせた。
「・・・不満か?」
煙草を灰皿に押し付けながら、視線をこちらに向けて聞いてくる。
「いや・・・不満じゃないけど・・・」
「これでも俺ァ、自分から誘ったのなんざ初めてなんだけどな。」
言ってる事がほんとなら、女の子から告白⇒流れでホテルへってパターンが噂の原因なんだろう。
「え・・・そうなの?」
自分でも気がつかないうちに、喜んでしまっていた。
それを見た土方くんの、口の端が少しだけ持ち上がった。
そして、また煙草へと手を伸ばす。
「・・・また、吸うの?」
「・・・ダメか?」
「うーん・・・・・・」
聞きながらも、手を止める事はなく。
煙草を1本取り出すと、口に銜えた。
「・・・ダメ。」
「あ?」
銜えた煙草を取り上げると、不満気な表情でこっちを見遣る。
「さっき言ったよね?『満足するまで味わわせてやる』って。」
「・・・あぁ。」
「私、まだまだ満足してないよ?」
「は?」
「一生かけて味わわないと満足できない。」
「お前・・・」
「だから、この口は私だけのもの。」
「・・・・・・」
「煙草にだって、譲らないんだから・・・」
「ふ・・・はは。・・・ったく。ワガママな女。」
「ふふっ。・・・・・・ね、もっとちょうだい?」
「仰せのままに。」
その口元に、キスの嵐―――。
~完~
―――――――――――――――――――――――――――――――――
*あとがき*
いきなり始まった『フェチな小説シリーズ』w
いや・・・何か最近ピュアな話ばっかり書いてたから、物足りなくなってさ。
ピュアが行き詰ったから、マニアックな方向に走ってみました☆←黙
幾松の小説も坂高小説も書かずにナニやってんだか・・・w←
なので、若干オトナなお話ですねw
主人公の女の子もオトナな設定だしw
あ・・・。
別に自分じゃないですからn(ry←知ってる
記念すべき1回目は≪口フェチ≫ですw
ほんとはもっとフェチを全面に押し出して書くつもりだったんだけど・・・
いつの間にやら“口フェチのおかしな女の子”の話になってしまったwww←
この妄想。
もともとは、煙草に嫉妬する女の子の話だったんですw
お相手は土方くんか高杉くんかで迷いましたが・・・
高杉くんは別のフェチに使おうと思って、土方くんにしてみましたw
最初にイメージしたのも土方くんだったしw
何か、ものっそ長いですよね(;´Д`)ノ
お付き合いいただいた方、サーセンwww
ほんとは短編の話にするつもりだったんですけども・・・
今思えば、同窓会のくだりがいらなかったような気もするwww
何でこんなシチュ妄想したんだwww←お前だろ
セリフばっかりの会話文になってしまうのが、ノア小説の特徴・・・と言うか、悪いところなんですけども。
今回は、意識してセリフを多くしてみました。
状況説明とか若干省いてみたりね。
それを書きやすかったと思ってしまうのは、やっぱ自分が説明下手だからなんだろうなぁ・・・と痛感しましたw
だけど、めげないんだからっ!d(・ω・;|||←
そんでもって、最近少し気付いた事がある。
自分、土方くんの口調が苦手かもしれない。←今更
土方くんをイメージしてるはずなのに、いつの間にか銀ちゃんになってるwww
これはアレか!中井さんへの愛が足りないとでも言うのか!←言ってない
その声優さんの声をイメージして書く事が多いので、あながち外れてないかもしれません・・・w
色々見て勉強しよう・・・orz
次回は何フェチになるのか・・・
まだ決めてませんが、またお付き合いいただけると嬉しいですw
読んでくださってありがとうございました!