辰馬誕生日記念(出遅れ) 坂高小説 | じゃすとどぅーいっと!

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≪注意≫

BL作品ですので、苦手な方はバックブラウザ推奨です。

また、激しく捏造されたお話となっておりますので、閲覧の際は十分お気をつけくださいまし。

苦情は受け付けません。悪しからず。




闇夜の虫は光に集う (壱)


「晋助、よく覚えておきなさい。」


「何?」


「死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし。生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし。」


「難しいよ・・・もっと簡単な言葉で言ってくれなきゃ。」


「ふふ・・・今はわからなくてもいいのです。」


「えー、気になるよ。」


「そうですね・・・じゃあ、晋助が大きくなったら・・・また聞きに来てください。」






まだガキだった頃の俺と、先生との約束。

それが、フッと頭を過ぎった。


もちろん、与えられた言葉を忘れていた訳ではない。

“大きくなったら聞きに行く”という約束を、今更ながら思い出したんだ。


攘夷戦争の真っ最中。

明日の為を思うのならば、しっかり寝ておくべきだとは思うが・・・

何故か今、その約束を果たしておこうと思った。


言葉の意味は理解出来ている。

だが、先生の伝えたかった事が本当にこの言葉通りなのか・・・


「・・・先生、まだ起きてますか?」


先生の部屋へと向かった俺は、襖越しに声をかけてみた。


が、先生からの返事はない。

それどころか、そこにいる気配すら感じられない。


「先生・・・?」


少し襖を開けて中を覗くと、縁側へと繋がる障子は開いたままで、先生の姿はなかった。


庭にでも出ているのかと思い、薄暗い部屋に足を踏み入れる。

すると、机の上に一枚の紙が置いてあるのが目に留まった。


『晋助へ』


無断で見てしまうのは気が引ける。

・・・だけど、やはり気になる。


紙を手に取り、月が照らしている縁側に腰を下ろした。



   晋助へ


    子供の頃の約束を覚えていますか?

