静かに緑色の光を点滅させるそいつは、金属で出来ている点を除けばまさにカブトムシだった。先輩たちが静かに見守っている。
カブトムシは先輩たちの期待を一身に背負って、研究者の足もとを奇声をあげながら駆け回った。疲弊した研究者は、その金属の塊をひっくり返した。そいつは自ら姿勢を戻すことができない。
「壊してしまえよ。」研究者の仲間が言う。研究者がハンマーを振り上げる。金属の塊に照準を合わせ、いよいよという時に、子どものすすり泣く声が聞こえた。それはどうやらカブトムシが発しているらしいということが分かったのは、研究者がフリーズした30秒後のことだった。
「壊してしまえよ。」また仲間が促す。覚悟を決めた研究者が、カブトムシめがけてハンマーを振り下ろした。金属の塊はなかなか強靭で、数本足が取れた程度だった。泣き声に拍車がかかる。研究者がハンマーを落とした。自分の白衣が赤黒く汚れていたからだった。まるで返り血を浴びたように。
「なに、単なる潤滑油さ。」これは心を持たないロボットたちによる人間への挑戦状、記念すべき第一枚目だった。
金属で作られたカブトムシロボットには最初、人の気に障るような行動をするというタスクが設定されていた。万が一自分の身に危機を感じた時は、予めデータとして保存されていた泣き声を再生する。そうプログラミングされていた。
ちなみに赤い潤滑油の使用を提案したのは〝仲間〟だった。人間の形をした彼もまた、ロボットだった。一番人間との接触があった彼の中には『人間は血を忌む』というひとつの見解が生み出されていた。
「治せないのか」「殺すと決めたのは君だろう」怯む研究者に、仲間が畳み掛けるように返す。何もできずに呆然とする研究者を、先輩たちが静かに嗤笑していた。