    きっと、忘れてしまっているかもしれませんね。


    死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし

          生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし


    言葉の意味は、もう理解出来ていますよね。


    死んでも志が残るものであれば、いつでも死ねばよい

    生きて大事を為せるならば、いつまでも生きてそれをやればよい


    この言葉を通じて、私が伝えたかった事。

    しっかり受け取ってください。


    決して、自分の手で自ら命を絶つような真似をしない事


    これが、私の最後の教えです。




“最後”と言う言葉がやけにひっかかった。

俺は、まだ先生に教わりたい事がたくさんあるのに・・・


手紙を元の場所に置き、再び縁側へと出てみたが、相変わらず先生の姿は見当たらない。


何だか妙に胸騒ぎがしたが、先生が夜間によく出歩いているのは知っていたから、その日は大人しく部屋に戻る事にした。




明くる朝、戦の準備をしていた俺たちの元へ、先に戦へと出向いていた連中の一人が、慌てた様子で走り寄ってきた。


「皆、大変だ!」


「何だァ?朝っぱらからうっせぇな。」


しかめっ面をした銀時の胸元を掴みながら、更に言葉を続ける。


「んな事言ってる場合じゃねぇよ!大変なんだよ!」


「大変なのはわかった。だから少し落ち着け。」


ヅラに諭され、落ち着きを取り戻した奴は、一呼吸置いて話し始めた。


「先生が・・・・・・先生の首が、河原で晒しモンにされてるって・・・」


聞いた瞬間に、銀時の刀がガシャンと落ちる音がした。

そのお蔭で繋ぎとめられた意識が、俺の手からも滑り落ちそうになっていた刀を、既の所で握り直した。


「晒しモンって・・・先生が・・・・・・先生が何したってんだよ!」


宿舎を飛び出した俺は、河原へと急いだ。

追ってきたヅラの声さえ聞こえないほど、気が動転していた。


それから後の事は、あまりよく覚えていない。


変わり果てた先生を胸に抱き、ただひたすらに願っていたんだ。

先生がもう一度、笑ってくれる事を・・・


結局、その願いが叶う事はなかった。




俺の見据える未来が変わった。


先生のいない未来なんていらねぇ。

先生を奪ったこの国が憎くてしょうがねぇ。


己の本能の赴くまま。


――闇ヲ斬レ 世界ヲ壊セ――


闇雲に突っ走り。

我武者羅に敵を斬り裂き。


――全テ消エロ――


跡形もなく散らせてしまえ。


その想いだけで、日々を生き抜いていた。




そんな時・・・俺はあの男に出会った―――。






「おまん、そんな戦い方しちょったらいつか死ぬぞ。」


どこからかフラッと現れた、妙な喋り方をする男。


「・・・・・・」


「高杉晋助っちゅうのは、おまんの事じゃろ?」


「・・・誰だ、てめぇは。」


どこで聞きつけたのか、俺の名前を知っていやがった。


「わしは坂本辰馬じゃ。今日からここに配属されたんじゃ。よろしくのう。」


「・・・・・・」


「“白夜叉”と“狂乱の貴公子”もここに配属されちょると聞いた。面白そうな面子が揃っちゅうぜよ。」


ただの興味本位で戦いに参加してるような輩か。

ふざけた野郎だ。


「・・・勝手にしろ。俺は俺のやり方でやる。文句はあるめぇ。」


「ある。」


「じゃあ、違うところに行くんだな。俺は、テメェらと仲良しごっこしに来てる訳じゃねぇんだ。」


「あはははは!そうつんけんせんでいいきに!」


戦場だと言うのに、まるで遊びに来ているような態度。

この坂本辰馬と言う男の第一印象は最悪だった。






「坂本ー!この後、一杯やろうぜ!」


「おー、俺も俺も!」


コイツが来てから、ここの雰囲気は変わった。

ムードメーカーとでも言うべきか。


こんなところでこんな風にじゃれ合う様な奴らなんざ、どうせすぐに死ぬ。

精々、今を楽しんでいればいい。


俺はコイツらとは違うんだ。


「のう、高杉。おまんもどうじゃ?」


煩い。

話しかけるな。


「高杉?」


「・・・俺をテメェらと一緒にすんな。」


「何言うちょるんじゃ。共に戦う仲間じゃろう。」


甘っちょろい奴だ。

反吐がでらァ。


「はっ・・・笑わせる。俺は仲間なんていらねぇ。」


「あ、高杉!」




先生が使っていた部屋。

ここが俺にとって唯一の安らげる場所だった。


・・・先生。

待っていてください。

俺は必ず、先生の仇を討ちます。

だから、それが終わったら・・・先生の傍へ・・・


何度読み返したか知れない手紙を、眺めるのが日課になっていた。

今ではもう、一字一句違えずに思い出せるほど読んだ。


目を閉じれば、浮かぶ先生の顔。

このまま目を開けずにいられるなら、どんなに幸せか・・・


「こげなところにおったがか。」


静寂を破るその声に、しかめた顔で声の主を見た。


「ここ、おまんらの“先生”が使ってた部屋だそうじゃのう?」


「・・・・・・」


「何じゃ、その紙。恋文か?」


「・・・るせぇ。」


「見せてみぃ。」


「・・・っ触んな!」


「高杉・・・?」


張り上げた声に驚いたのは、俺自身も同じだった。

だが、これは俺以外の人間が触れていいもんじゃねぇ。


「これに触るんじゃねぇ・・・」


「・・・・・・その様子じゃと、先生からの手紙のようじゃのう。」


「テメェに関係ねぇだろ。」


「ほぉ・・・」


「・・・・・・」


「男色とは変わった趣味ぜよ。」


「なっ・・・!」


動揺したのは一瞬の事。

先生と俺の関係を、そんな言葉で汚すこの男が許せなかった。


抜いた刀を、喉元めがけて振り上げる。

が、刃は間に割って入った徳利に当たりってキーンと言う音を響かせただけだった。


「あはははは!そんなムキにならんでもいいきに!」


つくづくふざけた野郎だ。


「ここはお前が居ていい場所じゃねぇ。出て行け。」


「嫌じゃ。」


「出てけ。」


「・・・おまんが一杯付き合ってくれるっちゅうなら出て行くぜよ。」


「・・・よこせ。」


こんな奴と酒を酌み交わすなんざ癪に障る。

だが、それ以上に居座られる方が迷惑だ。


受け取った徳利ごとグイッと飲み干すと、空をそのまま突っ返した。


「これで文句ねぇだ・・・ろ・・・・・・?」


急に歪みだした視界に耐え切れず膝をつく。

目の前に立っている坂本は、空の徳利を覗き込み笑っている。


「おまん、あんまり酒は強くないようじゃのう?」


「っ・・・るせぇ。さっさと出て行け・・・」


「度数の高い酒じゃき、一気に飲むんはきつかったか。」


「いいから出て・・・け・・・」


俺の意識はそこで途絶えた。



                                         ――続く